77 波間に漂うもの
「止めろ!コタル ṙṙローッ!」
デルードが叫ぶ。ベルーダは訳が分からない、ただオロオロするばかりだ。
コウタロウが放つ強大な威力の魔法。
船はもみくちゃにされてしまう。
船の周りは嵐のように波立ち、十メートルを超える波が逆巻いている。
船員たちは慌てて帆をたたみ、舵を大波に向かって取り出した。
彼らの乗った船は波に向かって直角に進み、波の山を乗り越え、すぐに波を乗り越える……。
真下に向かって沈み込んでいく船体。
谷に落ち込むような浮遊感が皆に襲いかかる。
波の谷に船が叩きつけられ、ギュギッギーッと不安な音を立てた。
船の甲板は波に攫われ、柱に掴まる者、ある者は身体を縛り付け、ロープにしがみつき、海に投げ出されないように、皆必死だ。
彼らの苦難の時間は、数十分とも数時間とも感じられた。
その後、段々と波が収まり、海はゆったりとした普段の姿をを取り戻す。
船は無残な姿をさらしてはいたが、それでもなんとか浮かんでいた。
メインマストは折れ、帆は破れてしまった。
甲板には柱にくくりつけられ、気を失ったコウタロウがいた。
ベルーダとデルードは息を切らし、へたり込む。
周りでは、船員たちが何とか船を維持しようと四苦八苦していた。
港からは、波に攫われた船の残骸がたくさん浮かび海を漂っていた。
穏やかな海面には、彼らの船以外は何も見えなかった。
「一体コタル ㇽッロは何をやったの?」
「……私が教えた、風の強大魔法です……その時、魔素切れをして倒れた。帝国の盗掘者に掴まったときと同じです」
「何という威力、でも扱いがまだまだね。私たちまで巻き添いを喰らってしまった」
「今回は、以前より威力が増したように感じます」
「ええ、コタル ㇽッロは魔素の保有が人並み外れている。段々魔素が身体に馴染んできて、威力も増したのでしょうけど……帰ったら特訓しなければ。今のままでは危険だわ」
「……はい」
デルードは、海を見渡す。どこにも皇の船は見つからない。
――皇は海の藻屑と消えたたのか……。
ふと喉にヘをやると、皇につけられたデルードの印の感覚が無くなっていた。
「ベルーダ様。私に付いている皇の印、見えますか?」
「いえ……消えている……」
「皇は、スファルタン皇は……亡くなられた……ということですか」
「そうね、コタル ㇽッロの、お陰……かしら」
船室に隠れていたサクラの司祭たちが、恐る恐る顔を覗かせた。
彼女たちはまだ残っていた。
ベルーダが、コウタロウとデルードを救い出すまでここにいたのだ。
彼女等は船縁で、今まで自分達が捕らわれていたスファルの街をじっと見ている。
その一人が何かを指さし叫んだ。
船員が急いで駆けつけて見ると、板に乗った黒い犬が溺れそうになっていたのだ。
船員が海に飛び込み、犬を助け船に上がってきた。
やや大きめの犬だが、ここスファルタンでよく見かける犬だ。
ぐったりとしている。
サクラたちは急いで身体を拭いてやり、水を飲ませていた。




