80 ラー・ヌビス②
ラヌビスは、犬のくせにめちゃくちゃ歩くのが遅い。
四本も足があるのに、一本ずつ確認しながら歩くような格好をする。
これでは、いつまで経っても月の神殿には着けない。
仕方がないので俺は、ラヌビスを背負って走ることにした。
俺の背中に負ぶさって、気持ちよさそうに周りの景色を見ながら、たまに話しかけてくる。
「け・・・し・・・き・・・が・・・と・・・ぶ・・よう・・だ」
ラヌビスは、話すのもめちゃくちゃ遅かった。
話し方が変なのは、疲れていたせいではなく、元々遅かったようだ。
だから、俺はそのうちイライラし始めた。
「話しかけるな、遅すぎてイライラする」
「……わ・・・か・・・た……」
ラヌビスはしょんぼりして、俺の肩に鼻をすり込んだ。
ちょっと、強く言いすぎた……たかが犬にイライラしすぎだな俺。
早く帰りたいと思うあまり八つ当たりしてしまった。
俺は背中に手を回し、ラヌビスの首をワシワシと撫でてやった。
しかし、不思議だ。追いかけてきたときは普通に走っていたし、俺の名前も普通に喋っていた。
それなのに、今ではこうだ。
どうなっているんだ、まったく。
まあ、喋れる犬という時点で変なのだから、今さらだけど。
程なくして神殿が見えてきた。
ラヌビスは、俺の肩に足を掛けて山の方を見る。
「サンクチュアルだ。聖なる山なんだってさ」
「……そ」
「いいよ、喋れよ。もうすぐ着くからさ」
「そ・・・う・・・か」
何だよ、意味のない言葉だな、おい。
感想とかないのか。まあ、長く話されても困るけど。
神殿の前に到着し、ラヌビスを降ろして、水を与える。
入れ物がないので手をお椀のようにして飲ませる。
こいつは不思議な犬だった。
水さえあればいいと言うのだ。
びちゃびちゃと音を立てて水を飲んでいる。
俺は、水がなくなりそうになる度に「デルㇽㇽㇽ」と唱えて水を補給してやった。
この頃、水の魔法が進化してきた。
「魔法って使えば使うほど、上手くなるんだな」
門番に俺の到着を告げると、入れと言われた。
ラヌビスにはここで待っていてもらい、俺だけ入った。
ラヌビスは神殿の前に来たら、急に大人しくなった。
いつもは俺から離れないのに、ここでは隅っこで小さくなっている。
少し気になるが、そのままにしておくことにした。
ベルーダは俺を待ち構えていた。
「遅かったじゃない。なにをしていたの」
「街の観光とか……」
「そう、そういえばエルタゴーの街は初めてだったわね。それより、これ、できたのよ」
俺は渡された紙を手に取った。
魔法の写本かと思って期待したが、違った。
ベルーダが試作していた、麻で作った紙だった。
滑らかで、書き心地が良さそうだ。ずいぶん上質そうな紙だった。
「すごい、これ、たくさん作れたのか?」
「ええ、羊皮紙よりも安価で、しかも大量に作れそうよ。あなたの助言のお陰。これはあなたにあげる分」
「嬉しいけど……俺、魔法の写本が欲しい」
「ああ、それはもう少しだけ待ってね。こちらでも君がいなくなってから忙しかったの。あなたに助けられたサクラたちが、今、写本している最中よ」
俺は写本が出来上がる間、また採集人として働くことになった。
「パパス、またよろしくな」
「ああ、無事に帰ってこれて、よかった……」
パパス……何かあったのか? 目に、薄ら涙を浮かべて俺のことを見る。
「さあ、今日も頑張ろうぜ」
ぺぺは相変わらずだ。ひょうきんでのんびりしている。
俺は以前に戻ってホッとする。
ぺぺが言うにはサンクチュアルに変化があって、最終地の四階層へは楽に行けるようになったと言う。そして時間が掛からずに行けるため、魔核が多く採れる様になった。
さらに盗掘者までいなくなったのだそうだ。
「ずいぶんな変わり様だ。俺がいない間何があった?」
「よく分からないんだ。急に地鳴りがしてこうなった」
盗掘者がいなくなったのは、帝国の皇が死んだからだろう。
だが、地鳴りがしてサンクチュアルが変わった……まさか、ヌエタラとの繋がりまでなくなってしまったのか!
俺の鼓動が激しく騒ぎ出した。
「明日自分で確かめたらいい」
パパスに言われ、絶対確かめなければと思う俺だった。




