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73 好転

サクラの司祭をこのまま船に乗せるわけにはいかない。

体力が全くないのだ。

なるべく食べさせ、手足を動かすように促す。

彼女たちも一生懸命食べ、体力をつけようと必死になっている。


希望が見え、生きる目標も出来たのだ。

俺は自分の力のなさに、じりじりしてきた。


「せっかく、治癒の力が有るのに彼女達に使ってやれないとは……」


以前、写本をしたときのことを思い出してみたが、俺の頭はポンコツで、何も覚えていなかった。

デルードはどうしているかも、気になっている。

サクラたちを救ったことは、気づいているだろうか。

六人いたはずのサクラたちは、五人になっていることも知っているのか?

船の調達もしなければならない。

あまり小さな船だと揺れが激しいだろう。

やらなければならないことや、考えなければならないことが多すぎた。


俺は、また熱を出して寝込んでしまった。

まったく俺って奴は――頭を使うとこうなっちまう。


熱に浮かされている間、サクラたちは心配して、交代で俺の面倒を見てくれる。

申し訳なさすぎて、また熱がぶり返しそうだ。


「コー……ええいえ……」


多分、”コウタロウ寝ていて”。と言っているんだろう。

舌を切られてしまって、満足に話せない彼女たちだが、この頃は身振りも交えてこうやって話しかけるようになった。

お互い、身振りを交えながら話をして笑い合ってもいる。


――何となく通じるんだよな、これが。


彼女達を乗せる船が調達できそうだと、ケムが知らせてくれた。

エルタゴスの船で、なぜかこの港にずっと停泊しているのだという。

手紙を届けてくれたあの商船だろうか。


「三本マストのキャラック船だぞ。エルタゴスの豪商なんだろう」

「前に、手紙を届けてくれた船?」

「いや、その後に来たな。それからずっと港で停泊しているんだ。大きな商いでもやっているんだろうな」


もしかしてベルーダが寄越した船ではないだろうか。

手紙が届いて、手配してくれたに違いない。


俺はサクラたちにこの事を知らせた。

まだ、彼女たちの身体は元に戻っていないけど、どうだろうかと相談を持ちかけたのだ。

身振り手振りで、”早く帰りたい。もう大丈夫だと”話してくる。


「よし、まずは皆を先に連れて行ってもらおう。俺はその後に行くから」


そう言うとサクラたちが叫び出す。

俺に縋り付き、皆首を横に振るのだ。

”一緒に帰ろう”と言っているのだと思う。

だが、デルードがまだ捕らわれているんだ。それは無理だ。


「良いかい、君達がここにいれば、またデルードの足枷になってしまう。だから先に帰って身体を治して待っていて」


サクラたちは項垂れ、静かになった。

強い言い方をしたが、こうしなければ彼女達は言うことを聞いてくれないかも知れなかったのだ。

痩せても枯れても彼女たちは元司祭だ。


魔法を習得するために努力し続けてきた魔女なのだ。

こんな目に合わなければ強い女性たちだったのだから。



「コトゥル、我が連れて行こう。早いほうがいいだろう」

「頼む」


ケムに世話になりっぱなしだな。

だけど、俺がエルタゴスに帰れたとして、ケムはどうするだろう。

ケムは一緒には来ない気がする。彼は誇り高き砂漠の戦士、部族の長だった。

でも、今は一人でここにいる。

俺を、亡くなった息子と重ね合わせている……。

俺はまた考え込みそうになるのを慌てて止めた。また熱を出したら大変だ。


ケムが港から帰ってきた。


「コトゥルの言っていたとおりだったぞ。商戦のふりをしていたが、あれは戦用船だ。装甲がえらく立派だった。近くで見て良く分かったが、船腹に覆い板がかけてあった」

「船員に女の人いなかった?」

「いや、男だけしか見なかった。船の乗組員に女なんて乗せないだろう」

そうか。でもベルーダが寄越した船に違いないはずだ。

俺はやっと肩の荷が下りた気がした。











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