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37 春の祭事 パロ・デ・プリマベルッラ

木の皮で作った靴は、華奢で俺にしてみれば実用性に欠けた。

薄い木の皮を、何回も優しく叩いて柔らかくして、水につける。

それを型にかぶせる作業を何度も繰り返し、乾かす。

型から外し形を整えて装飾を施す。


これは熟練のノビスたちの仕事だった。

俺は専ら、外れ皮と他の藁っぽい草で、縄をよる。

何本も紐を作った。

この作業なら俺でもできる。


「でもこれ、あまり丈夫じゃない縄だ。何に使う?」

「パロ・デ・プリマベルッラさ」

「ぱる、まばるーら?」

「は、は、まあそんな感じだ、お前舌が堅いな」


ここは稲作文化ではない。麦の藁は堅くて縄をよることができない。

稲の藁は優れものだったと再認識した。


冬の作業も大詰めに差し掛かる頃、春の訪れを知らせる、ツグミの鳴き声が聞こえてくるようになった。



春の野良仕事に取りかかって数日後。

神殿広場に一本の丸太が立てられる。


「あれ、何やってる?」

「春の祭事の準備だ。教えただろう、パロ・デ・プリマベルッラの準備だ」

「……ヘェ。ヨーロッパのメイポールみたいなものか……」

「え、何だって?」

「いや、何でもない」


祭事の準備が整い、続々と馬車が続いて多くの客がこの集落に来るようになった。

立派な服装の、貴族たちだった。

皆、少年や少女を連れてきている。


「今年は王族の子息も来なすっている。コタルㇽッロ、表に出ないようにしていろ」

「え、なんで」


「お前、顔つきがおいらたちと違うからな」


アジア風の顔は、ここら辺では見ない。

髪の毛や肌の色は違和感がないのだが、平たい凹凸がない俺の顔は目立つようだ。


祭りが始まった。俺は気配を消して木の側で祭りを見ることにした。

誰も俺に気が付かない。だから問題はないはずだ。


サクラ、という巫女のような役割の若い司祭たち三十人が、ポールの周りに均等に列んだ。

それぞれが、俺がよった縄を手に持っていた。


そして太鼓と縦笛の音に合わせて踊りながら、ポールの周りを回り始めた。

時々列び位置を変えながら踊っている。

中心に立てられたポールに、模様を作りながら紐が巻きついていった。


最後に巫女たちが退き、ポールに火が放たれた。

放たれたのは火矢だ。

貴族風の男が弓を抱えて去って行く。

ポールは勢いよく燃え上がったところを見ると、油が染み込ませてあったようだ。


「これで終わったのか……?」


俺は、ここでもやはり火は神聖な儀式に使われるのだなと感心する。

帰ろうかと思っていると、貴族の子らが続々と神殿の中へ入って行くのが見えた。


俺もその後をこっそりとついていく。


祭壇がある立派な礼拝堂だった。

天井がすごく高い。祭壇には何やら貢ぎ物らしきものが置かれていた。


側へ行って籠の中身を確認して、俺は驚いた。


――卵だ! あ、やべっ……


驚きすぎて気配を消すのを忘れそうになり、慌てて柱の陰に退く。

少年の一人が、俺がさっきまで居た場所をじーっと見て、周りをキョロキョロし始めた。


俺はさらに柱の陰に身を引いた。

儀式の本命はこれからのようだった。

男の司祭が出てきて、ペラペラと訳の分からない言葉をまくし立てる。


その後、五人の女性司祭が列んで入ってくる。

皆、銀色のサッシュを締め、黒いローブを頭から被っている。

祭壇の前に立ち、貴族の少年少女たちに、卵を手渡し始めた。


最後に十三歳くらいの一番立派な服を着た男の子に卵を渡して終わり、だった。


俺は眉間にしわを寄せ、腕を組んで考え込んだ。

「あの卵は、こいつらにとっても”力の元”になっている……」


――どこで採ってくるんだろう。

若者があの卵を食べれば、力がつくはずだ。

俺の経験でもそれは物語っていた。

成長期を過ぎれば、卵の効果は限定的だった。

俺の場合、運良く卵を見つけて早い内に食べる事が出来たのだから。


ノビスの家に戻ると先輩たちがお茶を飲んで話し込んでいた。

「コタルㇽッロ、どこに行っていたんだ。今日は祭りだ。司祭様から菓子をもらってきたんだ食べろ」

「うん」


菓子といってもせんべいみたいな、平たくて堅い塩味のものだ。

それでも、ここではお茶うけになるのだろう。

「あのさ、貴族の子らは何しに来たの?」

「ああ、成人の儀だな。魔の力を授かる儀式なんだ」

「魔、の力……」

「ああ、サンクチュアルで魔核を採ってくるノビスがいる。魔核は魔の力の源だ。限られた者だけが授かる、神の恩恵だ。おいらたちには縁のないもんだ」


やっと繋がった。パパスは採集係だった。

彼は卵の採集をしていたことになる。

そこで俺が倒れていたから、卵泥棒だと勘違いしたんだ。

じゃあ、サンクチュアルと俺がいた遺跡は繋がっていると言うことだ。


司祭と呼ばれていた魔女は、あそこで何をしていた?

そこが分からない。


もしそれが分かれば、俺は元いた場所に帰る事が出来るのでは……。








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