43 ロルㇽㇽㇽ……
俺はまた、配置転換された。ベルーダ様直々のご指名だった。
せっかく採集人になれて、サンクチュアルの最奥には居れるかもと期待していたのに、がっかりだ。
司祭には階級があって、ノビスは除外するとしてこんな具合に分けられてる。
● 大司祭一人
● 月の司祭五人 ←ベルーダ
● 聖職者三十人
● 見習い(アコライト)三十二人 ←今ここ
● 下仕え(ノビス)百二十人くらい ←以前はここ
ベルーダが言うには、俺の魔の使い方が司祭級なんだという話だった。
アコライトの中でも特別対応で、休みの日には、ベルーダおばちゃんの雑用係をせよと命じられた。
俺は、魔女見習い……魔法使い見習いか? そういうことらしい。
信仰してもいない神の司祭、と言われてもピンとこなかった。
アコライトには男が二人いて、俺と同年代の十五歳くらいの少年だった。
指導係はこの間魔法を教えてくれた偉そうな奴。
アコライトは、十五歳から二十歳くらいの年齢が多い。
この間の偉そうな奴は、サクラの階級だそうだ。ベルーダよりも下の階級だというのは本当だった。
今は、アコライトの主任みたいなものだろう。
アコライトの仕事は神殿の掃除。
兵士の時もそうだった。見習いは掃除から始まる。
掃除といっても神殿内の”清め”だ。他のもっと大変な掃除や雑用――例えば便器の処理のようなものは、ノビスがすべて請け負っている。
便所は、各部屋に小さな部屋があってオマルを置いている。
オマルに溜まった汚物は、毎朝ノビスが回収しに来る。
食事の支度や力仕事もノビスがやってくれるので、
自分たちの便器の処理でも、俺はしなくてもいいみたいだ。
アコライトの一日は掃除から始まり、掃除で終わる。
朝の掃除が終われば、食事。その後文字を覚える。
俺はこの世界の文字は苦手だった。幾ら覚えようとしても頭に入ってこない。
英語みたいに文字の組み合わせで単語に意味が変わり読み方まで変わるときもある。俺の頭がこんぐらがってしまう。
「ヤバい、頭痛がする」
午後は魔法の実技がある。そして掃除して、食事で一日は終わる。
三日、同じことを続けて一日休みがあるけど、俺の場合は休みはなかった。
休みの日はベルーダのところへ行かなければならないからだ。
※
「コウタロウ、入ります」
「ええ、どうぞ」
今日は初めての休みの日で、初めてのベルーダの雑用の日でもある。
俺は、何をどうすれば良いか分からず、軍隊風にしゃっちこばって立っている。
「そうね……まずは貴方の国の文字をここに書いてみて」
ベルーダが、獣の皮の紙を差し出した。
サンバラ国では植物性の紙が使われていたし、筆だった。
獣の皮の紙と鳥の羽ペンを見て、ここは違う文化圏なんだとしみじみ思う。
俺は立ったまま紙とペンを持ち、どこで書けばいいか迷いオロオロした。
机はベルーダが使っているし、まさか客用のテーブルに座るわけにもいかない。膝で書けばいいのかと考えていると、
「あら、ここに座って。さあ、書いてみて」
ベルーダに促されて、中央に置かれた応接セットの椅子に浅く腰を下ろす。
慣れない羽根ペンをぎこちなく握り、慎重に書き始めた。
俺の汚い文字が、ガリガリ音を立て羊皮紙の上にのたくる。
――この紙って力を入れないとダメなんだな、めちゃくちゃ書きにくい……。
書き終わってベルーダに紙を差し出すと、彼女は食い入るように俺の文字を見ている。
俺は恥ずかしくなって、身の置き場がない。
――汚い文字なのに……そんなに見ないで欲しい。
「ねえ、これどういうふうに発音するの。たくさん文字が並んでいてよく分からないわ」
「えっと……一個一個で区切って読めば良いだけです。まずはこれ、「イ」でその次が「ロ」って読みます」
「ああ、音字なのね。だからコタルㇽッロはおかしな発音の仕方だったというわけね」
「……」
おかしな発音……お互い様じゃネェか。
俺は少しだけむくれた。
「まあ、良いわ。で、貴方はどう言う呪文で術を発動している。教えて」
術の発動――俺は呪文なんか唱えていない。これは答えていいものなのか?
「うッ、『ち、力よ出ろ』……かな」
「ウッチチカラヨデルṙロッ……そうなの、変わっているのね……」
ちょッ、なんかおかしな呪文に変わっている。なんか勘違いされているみたいだ。
でも、このままで良いかな。問題はないだろう。
「デルṙṙドから聞いたけど、貴方、巻き舌ができなくて、魔法が発動できないそうね。だからここで個人授業をしてあげるわ」
デリュド……デルード……か? それって、あの偉そうな主任の名前だろう。
雑用は、しなくて良いのか。
俺は、四日のうち一日、ここで個人授業を受けることが決まった。




