61 クトゥル
ここにいて、何が腹立つって――名前も違う呼ばれ方をするのもそうだが、棒で小突かれることだ。
「クトゥル! *****、****」
怒鳴られて、小突かれ牢から出される。
そして闘技場に無理矢理追い出される。
言葉が分からない俺の事を、馬鹿だと思っているようだ。
彼奴らは多分こう言っている。
「クトゥル、こい、クソバカヤロウ」
みたいに……頭は悪いかも知れないが、馬鹿ではないつもりだ。
俺のノルマは午前中二回。午後二回だ。
他の奴隷は一日一回なのに……何でだ。
俺が呼ばれる度に、剣士の親父奴隷は悲しそうな顔をする。
『心配すんなって、またぶっ潰してくるからさ』
グッと親指を立ててニカッと笑って闘技場へと出て行く。
こっちの流儀は違うかも……と、ちょっとだけ思うが、知ったことではない。なんせしきたりも何も分からないスファルタン帝国だし。
言葉だってまったく通じないんだ。
ただ、食いもんだけはたっぷり喰わせてもらえる。
俺達奴隷が戦う姿を見に、客が押し寄せてくるんだ。ヘなっちょい戦いなんかしたら、興行主が客に吊し上げられるな。多分。
今度の戦う獣は……意気込んで闘技場の真ん中まで来ると、向こう側の柵が上げられ、人が走ってきた。
三人、剣を持っている者、盾を構える者、そして棒に鎖がついた、あれ、なんていう武器だ? フレイルか……
人と対戦したことはなかった。
『どうすんだ……殺してしまってもいいのか?』
「****、*****」
何か言っているが、何となく伝わった。
「お前は、もう死んでいる」……みたいな言葉だ。だってニヤニヤしているし。
だから俺もいってやる、大声で
『三分だ、三分以上は、いらねェーーーッ』
そして飛び上がりフレイル野郎の後ろをとる。観客は騒ぐ。
俺のしったことじゃない。おまえらの掛け金なんかなっ!
そいつの首に手刀を振り下ろす。
そいつは、白目を剥いて倒れ込んだが俺は次に向かう。
剣士だ、そいつの横に回る。
しゃがみ込んで足をすくい上げ、盾の野郎に投げつける。
二人はもんどり打って転げる。
そこに飛び込み首を絞め落す、二人同時に、だ。
何せ、手かせが嵌まっているから、俺には……
!ッなんだ――今何か頭の中に入ってきた。
剣士の頭を抱え、死なないように手加減していると、俺の中に意味の分からない言葉が直接入ってきた。
俺は呆然として、敵から離れ、そして闘技場をあとにする。
一人になって考え込んだ。
確か、ベルーダは、俺には”同調、共鳴、シンク”があるといった。
では、さっきのは剣士の頭と同調したってことか?
……他の奴の頭も触らせてもらったが、そんなことはなかった。
そうか、気を失っていたからか!!!
その日から相手の言っていることが分かるようになった。話は出来ない。難しい発音で喉の奥で、ンとかスとか言っているような発音だ。
だから、はい、いいえは出来る様になった。
これができるだけで、俺の世界は広がった。
剣士の親父奴隷の言葉が分かる。
彼の名前は、サフラ・ケム。砂漠の一族の長だった。
部族同士の戦いで敗れ、息子と一緒に奴隷に売られた。息子は十二歳だった。
そして獣との戦いで死んだ。
彼が毎夜同じ話を俺にしていたようだ。
今、その内容が分かった。
言葉が分かるようになった俺は、ここから抜け出そうと思う。
ケムもつれていってやろう。
まずはここの構造を調べる。
毎夜牢からこっそり抜け出す。俺にとっては造作もない。
錆びかかった牢の蝶番は簡単に壊せた。
俺の枷も、見た目だけ繕い、壊れている様には見えないよう工夫する。
この建物は通路が真っ直ぐで、簡単な造りだ。これなら問題はないだろう。




