34 コウタロウ目覚める
目覚めると、知らない天井だった。
俺は、藁の寝床にいた。
上の方に風の通り道があるのだろう。新鮮な空気が顔に当る。
「黒い靄に吸い込まれてそれから……」
俺は飛び起きた、周りを見まわす。石で作られた、囲われた空間。
壁から流れ落ちる水。水の周りの壁や床は苔むしている。その流れ落ちた水が床を伝い黒い穴へ流れ落ちていた。
黒い穴から異臭が漂う。これは……便器だ。
――何と言うことだ。ここは牢に違いない。俺はなぜこんなところに入れられた?
牢は、奥に細長い造りだ。八畳くらいの広さはあるが、天井が高く、縦に長いためかえって圧迫感がある。
正面の壁には鉄格子が嵌められていて、
格子の向こうに、男がいてこっちを見ている。
まったく知らない奴だったが、俺は――助かったと思った。
「どこの牢だ。サンバラか!」
だがその男は、突然慌てだして走り去ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って、君!」
俺が握りしめた鉄格子が、ミシミシ鳴って床から浮き上がってしまいそうだ。
「やっべぇー、壊してしまうところだった」
慌てて手を鉄格子から放し、抜けそうになっていた鉄の棒を慎重に穴に押し込んでおく。
拠点にこんな牢があっただろうか? 俺は首をかしげた。
だけど、ここから逃げ出すなんて論外だ。
サンバラでは脱走兵は首を切られる。おっかない軍規があるんだ。
俺は、ここで大人しく待っているしかなさそうだ。
その内、チュム師が来るだろう。そうすれば誤解も解ける……はずだ。
「また、魔物認定されたのかなぁ……」
溢れた魔物はちゃんと討伐されただろうか。
それともまだ戦士たちは戦っている最中なのか。
父ちゃんたちは家の中でじっとしているだろうか。
頭の中に次々と考えが浮かんでは消えていく。
喉が乾いたので壁から出ている水を飲み、ションベンをした。
そして天井を見上げると、壁の上側に横長に切られた細長い窓があった。
五メートルほどジャンプして窓に取りつき、外を見ようとしたけど、地面がみえるだけだ情報が掴めない。
暫く待っていると、黒いローブに銀のサッシュを巻いたおばさんが、ゆっくり歩いて牢の側に来た。
さっきの青年もついてきている。
「****、*****?***」
何を言っているか全然分からない。耳が、おかしくなってしまった。
俺は、心細くなって格子の側にしゃがんで項垂れた。
するとおばさんが俺の頭に手を置き何やら、ペラペラと呟いた。
すごい巻き舌だ。ここは若しかしてラテン系の地域なのか?
俺は売られてきたのだろうか。
「いつ、売られた? サンバラは兵を売るんだろうか?」
「いえ、売られてきたのではありませんよ」
俺はビックリ仰天した。
「言葉が分かる……俺ラテン語を喋れるようになったのか!」
「ラテン……? 何を言っているのか分かりません。術が不完全なのかしら……」
「術とは――呪いかなんかですか? 俺に呪いを掛けた!」
「いえ、呪いというのとは違います……まあ、貴方に説明しても分からないでしょう。まず、質問があります。貴方は、どこから来たの?」
「俺は、天祖国の生まれで、サンバラ国のチュム師の側近だ」
「……サンバラ? 天祖国、その様な国はこの近くには存在しません」
「……」
その後、俺をどこで拾ったか、おばさんは説明してくれた。
サンクチュアルというのはよく分からなかったが、”黒い球”の前に俺は倒れていたらしい。
それでハッキリ俺は、認識した。
――あの黒い塊だ。ここは俺がいたサンバラとは違うんだ。
あの”穴”のせいで俺は、どこかに飛ばされてしまったに違いない。
とにかく、ここはサンバラからは遠く離れた場所なんだと知ることができた。
俺は頭が真っ白になって力が抜けてしまった。
もう父ちゃんにも母ちゃんにも会えなくなってしまった。
「俺には行く当てが……帰る場所もなくなったようだ……」
「困りましたね、ではこうしましょう。暫く貴方をここに置いてあげます。その代わりきちんと仕事をしてもらいますよ。良いですね」




