47 コウタロウの帰還
魔素の流れに沿って出口を目指して飛び込んだ。
靄が薄れて、周りを見ると魔物がいっぱいいる。
「やっぱりだ。ここは遺跡で、今、穴が開いたってところかな」
向こうから、チュム師がゆっくり近づいてくる。
懐かしい顔だ。チュム師は少し老けて見える。
「何年経ったんだ? 二十年は経っていないはずだ。だってチュム師が生きているんだもの」
俺の前で立ち止まったチュム師に、嬉しくなって大声で挨拶をする。
「チュム師! お久しぶりです――」
チュム師は俺に切り込んできた。
――おっと、あっぶねぇ……また魔物と勘違いされた!
おっかない顔をしたチュム師から、あちこち逃げ回っているうちに、
遺跡の周りから靄が穴に吸い込まれていく。
そして、魔物たちが消えていった。
それで俺は、もう一度大声で叫んだ。
「俺です、コウタロウです。戻って参りましたぁー」
チュム師は一時、静止画のように動かなくなった。
俺は懐かしすぎて、にこにこ笑っていたらしい。
チュム師はつかつかと歩み寄り、バコンと俺の頭を叩いた。
「馬鹿もん。驚かせおって! ニタニタ笑うな!」
「はい……」
叩くことはないだろう。
でも痛くない。俺の頭が堅いのか、チュム師が手加減してくれたのか。
「穴は、塞がったようだな――よし、コウタロウ、今までのことを聞きたい。ついてきなさい」
※
「魔法世界だと――本当の事なのか?」
「はい本当です、見ますか? 俺、魔法出来る様になれたんです」
俺は砦の裏に行き、チュム師に魔法を披露する。
「デルㇽㇽㇽ……」
俺の手に小っさい火がポッと灯る。
「これをどうするんだ? カンテラの方が明るいのだが……」
「えと、油入らず……です」
「……まあ、よい。役には立たんが、魔法と言われればそうかも知れん」
俺はチュム師についていって、新しくできた街へ行った。
チュム師は馬に乗り、俺はその隣を走る。
半日ほど走ると、港がある街に着いた。
「ここって、以前来た港ですか?」
「ああ、そうだ。ここは私の領になったんだ。そして今私は、チュムではない。だから領主かソク・タラと呼ぶように」
チュム師をソク・タラとは言えないし、領主様って何となく馴染めない。
俺にとってはチュム師、なんだけどな……。
チュム師はまだ仕事があるというので、一人で街の中を見て回る。
結構賑やかな街だ。サンバラほど大きくはないけど、皆生き生きしている。
街には大きな通りがあるけど、真っ直ぐではなく、緩く蛇行する道だった。
「これはなぜカーブしている?」
近くにいた店主が答えてくれる。
「魔物を討伐しやすくしているんでさ」
そうなんだ。チュム師はずいぶん考えて街造りをしたと分かった。
港には大きな船が停泊していて、たくさんの荷物を積み込んでいた。
――ここにも産業が芽生えたんだな。
さっきチュム師は、俺がいなくなってから五年経ったと教えてくれた。
たった五年で、こうも変わるものかと驚く。
街を出て、南を見ると、田んぼが一面に見えた。
河が流れ、水が引きやすい良い場所だ。
今は植え付け前なので、水が張られて田んぼが鏡のように輝いて見える。
どこまでも広がっているように見えたが、よく見ると田んぼの中に住居があった。
「農奴……がいるんだ……」
側に立っていた門番が、俺の言葉を聞きかじって、こうまくし立てた。
「とんでもねぇ、ここには農奴はいないんだ。皆自由民だ。きちんと税を払う、れっきとした領民だ」
「そうか! 悪かった。ここは凄く良い領だな。俺も、多分ここの領民になれる……はずだ」
俺は自分で言っておきながら、不安になった。
五年も行方不明になって、今、サンバラの戦士だと帰っても、首を刎ねられてしまう? 脱走兵だと言われてしまうかも知れない。
俺はチュム師のところへ、急いで走って行った。




