65 奴隷と言う仕事
この国では、玻璃グラスは宝石と同じ扱いだった。
ケムはグラスを売った金でロバを買い、街の中や、街から少し離れた神殿まで出向いて商売を始めたのだ。
俺はというと、大きな水袋を背負い、あの玻璃グラスを見つけた場所へ行き、グラスを探す。
俺一人なら、あの場所までは二日で行けた。
ただ砂の中にある宝を見つけるだけの仕事。面白いように見つかる。
帰りには、水袋一杯になった玻璃グラスを抱え、はねるように走る。
喉が渇けば、コップ一杯の水を出して飲めばいい。
宝は大金を産んだ。
俺たちは家を買い、奴隷を雇った。
奴隷には階級みたいなものがあって、家内奴隷はただみたいに安かった。
奴隷にはきちんとした取り決めがあり、給料も支払われる。
家のことはすべて彼らがやってくれる。
俺には宝を探すほかやることはなかった。
身体が大きい俺はここでは尊敬され持てた。
街を歩き、この街を興味を持って眺める。
(前世の古代エジプトもこんな感じだったのかな)
多分、まったく違うだろうが、それでも異文化に触れるのは面白かった。
まず食いもんが違う。
香辛料が豊富なこの国は、豊かな食糧に支えられてバラエティー豊富な料理が楽しめた。
麦は、街から離れた大きな河の周りで大量に採れる。
毎年の雨期の氾濫で、肥えた土が運ばれ、土地は生まれ変わる。
各地に農奴みたいな農民が、決められた期間ここに来て農作業をするようだ。
この国の農民の比率は九割もいる。
俺たちの農奴とは違うらしいが、やっていることや扱われ方は殆ど農奴と変わらないように見えた。
神殿がすごい力を持っていて、役所の役割も兼ねているようだ。
王を人神として崇め、太陽神と重ねてそれを信仰している。
不思議な国だ。
昔、村長に聞いた”天祖原”と少し似ているな、と考えたのは内緒だ。
ケムはロバを引き連れ、大きな河の辺にある神殿まで出向き、帰りには食糧や珍しい香辛料を持ってくる。
ここには何というか……そっち系のお店もある。
客引きが来て俺の腕を引っ張って
「旦那様、どうでしょう。とてもいい奴隷がおりマスです」
そんな時俺は、真っ赤になって逃げ帰る。
帰ってケムに話すと、笑い転げてしまう。
「そうだな、ここには厳格な戒律はあるが、部族によっては色々だ。我の部族だったら五人までは妻をめとれるんだがな。奴隷は妻にはなれないしな。コトゥルはどうしたい?」
「お、俺は、まだいい……」
ケムの商売は上手くいっているようだ。
彼はこの先ここに定住するのだろうか。
それとも、誇り高い砂漠の部族を、復活させたいと考えているのだろうか。
玻璃グラスをあらかた探し終え、この場所にグラスが無くなった頃、ケムが俺に仕事を探してきた。
「神殿の仕事だって? 俺に?」
「ああ、神殿では今、一大事業を手がけているそうだ。お前の知り合いがいるかも知れないぞ。お前の知り合いは、魔法を使えるんだろう? だったら国に召し抱えられているはずだ。この事業にもきっと携わっていると我は考える」
そうだった。俺は今まで何をしていたんだ。
生活することに必死で、目の前のことしか考えていなかった。
デルードを見つけ、一緒にエルタゴスへ帰るのではなかったのか。
そして、魔法の本をヌアタラへ持ち帰り、異能者たちに教えるという目標があったではないか!
「本当に俺は、馬鹿だ」
俺がヌアタラを出てから、一体どれくらいの時間が経った?
一年はまだ過ぎていないはずだ。では半年か?
半年ならヌアタラでは、もう六年過ぎている。
俺は頭を抱えしゃがみ込んだ。
「くそっ……! いや、まだみんな元気にしている。まだ間に合う」
※
この国では今、巨大な建造物を作っているらしい。
ここから離れた場所へ、石を大量に運んでいるそうだ。
その管理をしているのも神殿だ。
治水管理から、農耕の時期の見極めと神殿の仕事は多肢にわたるという。
今手がけている建造物は、王の一言から始まったらしい。
「朕、神と共にあらんことを願う」
……なんだそれ、って感じだ。
今はその建物の大詰めらしく、大事な神官たちは度々外へ出向かなければならない。だから護衛も必要になるんだろう。
大きな建造物だから川の近くへ行けば見ることが出来るかな。
俺を雇った神官は、川の近くの神殿にいるらしい。
俺もその内、見られるんじゃないかな。デルードもきっとそこにいる。




