74 帰還を願う皇
この世界は儂にとって住みにくい。
ここの生き物たちは、あまりにも高速で動き回りめまぐるしく儂の周りを飛び回る。
特に雌はキーキーと五月蠅い。
高音で耳障りな声で叫ぶ。
儂が一言、口を開く間に十言も二十言もまくし立てるのだから。
雄の方がまだ、聞き取れる音で話す。
儂たちが、この世界に落されてから一千年が経つそうだ。
儂にとって百年くらいしか経っていないように感じる。
ここの世界は儂の世界とは時間の流れが違う。生き物も、あっと言う間に死んで、儂にとっては小さな虫みたいに感じるのだ。
儂たちは当初、それらから隠れ、じっとうずくまって生活していた。
洞窟には、儂達の身体に必要な水があった。硬水だが、ミネラルを除去して使用することはできた。だが、日の光が届かない。
日の光も儂達には必要不可欠のものだ。
光を取り込んで空気を合成し、食べ物を作り上げる。食べ物は、嗜好品として取り入れる。別に必要ではなかったが、生きる上では楽しみは必要だった。
儂たちは、本来、光と水さえあれば、生きていけるのだ。
だがそれも終わりを迎えた。
この世界の生き物に同胞が消されてしまった。
彼らの身体は丈夫で、早く動く。儂たちの目では追えないほど早いのだ。
仲間の一人がこう言った。
「我らの力を持ってすれば、この世界を牛耳れる。このままでは一人、また一人といなくなってしまう。あの生き物たちの力を利用して、帰還の方法を探し出そう」
儂らは、この世界の生き物の形を模倣した。
飛べる形を選んだ者や、走れる形を選んだ者もいた。
そして生き物たちを観察し、弱そうなのに固まって生きる生き物がいた。
それらには考える力が有った。
儂らはその生き物の模倣をしたが、初めの模倣が完璧すぎたのか、一部分の模倣が上手くいかない。
儂らには、あの生き物たちは下等に見える。
狩りをし、草の屋根の家に住む。農耕らしき物は殆どしない。
まずは彼らに農耕を教え、建物の作り方を教える。
そうすれば彼らの上に立てるのではないか?
儂らは見つけた! 帰れる方法を。
この国より離れた場所に強力な反応があった。
儂らが使う電磁波とは違うが、変換すれば使えるのではないか?
だがそこの住人は摩訶不思議な力を持って儂らに対抗してくる。
儂らは這々の体で逃げ出した。
「何だ、あの不可思議な力は」
「あれでは、対抗できない。しかも気味が悪い波動を感じる」
「儂らは帰ること、かなわじ」
長い時間が経ち、仲間が一人、また一人と消えていく。
儂の寿命も迫ってきた。だが、あるとき気が付いたのじゃ。
儂らが最初に落ちた場所。
あの場所に電磁波を集める施設を造れば、この地の力を集めて変換できる。
そして次元に穴を開ける。そうすれば帰れる。
この上は、何としてでも儂の世界へ帰る。
儂は儂の世界で死にたい……。




