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55 ベルーダの暴走

ベルーダは、俺に魔法の分厚い本を手渡し「書き写しておきなさい」と言い残して、どこかへ行ってしまった。


ベルーダの執務机に座り、見覚えのない文字をひたすら写した。

意味など分からないが、それはあとから書き込めばいい。


書き写しながら、前世の記憶を辿っていた。

「パルプって、確か木の名前ではなかったよな。色んな木が砕いた総称……だったような気がする」


ブツブツ独り言を言いながら時間が過ぎ、腹が減ってきた。

少し休憩して、厨房を覗く。

神殿の厨房には、ノビスの知り合いがいる。


「こんちわー」

「お。コタルㇽッロ。帰ってきたか」

「うん、腹が減った。何かないか」

「ああ、これなら喰っていいぞ」

堅く焼いたパンに、しょっぱい豆をペースト状にしたパテをつけたパンを囓り、茶を入れて飲む。

ここの茶は所謂ハーブティーだ。ほんのりと青臭いがすっきりした味わいで俺でも好きな味だった。


パンは固くてやや酸味がある。

天然酵母を使って発酵させている。気泡が開いているが、生地は密でむっちりとかみ応えがあった。腹持ちはいい。

これでしばらくは腹が落ち着く。

……さあ、もう一踏ん張りして書き写すか。


薄闇に包まれて文字が見えにくくなった。

そしてベルーダが帰ってきた。

「コタルㇽッロ! ちょっときて、見て貰いたい物があるの」

「エエーッ! もう夕方だよ」

「いいから来なさい」


ベルーダに引っ張られてついた先は、ノビスの集落だった。

俺が知っているノビスの家とは違い、倉庫のような場所に入って行く。


そこでは、以前テレビで見たような紙すきの光景が広がっていた。

夕闇の中で仕事はもう終わりかかっていたが、確かに似ている。

「紙すきの技術が……あるんだ」

「なにいっているのよ、あなたが言っていたんでしょう。聞いて回ってここだと言われて……もう散々探し回ったのよ!」

「いや、驚いただけだ。で、ここで木の皮を洗ったりもする?」


一人のノビスが怪訝な面持ちで言う。

「木の皮なんか使えねぇです。あっし等が使うのは襤褸布を砕いて平たくしているだけです」

「ぬのー? なんで?」

「布は使わなくなったら棄てるのはもったいねぇ。だから伸ばして包み紙にしてるんです」

へぇ……場所が変われば、布の再利用の仕方が変わるんだ。

俺の村では襤褸は、ぞうきんやおしめにしたんだが。


ノビスたちが作ったという”紙”を触ってみたが、これには書く事が出来そうもない。

堅くざらざらしている。

こんなに行程が似ているのに……なぜ植物紙を作れない?


桶に入った水を見る。

襤褸のなれの果て……細かく砕いた繊維が浮いていた。

手に取って見れば固まってしまう。手を開けばブツブツとした塊が細かくばらけ、色も黒みがかっていた。

「これ、白くならないのか?」

「んーん、灰汁で煮れば白くはなりますが……何でまた」

「書き物に使いたいからさ」

「……」


確か、湿気の多い場所でないと、粘り気のある木は育たないかのではなかったか? ここはからっとした気候だし、俺には木を探す時間もないんだ。

この際、布の紙で代用してもらおう。

ベルーダに付き合って時間を潰すのは避けたい。

技術はあるんだから、あとは白くなめらかになればいいだけなんだ。


ノビスは、神殿の衣服も作っている。どうやって作っているか、素材は何か事細かく聞き出した。


近くの農家が加工した麻を買い受けて、それで司祭たちの服を作っているらしい。なめらかな麻の下着やシャツは高級品だ。

その下げ渡しを彼らが纏い、襤褸になったら、こうして紙に加工していると教えてくれたのだ。


だったら、その加工済みの麻を使えば、上質な紙が出来るのではと、俺は閃いたんだ。すごくね、俺。






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