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35 ノビスの仕事  

俺はノビスというのになったらしい。

ここは月の女神を信奉する場所で、神殿だと教えられた。

ノビスは、司祭たちのための下働きや、力仕事をする。

男性が圧倒的に多く、司祭は女性が多い。


司祭には魔法の力があり、様々な術を使って近隣の村や町へ出向いて奉仕(と言う名の仕事)をしている。

勿論、見返りをもらっている。


俺は新参者なので、畑仕事を任された。

畑を耕したり、水汲みをしたり――要するに村での仕事と同じことをしている。

俺にとって慣れた仕事だし、苦にはならなかった。


牢の見張りをしていた青年はパパスという名前で、ノビスからは尊敬される仕事をしている。


サンクチュアルという、山の中腹にある石の扉の中へ入って何かを探してくる仕事だそうだ。

神殿から見上げると、サンクチュアルのある山は台形の形をしている。

上半分が切り取られたような形の山だった。


山裾には広い農地がつづく、ゆるい傾斜地になっていて、様々な作物が植えられている。

俺の受け持ちは、麦畑と野菜畑だが、経験豊富なノビスたちはブドウ畑を任されていた。

二メートルもない低いブドウの木が、綺麗に一列に並んでいて、収穫しやすいようになっていた。


農作業が早めに終わると、俺はこっそりブドウ畑に入り、ブドウをつまむ。

赤く色づいたのを選んで食べるのだが、まだ早いようで渋みが残っている。


「コタルㇽッロ! つまみ食いするんじゃない!」

ノビスの親玉に見つかりすぐに逃げ出す。


「俺の名前はコウタロウだ。何だよコタウッロって」


ここの奴は皆巻き舌になってしまうようで、俺は”コタウッロ”……みたいな呼び方をされている。

俺にはまね出来ない芸当だ。

「巻き舌って、日本人には難しいんだよな。あれ、俺ってもう日本人じゃなかった、天祖人……かな」


見た目が、日本人と変わらない天祖国の人々だから、つい日本人って思ってしまう。


ノビスたちが住んでいるのは神殿とは別で、石で作られた農家みたいな家だ。二十軒ほどある家に五人から六人で住んでいる。

「こいつら農奴か?」

そう思ったが、違った。

いつでも自由に街まで行けるし、ここから出たければいつでも出て行けると言われて俺は驚いた。


「なぜ、出て行かない?」

「ここは月の女神アル・テミーラを祀っている。おいらたちは神に仕える者だからな」

「ふーん」

よく分からない考え方だった。

前世でも今世でも、神など拝んだことがなかった俺だ。


ここで暫く働いている内にブドウの収穫時期になった。

俺も駆り出され、たまにつまみ食いしながらの楽しい作業だ。



ブドウを摘み終わればすぐに大きな石槽にブドウを入れる。俺は専らこの作業だ。

石槽に、がたいの良いノビスたちが入って、裸足で踏んで果汁を出す。


「おっさんたちがこれをするのか……」


昔、なんかのテレビで、若い村娘がやるとか見た記憶があったが、ここでは男たちがやっていた。

その後は発酵作業だろうが、俺には手伝わせてもらえなかった。


ここのワインを飲んだが、酸っぱくておりが浮いていて、正直まずい。

ワインと水を加えて水代わりに飲んだりもしている。


ここの水は硬水で、そのまま飲むと身体に悪いからと言われた。


ワインの仕込みが終われば、冬支度が始まる。

神殿には大きな倉庫があって、そこに食料や、薪などが入れられる。

春や夏の間に集められて、乾燥させた太い木を斧で割り、運びやすい大きさにして倉庫まで運び入れる。薪は大量に集められて大変な作業だった。

天井近くまで積み上げても一冬で使い切ってしまうそうだ。

ここでは暖炉に火をくべて暖を取るため薪を大量に使う。


神殿の冬支度が終われば、俺達が住むノビスの家の冬支度だ。

ここにも共用の倉庫がある。

神殿と同じ作業を繰り返し、終わる頃には雪がちらほら舞い落ちる季節になっていた。


俺は冬の服を与えられた。毛織物で上からすっぽりと被る服だ。

厚手なので少し重さがある。


だぶだぶの服をウエスト部分で紐で縛って収める。

靴はサンダルで、素足だ。


「どこへ行っても田舎や農民に靴はないんだな」


木靴を履かないのかと聞いてみたら、彼はこう言った。

「サボもあるにはあるが、ここは坂が多いだろう。あれは滑って上手く歩けねぇんだ」

代わりにといって毛皮を渡された。ウサギの毛皮だった。

「寒い時にゃぁこれを足に巻いて出かけるんだ。紐で縛るんだよ」


確かにふわふわして気持ちが良い。これなら雪道でも何とかなりそうだ。

だが、俺はふと考えた。

「俺、そう言えば素足でも平気だった気がする……」



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