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64 玻璃

俺達はスファルの街に入った。

ケムはすぐに商業ギルドに加入し入会費と税を払い、すぐに戻ってくる。


「さあ、コトゥル。まずは宿を取るぞ」


宿は飾り気のない、四角い箱のような建物だ。

日干しレンガを使うため強度はあまりないと、ケムが言う。

だが敷地は広く大きく、中庭がありその中庭に井戸が据えてあった。


「この井戸は使ってもいい水だ。宿賃に含まれているからな。だがあの共同の水場はダメだぞ。水の代金を払っても、まともにはくれない。俺達はよそ者だ。新参者は警戒される」


”水はただ”という世界で暮らしてきて、ここまで貴重なものとは中々理解できない俺だった。

だが、確かに命を繋ぐ水は大切にされるべきものなんだろう――この頃やっと分かってきた。


俺達はまず、井戸に向かい旅の埃を拭い取る。

ケムを見習い、少量の水で身体を拭く。そして腹一杯水を飲んだ。


部屋に入り大きな袋を床に下ろした。

ここまで背負ってきたのは俺だ。多分六十キロくらいはあるだろう。

まるでサンタクロースみたいだ――

この世界ではサンタさん何て知らないだろうけど……。


部屋の中は暗くひんやりしている。宿は一階建てで、それぞれの部屋から中にはへ出ることが出来た。木戸で、動きが硬いドアだった。

蝶番はなく、木の棒が蝶番の代わりらしい。

内側には簡単な横棒があり、鍵の代わりとなっていた。


窓は小さく、ガラスなどは嵌まっていない。

木で格子が組まれ、そこから明かりを取るようだった。

今は一枚の厚手の布で窓は覆われていた。


「さあ、コトゥル。出して見せてくれ」

「うん」

俺は砂漠の道中で拾った宝物を、ざざーっと床にぶちまけた。


「これは高く売れるぞ。我らはなんて幸運に恵まれたんだ」

「……そうだね。これ、ただのガラスだったら笑えるな」

「え?」

ケムは、俺のことを変な目で見た。


だってそうだろう。重い荷物を担いできて、宝石だと思っていたのがガラスだったら、誰だって笑うさ。


俺達がここに来る途中――十日前だったか――大量の雨が降ってきた。

土砂降りというだけでは足りない、バケツをひっくり返したような雨だった。


俺は口を開けて大喜びしした。

雨が上がると、目の前には大きな水たまりが出来上がっていたのだ。

俺は喜び勇んでして水に飛び込み、そしてこれを見つけた。

三十センチくらいしか深さがない水の底で、日の光を浴びてきらめいていた。


「ケム! 何だろうこれ、ダイヤモンド……かな」

「お、これは、でかしたぞ。宝だ!」


ケムは早速石をより分け始めた。二十センチから三センチまで大きさも色も様々だ。


大きな物は三個くらいしかない。ほとんどが七センチ前後だった。

ケムはさらに色分けをして、濁っているものを小袋に入れ始めた。


「我は、もう一度ギルドへ行ってくる。コトゥルはこれを見張っているよ」

「うん」


ケムが出かけたあと、何気なく大きな石を持ち上げ光にかざそうとした。

その瞬間、手が滑り石を床に落してしまった。

ゴン、と鈍い音がして、石は二つに割れた。


「これ、やっぱりガラス……だったのか……」


気落ちして床に寝転んでいると、間もなくケムが帰ってきた。

「は、は、今夜はごちそうだぞコトゥル。あんな濁った玻璃グラスでも高値が付いた……どうした」


「こんなのただの偽物だ。宝石じゃなかった」

「いや、これは本物の玻璃グラスだ。特権階級どもがこぞって買う、珍しいものなんだぞ」


俺はハッとした――確か古代エジプトの墓からガラスが出て、貴重品だったと聞いたことがあったのだ。


ここは、エジプト文明みたいなところなのか?

そういえば、ベルーダも言っていたではないか。

帝国の記録媒体はパピルスだと。





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