52 チュム師からの提案
コウタロウから、恐ろしげな事実を伝えられた。
「俺、もしかして……魔物かも知れません」
何を言っているのか、初めは理解できなかった。
確かにコウタロウは異質だ。
物事の核心を突き、これまで打開できなかった不可解な現象を解く鍵になってくれたのだ。
「だからといって魔物などと……確かに初めは私も疑ったが……」
「俺、穴に入っていけます」
それはそうだろう。穴から出てきたのだから、入れるのも当然だ。
その為に準備をしてきたのではなかったか。
だが、彼は違うという。
「堅い穴に手を入れてみたら、入っていけたんです。だから今のうちに俺が入って穴を塞げば、最小限で被害を食い止められるんではないかと……」
!
驚きすぎて言葉が出ない。
そうだ……穴の周りを異能で取り囲んでおけば、確かに被害は少なくて済む。しかも前もって準備ができる。
だが、それができるコウタロウという若者は、一体何だ。
魔物か、人間か。はたまた違う生き物なのか。
だがソク・タラは実際的な男だった。
……これは好機では無いのか。
未だヌクタラは発展途上だ。
あと数年、それだけの猶予があれば、兵を鍛え、他国や自国に対しても守りを固めることができる。
そして、異能が増えた暁には、穴に対しても”攻略可能”になる。
腕を組み、じっくりとこれからの展開を頭の中で組み立てる。
だがそれは、端から見ればほんの数秒のことだった。
ソク・タラは、コウタロウを真っ直ぐ見据え、決断を下した。
「あと十日、その間に卵を出来るだけ集めたい。その後は――コウタロウ、お前に託す」
「はい!」
※
卵は全部で二十個。これ以上は無理だ。
もう周りに飛び散り始めている。
異能たちは日々、踏み潰している。
これの中から死にかけを見つけようにも見つからない。
まだ、時期が早すぎるのだろう。
今までは、数ヶ月掛けて卵が増えそして遺跡から飛び出し――魔物化するか死にかけるか。
そこはまだ疑問が残るが、兎に角最高の卵は手に入れた。
十四歳が殆どで、十五歳が二人、十三歳が一人選出され、彼らは喜んで飲んでいる。
不味いと言いながらでも……。
一ヶ月過ぎた頃から彼らの力が、段々馴染んでいった。
身体能力を発揮する者、気配を消せる者――様々だ。
本当はここで適性を分かってやれたらよかったのだが、今の俺には無理だった。
「自分達で試してみてくれ。魔法は……心で念じて「デルㇽㇽㇽ」と唱えれば良い……かもな」
「先輩!」
「何だ」
「デルṙṙ、で良いですか」
「……そうだ。上手だな、お前……」
巻き舌出来ないのは、俺だけだったという衝撃の事実を、今知ってしまった。
彼らは心で念じ、火、水、果ては風まで出して見せた。
しかも威力はそこそこあったのだ。
俺はさらに落ち込んだ。
もういいだろう。俺に出来ることは、もう見つからない。
父ちゃんのところまで走り、木の影から野良仕事をしている家族を見た。
小さく「行ってきます」と呟く。
そして宿舎まで引き返して荷物を背負った。
「さあ、やるぞ。これは俺にしか出来ない仕事だ」
周りには異能たちが囲んで、チュム師の補佐をしていた。
俺は勢い込んで遺跡に入る。
俺の動向を逐一見て、魔物がいつ飛び出してもいいように配置につくためだ。
小さな穴に手を翳してもう一度だけ、弾かれないかの確認する。
「そうか、やるしかないんだな……」
手を思い切って穴に入れると、ズブズブと身体がめり込み始めた。
ゾワゾワッと背中に氷が入り込んだような寒気が走る。
背中にはチュム師の強い視線も感じられる。
――えい!ッままよっ!
身体が総て収まったと思ったら、周りは漆黒の闇。
『魔素の流れを感じるのよ』
ベルーダの声が頭に響く。
魔素はちょろりと抜け、そしてたまに途絶えている。
『そうか、穴に蓋があって閉じたり開いたりしている感じだな』
俺はその蓋をしっかりと閉め、周りに粘土を詰め込むイメージで「デルㇽㇽㇽ」と呪文を唱えた。
穴はしっかりと閉じた感覚があった。
俺は外に押し出されようとするのを感じたが、なんとか踏ん張れる。
自分の足で歩き魔法の国へ行こう。
そこでふと思った。
だったら、ヌアタラへの帰れるのでは? だけど今俺に出来ることはない。
ヌアタラは俺なしでも回っている。
魔法の勉強をしなければならない。
俺はゆっくりと踏み出した。




