39 採集人で再出発
神殿は各棟に分かれていて、俺は採集係が集まる棟に入れられた。
あまり立派な造りではなくて、石造りの中規模の家といった感じだ。
ノビスの家よりはずっとしっかりしている。
ここでは毎日研鑽がある。
以前は十人いた採集人は今は五人しかいないので、部屋は広々使える。
その中にはパパスとぺぺがいた。
ぺぺは喜んでくれたが、パパスは苦虫を潰したような顔で俺を見る。
「今日の研鑽! 司祭様が教えて下さったことの復唱。始め!」
「「「「ヴィṙタ・ブリṙṙオ、ヴィṙタ・ベロṙṙス」」」」
「……びた・ぶりお……びた・べおす」
「コタルㇽッロ。なんだぁ! 舌をもっと、なんて言うか、巻け!!」
そんなことを言われても、俺には無理だ。
「これ、なんですか?」
「身体強化とスピードを上げる呪文だ。これが言えないと役に立たないぞ」
こんな呪文がなくても俺は使えている。だから必要無い。
「司祭様が今度、火の魔の呪文を教えてくれるそうだ。その時までちゃんと言えるようになっておけ」
火の魔法! それはすごい……でも、できるか俺に?
一人になって、巻き舌の練習をしてみたが、できない。
「呪文を唱えなくても俺はいつでも身体強化っていうのはできているし、スピードだってある」
それに怪我は自然と治ってしまう。気配だって消そうと思えば消せるんだ。
火だってだそうと思えばだせるさ。
「火よ、出ろ!」
……でない……。
こういうのはやはり呪文が必要なようだ。
多分、身体の外に魔法を放つ、というのが今までとは違うんだろう。
※
今日は、初めてサンクチュアルへ入って採集だ。
ぺぺは留守番で、パパスをリーダーとしてその後ろに一人、真ん中に俺。俺の後ろに二人いる。
サンクチュアルは広かった。
砂漠はどこまでも続いているように見える。
背中には食い物。腰には大きな水筒。
これがなければ命取りになる。
黙々と後について行くのみ。
体力には自信があった俺だが、採集人は、もっとすごかった。
ずっと走り通しなのに、誰一人として息を荒げない。
ある所まで走りきると休憩となった。
「この次は草原地帯だから、少しは楽だ。よく頑張ったな、コタルㇽッロ」
俺のすぐ後ろを走っていた先輩がそう言ってくれた。
今まで俺と同じように走れる人達を始めて見た。
ここでは俺は特別ではないんだと、落ち込む。
「そうかな、先輩たちこそすごいよ」
「まあな、この道十年だしな。でもサンクチュアルはまだ先にある。ここはサンクチュアルとは言わないんだ。盗掘者も入ってこられる場所だ」
そうなんだ。この先が草原になっているのか?
周りを見まわしても草などないのに……。
黒い渦がある。パパスは迷いなくその渦をくぐり抜けた。
俺もおっかなびっくり渦に入った。
顔を上げるとそこは草原だった。
――サンクチュアルって……ダンジョンか!
ここには薄らと魔素が漂っている。薄い縞のようになって少しだけだが、確かに魔素だった。
ここも走り抜け三階層につく。
「ここは空間が歪んでいるんだ。時間も少しおかしい。早くなったり遅くなったりするけど、今は落ち着いている」
パパスが深刻な声で説明してくれる。
「絶対にはぐれるなよ」といい残し走り出した。
俺は置いて行かれないようにと、一緒に走り出す。
程なくして目的地”サンクチュアル”の四階層に着いた。
「ここをくまなく探せ! ベスタもいるが気にする必要はない。おいらたちには目もくれないからな」
採集人はヴィーダを探せという。
要するに卵を探せば良い、ということだ。
俺にとっては簡単な作業だ。どこにあるかすぐに分かるからだ。
卵は触ると襲ってくる。
だけど、それも俺には分かるようになっていた。
死にかけの奴を見つければ良いだけだった。
先輩たちを見れば、卵に襲いかかられ黒い水を何度も浴びている。
まあ、先輩たちも魔核を飲んでいるんだから問題はないだろう。
一時間もしないうちに十個ほど見つけた。
「お、これ、魔素がいっぱいある奴」
それも三コ見つけ、腰を伸ばして周りを見まわすと、先輩たちはあちこち走り回っている。
魔物は採集人から逃げ四方に散っていく。
俺の背負い袋は一杯になってしまった。
ここで少し休もうと腰を下ろす。
「こらああーっ! コタルㇽッロ。サボるなぁ!」
俺は慌てて立ち上がりまた探し回った。
探し出した卵は二十個を超え、収納できない。
仕方がないので足下に転がしておく。
俺の側に来た先輩が目を剥く。
「どうした、どこにこんなにあった?」
「え、そこにいっぱい落ちてた」
「そ、そうか袋に入りきれないほど見つけたんだな……」
「ん、だからこれ、入れてくんない?」
神殿に帰り、司祭様に今日の成果を報告するパパスは、
不本意そうな声で俺を褒めてくれた。




