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45 サンクチュアルの最奥

「そろそろ来る頃と思っていたわ」

「そろそろ……来るって、何が?」

「毎年のことなのよ。サンクチュアルの魔素が漏れ出して、魔核ができなくなってくるの」


毎年、魔核ができなくなる時期があるということか。

魔素が抜け出す……どこかに漏れ出してるってことだよな。

それって……やっぱり俺の国に漏れてるんだ!


でも俺の国は二十年から五十年の周期で穴が活性化していた。

先回は六年だったけど――他の国にも漏れているのだろうか。

それとも、ここと俺の国の時間が違う?

だったら今帰えれたとして、一体どれだけの年数が経っているんだ?


俺が一人考え込んで青くなっていると、ベルーダが数人のサクラを選出し、採集人たちを連れて出て行こうとした。

俺は、慌ててベルーダに追いすがった。


「ベルーダ司祭! 俺も連れて行ってくれ」

「あなたを? 最奥の階層に……良いわ、じゃあ、ノビス枠で連れて行きます。ぺぺ、あなた留守番をして」

「はい」



最奥の階層は初めて行く階層だ。

採集人をしていたときは、四階層で引き返していたからだ。

俺を見つけたのは最奥の間だったらしいから、きっと何か特別な場所なんだと思う。

ベルーダは、道すがら俺に教えてくれた。

「魔素を吸収するとき、あなたのも少し吸い込んだみたいなの。だからあなたは魔素切れを起こして気を失っていたのよ」


いつものように三階層まで走ってくる。

ベルーダは年取っている割に体力があるのか、普通についてきている。

ベルーダをこっそり見ると、口元が動いていて、呪文を唱えているのが分かった。


――ヴィダから始まる呪文だ。身体強化魔法の力か。


三階層は、相変わらず空間がおかしい。遠くに見えていた岩がすぐに近くに見えたり、いくら歩いても三メートル離れた場所に着かなかったりとめちゃくちゃだった。


「ここは以前、時間も延びたり縮んだりしていたのだけど、今は気になるほどでもなくなったの」

走りながらベルーダは、教えてくれた。

これで気になるほどではないって……以前はどんだけ酷かったのだ?


四階層につくと、確かに魔物がいない。

いつもは、うようよいて二階層にも少しいたのに今は影も形も見えなかった。

地面にも、卵が少しだけしか落ちていない。


「このまま放っておけばどうなるんだ?」

「恐ろしいことを言うなよ。魔素が抜けてしまったら、サンクチュアルは崩壊してしまうに決まっているじゃないか」

パパスが怒鳴りながら俺の方を睨んだ。

ベルーダも、困った子供を見るように俺を見ていった。

「そうなる恐れは十分にあるわ。だから毎回こうして修復に来るの」

「修復……だったのか」


俺は穴が空いたと聞いて遺跡に飛び込んだ時を思い出していた。

黒い穴の中に魔王がいたのではない。黒い人影の正体は司祭だった。

ベルーダのような司祭が、毎回修復に来ていたんだ。

その姿を魔王と思い込んでいたことになる。


五階層に入る。

ここは今までと違って狭い。

いや、狭くはないんだろう。洞窟にしては広い。が、自然に出来上がったようには見えないほど石が整然と積み上がっていた。


中心には五メートルはあろうかという黒く丸い円形の塊があった。


「魔素が漏れ出しているわ」

ベルーダが言った言葉は俺にも分かった。魔素がどこかに向かって出ているのがしっかりと感じられる。


「これから修復に行きます。あなたはここにいなさい」

「ダメだ。俺も行かせてくれ。きっと俺の世界へ通じているはずだ。俺を帰らせてほしい!」

ベルーダは、じっと俺の目を見てこう言った。


「分かったわ。でも、また戻ってきなさい。そして、あなたが話せる範囲で良いから異界のことを聞かせて欲しい。すごく興味があるの。お願い」


ベルーダが『ヴィタ・ṙṙルナ』《浸潤》と、唱えた。

俺も心の中で『溶け込め』と唱え、口では「ビ・タㇽㇽㇽナ」という。

今回はなるべく言葉を近づけたつもりだ。

身体が全部入り込めますようにと祈りながら……


身体が黒い塊に吸い込まれていく。

――あの時と同じだ!


だけどあの時とは違い、意識はある。そして真っ黒い靄の中は何も見えない。


「コタルㇽッロ。魔素を感じるのよ。流れ出ているのが、あなたなら分かるはずよ。その流れに乗って行けば、きっとあちら側は出られるはず。その後私はここを閉じる」


「うん、分かった。今までありがとう!」

「待って、来年ここはまた漏れ出るわ。その時、帰ってきて。分かった? きっとよ!」

「……分かった」


俺は魔素の流れに乗って飛び出した。






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