48 父ちゃんと母ちゃんそしてジロウにサブロウ
戻ってきてから十日経っても、俺の服装は魔法世界にいた時のままだった。
つまり、黒いローブに茶色のサッシュという司祭見習いの格好だ。
だから始め、チュム師に魔王だと勘違いされたのだと思う。
今もその格好のままだ。俺に合う“戦ごろも”がないためだ。
身体が大きくなりすぎて特注になってしまうから、少し待てといわれている。
俺は、行方不明者のままになっていて、チュム師が上手い具合に書類を操作してくれた。今は、何とか領兵扱いにしてもらえた。
今の俺の仕事は、領内の見廻りとチュム師の伝令(使いっ走り)をしている。
急ぎの用事があると呼ばれて、どこへでも走って用事を伝える。
馬を使う伝令より早いそうで、便利だと褒められている。
ここにはパヤン先輩もいた。
「よく戻ってきたな。俺は信じていたぞ、お前は死んでいないってな」
と泣いて喜んでくれた。
「しっかしデカくなったなおめぇはよう、まだ伸びるんだろうか」
「俺、これ以上は大きくなりたくねぇ……」
そうはいっても、こればっかしはどうにもならないかも。
卵のせいなのか、それとも生まれつきなのか。
遺跡は不活性期に入り、穴はまた黒い小さな塊に戻った。
それでも見廻りは欠かさないで続けなければならない。
二十年から五十年という不確実だった周期が、六年、五年と縮まってきたからだ。
万が一、二年とか一年になったら大変だ。
今回の活性期の犠牲者はいなかったが、それでも怪我人はいた。
三十人の軽傷者が出たのだ。
魔物の殆どを異能者が片付けたそうで、俺は驚いた。
チュム師は死にかけの卵を見つけ出し、戦士に飲ませ、異能者を増やしたらしい。
卵を飲んだ戦士の年齢は、二十三歳が一人とその他は皆三十歳を上回る年齢だった。
彼らは、遺跡には入れるし、魔物たちは敵意を見せない。だが、他の力はほとんどないようだった。
俺は、魔法世界で学んできたことをチュム師に伝えた。
「何だと。十三歳から飲めば異能の力が格段に違うというのか!」
「はい、彼方の世界では成人の儀式に卵をもらい、その後魔法の勉強をして時間を掛けて魔の力を馴染ませていくそうです。でもあまりに低年齢だと魔に取り付かれてしまうんだ、といわれました」
俺がそう言うと、チュム師は俺から少しだけ離れて目を反らした。
「そ、そうか、君は大丈夫だ。問題はない」
“チュム師、俺、魔物じゃないですからァ”、と言いたかったが、自分でも確信が持てないので黙っているしかない。
「ところで君のご両親のことだが――」
「え、父ちゃんたちに何かあったんですか。まさか……」
「勘違いするな。最後まで話を聞きなさい。君のご両親がこちらに来る手続が済んだ。来月辺りになるだろうが」
「でも、うち……」
「いや、農奴ではなくなった。私が買い上げて農地を与える。これがこの領の政策だ。君の村から他にも来るようだぞ」
俺の目は今、零れて落ちるところだ、きっと。
驚きすぎて言葉も出なかった。
ここヌアタラ港から天祖国の港まで商船で二日の距離だという。
なんて近かったんだ。
父ちゃんたちは家財一切を置いてくるだろう。
船賃が高くて、とてもではないが荷物など積めないに違いない。
だから俺は、前もって父ちゃんたちが住む家を見てきて、必要なものをそろえることにした。
今の俺は高給取りだ。
金は使い方が分からないから、どんどん貯まっていくばかりだ。
今使わなくていつ使う?
そして、はた、と止まった。
「一体なにを買えば良いのか……」
「チュム師、俺に一日休みをくれませんか」
「ああ、良いが、一日で良いのか? 君は殆ど休んでいないようだが」
「じゃあ、二日下さい。お願いします!」
俺は急いで、遺跡を抜け、岩山を登り、岩の荒野を抜け、山を登った。
そして懐かしい我が家に帰ってきた。
「母ちゃん! ただいまあ」
「ヒッ! ぎゃああっ」
母ちゃんは小さな男の子を背負い逃げて行ってしまった。
「なんで……」
暫く待つと、戸口から父ちゃんが覗いている。
「こ、コウタロウか?」
「うん、ごめん、驚かしてしまった」
それからはお互い笑って元通りとなったが、母ちゃんが背負っているのは俺の新しい弟だった。
名前はサブロウ。やっぱり名付けのセンスはないようだった。
ジロウもいた。ジロウは俺の事を覚えていた。
「あんちゃん! おいらも戦士になりたい」
そんなことを言うようになったのかと、ちょっとだけうるっときた。
「ジロウはこの家の跡取りだ。だから戦士にはなるな。分かったな」
「……うん」
俺が必要な物が無いかと聞くと母ちゃんが、
「コウタロウ、お前、力が有るんなら、鍬と鍋、持って行ってくれないかい?
お前からもらった金で買ったもんだ。粗末にできないだろう」
そうか、俺が持てる分なら何とかなりそうだ。
「分かった、じゃあ、今持って行く」
俺は持てるだけ持って、一旦自分の宿舎の庭に置き、また家を目指す。
二往復して、その日は懐かしい家に泊まった。
明日も持てるだけ持って行こう!




