46 魔物の襲撃
ソク・タラはこの日に備えていた。
魔物が出たと知らせを受けてから二ヶ月間、死にかけの卵を探し回ったのだ。
今では異能の戦士が二十人を超えている。
『これからは負けはしないだろう。戦士たちとも打ち合わせを済ませた』
万全の準備。それは遺跡に作られた石塀にも見られた。
V字型の石の塀――建造物と言った方が早い。
三メートルほどの高さがあり、戦士が上からも攻撃できるよう厚みを持たせた堅固な造りだ。
V字型の塀は所々に配置され、魔物たちの突進を受け止めるための特殊な造りだ。
遺跡をまるごと覆うのは避け、あえて逃げ場を残し、数人の一般戦士で魔物を狩れるように工夫が施されていた。
ここに堀を廻らしたかったが、時間が足りなかった。
先回から五年しか経っていないのに、穴が活性化し始めてしまったからだ。
『クソッ……あと一年あれば、もっとどうにかできていたのに。愚痴を言っても始まらない』
あと、できることと言えば、異能たちに卵を踏みつけてもらうくらいだった。
ここ、ヌアタラ領はできてまだ五年だ。
ヌアタラの領都には今、三千人の領民がいる。
そして農地は南と西へ広く延びつつある。
ソク・タラが推進した”開拓民地税”は画期的な制度だった。
農奴をサンバラ王から受け取り、彼らを自由民とした。
そして、近隣の農奴も買い受けて自由民にした。
農奴だった彼らは今、自分の土地となった農地を喜んで耕している。
開拓民地税は五割だ。多くもないが少なくもないだろう。
だが、彼らが働けばそれだけ豊かになれる――それがこの制度の肝だろう。
ヌアタラの領都は港湾都市で、穴のある遺跡から離れている。
だが”安全な距離”かと言われれば――不安が残る。
それでも、万全は尽くした。
領都民には、この日が来たなら家屋に隠れているよう周知している。
穴が開けば半鐘を鳴らす。それを合図に民は家に籠もる。
穴が自然消滅するまでの間、時間稼ぎをするだけだ。
「さあ、来るならこい!」
魔物が日ごとに増えてきている。
戦士たちは危なげなく倒している。
「チュム師!」
「こら、もう私はチュムではないぞ」
「はっ、御領主様、魔物が数倍に膨れてきています」
「そうか、予想はしていた、異能たちを配置につかせろ。穴が――開くぞ!」
「はい!!」
地面が揺れ、ゴゴゴーッという揺れを伴った地鳴りがする。
ソク・タラの脳裏に、前回の光景がよぎった。
カーンカーンと鳴らされる半鐘。遠くの半鐘もそれを受けて鳴り始めた。
「コウタロウ。帰ってこなかったな……」
この数年間、もしや帰って来るのではと淡く期待していたが……。
最早望みは叶わない。
バタバタとした戦士の足音がソク・タラの砦に響く。
「ま、魔王が出てきました!」
「ッ! なに……」
――魔王は今まで出てきたことがなかった。
いつもは、穴の中にいる黒い影でしかなかったのだ。
それが自ら出向いてきたというのか。
ソク・タラは、絶望ともつかぬ悪寒に襲われた。
「私が行く……」
これからは未知の領域だ。自分で行くしかない。
ソク・タラも異能となった。
コウタロウを信じ、卵を飲み魔物が寄りつかない異能を得たのだ。
だが――魔王に通じるのか?
ゆっくりと遺跡の中へ入って行く。
ソク・タラを魔物が避けていく。彼は、波を分け入るように穴のある場所まで辿り着いた。
そこには体長二メートル近くある人型が立ちすくんでいた。
靄から現れた魔王は、禍々しい黒い衣を纏っていた。
魔王の周りには濃い靄が渦を巻き、絶えず蠢いてそれを守っているように見える。
やがて靄がどこかに吸い込まれていく。
だが、魔王はまだそこに立っていた。
そして魔王が口を開く。
「チュム師! お久しぶりです」




