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53 穴

コウタロウが穴に吸い込まれた途端、靄が立ち上り魔物が次々と生まれ出す。

今まで見たこともないような異形だった。

「まるで亡霊だ……」


靄自体が魔物に変化しているように見えるが、果たしてこれは現実なのか。


異能たちは慌てだす。


「慌てるでない! さあ、やるぞ。これからは私達の出番だ」


ソク・タラの叱責に異能たちも落ち着きを取り戻し、一体一体と魔物を屠って行く。

しかし、程なくして魔物が消え、あとに数個の卵が残された。

「これは……どう考えれば良いのだ?」

「御領主様、この卵、襲ってきませんが……どういたしましょう」

ソク・タラは暫く逡巡したあと、持ち帰ることにした。


――コウタロウが入ってしまったあとだ。誰にも本当の事は分かるまい。


卵の様子を逐一観察すれば、何か分かるかも知れないのだ。



俺は黒い玉から踏み出す。


そして振り返ってまじまじと大きな黒い玉を見る。


玉は、硬質な表面をギラリとさせ、俺に語りかけているような雰囲気を醸し出している。

玉の表面は俺の鼓動に合わせギラリ、どろりと交互に脈打つ。


「お前は一体何なのだ?」


だが、玉はそのまま脈打つばかり。

「まあ、答えられても気味が悪いだけだしな。暫くは、見逃してやるさ」

負け惜しみのような捨て台詞を残して、四階層の入り口へと向かった。


四階層では、採集人たちが卵を探し歩いているのが見えた。

「おーい」

俺が叫ぶとぺぺは走り寄ってくる。


「コタルㇽッロ。もう帰ってきたのか。ベルーダ様は一年は帰れないって仰ってたのに」

「へ? もうって……一年たってないのか?」

「お前がいなくなってから二ヶ月くらいだぞ」


どういうことだ? ああ、そうか時間がずれていたんだっけ。それにしても……。


ない頭で考え、計算してみる。「十二倍?」

「もしかして、三階層がまた変わった?」

「よく分かったな、あの後すぐに時間の歪みが変わったらしい。ベルーダ様が仰っていた」


パパスがゆっくり近づき、俺の服装を見て、ブスッとした声で言った。

「本当だったんだな。異界の住人だというのが……」

「ああ、俺、ベルーダ様との約束を守って帰ってきたんだ。魔法をちゃんと習うためにな」

「そうか……なら、折角だ。ベルーダ様に土産を持って行け。お前の得意な魔核探しだ。手伝え」

「ああ、任せろ」


その後、三十個ほどの死にかけた卵と三個の魔素が詰まった卵を抱え、ベルーダの元へ向かった。


三階層ではパパスの後を追い、はぐれないように気を付けた。

足音が、地面に着く前に聞こえたり、逆に遅れて聞こえたりする。

空間は相変わらず歪んでいて、近くの物と思っても中々近づけない。


以前より時間が延びたり縮んだりして、落ち着かない場所になっていた。

サンクチュアルを出たとたん、ホーッと息を吐き出す。


「今回もそうだけど、戻るのに三日はかかるようになってしまった。また以前に戻ってしまったよ」

ぺぺが、困ったように眉をハの字にして言った。


誰かが知らせに行ったのか、ベルーダが神殿の戸口で待っていた。


「よく帰ってこれたわ。でも、まだ魔素の漏れがなかったようだけど……」

「……あとでお話があります」

「ええ、聞かせて頂戴――その前に着替えなさい。何なの、兵士みたいなその格好。まるで帝国の戦士みたいで嫌だわ」







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