表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/124

62 その夜

「我には、十二歳の息子がおってなぁ……」

いつものケムの話が始まった。

俺は、手枷と足枷をそっと外す。周りにはぐっすりと眠り込んだ奴隷たちが十人ほどいた。


小さな天窓から月明かりが入って明るい。今夜は満月だと分かる。


『まずいか……俺は気配が消せるからいいが、ケムは無理かも知れない』


ごにょごにょと独り言を呟くと、ケムが俺の方を向いてそっと言う。

「お前も眠れないか。我もだ」

しばらく迷っていると、外が急に騒がしくなった。

――クソッ、今日はもう諦めよう。


通路をバタバタと看守たちが走り回っている。

違う音もするが……何だ?

うなり声、それも複数だ。


奴隷たちも起き出しざわざわし始めた。

ドアに耳を押し当てる奴までいる。

すると、鋭い悲鳴があちこちから上がった。獣だ!

獣が逃げ出して看守たちを食い殺している!


奴隷たちは怯え牢の隅に固まった。

俺はケムの手を取り、

『走れ!』

と、叫んだ。ケムも普段見せることない険しい顔をして俺の手を引き、こう言った。

「待て、もう少しだけ待つんだ。獣たちは今腹を満たしている。それが終われば武器を手に入れ、堂々と出て行けるようになる」



ケムの言った通りになった。

獣たちは腹を満たすと檻に戻ってしまった。

折角自由になれるのに……不思議なものだ。

ケムが、奴隷たちに話している。

「逃げたい奴は逃げてもいい。だが掴まるなよ。今度こそ殺される」

奴隷たちは銘々勝手に逃げ出した。


皆がいなくなってから、徐にケムは行動を起こした。

「クトゥル、これから看守の部屋へ行って武器を取ってこよう。そして着替えがあればもっといい」


看守の部屋には武器も着替えもあったが、俺に合う服はなかった。


「クトゥル、お前は我の護衛ということにする。何を言っても頷いておれ」


ケムは身軽に走り出し、二人とも誰何されることなく抜け出すことが出来た。

「は、は、金も手に入れたぞ。ここから砂漠はすぐだ。我の部族はもう無いが砂漠の知恵はある。クトゥル、ついてこい」



ケムは真っ直ぐ砂漠を目指した。

俺は何も知らないので付いていくしかない。

迷いない足取り。ケムは細長い窪地のようなところをひたすら歩く。


『こんなところに来て大丈夫なのか?』

俺は段々心細くなってきた。息子を亡くし、部族は散り散りになってしまったケム。頭がおかしくなっているのでは?


食いもんは大きな袋に入っているので心配ない。

看守は食いもんを貯め込んでいたのだ。

獣たちに与えるのをちょろまかしていたようだ。

『自業自得だな』


だけど問題は水だ。水を持ってくるにも入れ物がなかった。

革袋は獣にかみ切られてしまっていた。

俺の水魔法は拙い。コップ一杯分も出ないのだ。

デルードが言っていたことが思い出される。


――砂漠のようなところで水を大量に出せば、魔素が枯渇する。


あの魔法を放って気を失った俺は、魔素枯渇状態だったんだ。

こんなところで倒れれば命取りになる。


ケムは、ある地点で止まり、何やら空をみてまた歩き出す。

『何してんだ?』


砂漠の夜は凍えるような寒さだ。でも俺は案外と平気だ。

ほとんど裸だが、身体の中を熱が廻り寒さには耐性があるみたいだ。


ケムもちゃんとした服を着て、さらに白茶けた大きな布を身体に巻いていた。

俺にもその布を寄越したが、俺は着ないでただ肩に掛けているだけだった。


「さあ着いたぞ」

ケムがそう言ったのは、空がオレンジ色に染まりだした頃だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ