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79 ラー・ヌビス

船は寄港地に寄り、そこで修理のために一週間足止めをくらった。

その後エルタゴス国まで三日で着く。

何とか無事に帰り着けたことに皆胸をなで下ろした。

港からは馬車に乗って数時間で着く行程だった。


サクラたちが、早く大司祭様に治してもらいたいと気もそぞろだ。

船は港町、エルタゴーの街に着いた。船員たちは皆、ノビス出身だった。

エルタゴーの街はこのエルタゴス国の王都だという。


俺は初めてこの目で見る事になった。

多分ここから連れ去られたのだろうが、あの時は記憶がなかった。

神殿が国の中に浸透している。王権ではあるが、実質司祭が国を動かし、中枢に食い込んでいる国なのだそうだ。


国自体は小さい。これまで寄ってきた港の方が大きかった。

だが、エルタゴス国は中規模でも、魔法がある。


そのため、国力は近隣諸国よりも強いのだそうだ。

スファルタンの方がずっと大きな港だったし、人口も多かった。

でも、街の雰囲気や空気、整備のされ方はこっちの方がいいな、と俺は思った。


サクラたちを馬車に乗せて送り届けた俺は、自分の足で神殿へ帰ることにした。

その方が自由が利くし、早かったからだ。

早く帰って、魔法の本を受取り、ヌアタラへ戻る。

あれから何ヶ月経ったろう。


一年は過ぎたような気がする。時間が曖昧になってしまった。

この世界で一年なら、ヌアタラでは十二年過ぎてしまったことになる。

今更ではあるが、父ちゃんもチュム師も生きてはいないかも知れない。

「俺はどうしたらいい?」

俺は独り言を言う。側には犬がいてじっと聞き耳をたてている。

「俺の名前は、本当はコウタロウって言うんだ。でも、誰もここでは発音出来ないみたいだ……」


魔法を教えてやれたとしても、その後は? 

もしみんないなくなっていて、誰も俺のことなど待っていなかったなら……

「また、ここへ帰ってくればいいさ。ここで遣り直せばいい」


俺は、いつまでも俺の側を離れない犬を連れて港へ戻るため歩き出した。

犬は船員たちに面倒見てもらうことにした。

俺はヌアタラへ戻らなければならないからだ。

犬を預け終わり、じっとこっちを見る目を振り切るように早歩きをする。


――もう少しだけ街の中を見てから帰ろう。


街はまるでヨーロッパの古き時代を彷彿させる。

石畳の道。馬車。建物は石も使われているが、木もたくさん使われていた。


たまに馬糞が落ちているが、しばらく見ているとリアカーに似た荷車に馬糞を集めている人が見えた。

食べ物屋を覗くと、黒っぽい重厚な木で内装が施されていた。

海鮮料理もある。さすが海に面する都市だけのことはある。


街の所々には広場があり其処に神殿が必ずあった。

広場の真ん中には小さな噴水があり、そこでは屋台が出て食べ歩きにも最適だった。

俺は屋台で肉が入った揚げパンというのを買い、噴水の縁に座って食べた。

そこからは神殿へ入っていく人々が見える。華やいだ服装の人々だ。


きっと結婚式なのだろう。

着飾った男女が仲良く並んで歩くのが見えた。

そこから眺めていると、ゴーンゴーンというベルの音が聞こえた。

音に驚いたのか、鳥が空を飛び立っていくのが見える。

「のどかだな。外国旅行しているみたいだ」

神殿からはほんのりとろうそくとお香の香りが漂っていた。


「さあ、帰るか」


俺は街を出て走り出した。

しばらく走って足を止めた。

誰かが遠くから呼ぶ声がする。


「一体誰だ? 俺を”コウタロウ”と呼ぶのは……」


俺は立ち止まって、待つことにする。

この世界で俺を”コウタロウ”と呼べる存在がいたことに驚いたからだ。

”コタルッロとか、コトゥルとか呼ばれてばかりいたから不思議だった。


走り寄ってきたのはあの犬だった。

ドーベルマンにも似た黒犬だが、それともなんとなく違う。

気味悪くなってじっとしていると、

「ま・・・て・・・く・・・れ」

って言うか! 犬が喋っている!!!


犬は息を切らして苦しそうにゼイゼイ言っている。

「おい、具合でも悪いのか?」

「わ・・・し・・・は・・・」

「わしわ……って、ああ。儂は、か」

「ラ・・・ヌ・・・ビ・・・ス」

「……」

多分自分の名前を名乗ったのだろう。こいつ犬……だよな。

俺はあっちからもこっちからも見てクルリと一周する。

「名前が、ラヌブスッてことか?」

「ラ・・・ヌ・・・ビーース!」

おお。叫んだ。


その後、ラヌビスは「ミ・・ズ・・」と言ってぶっ倒れた。









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