表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/124

32 アル・テミーラ神殿の司祭

「司祭様!」

「どうしたのですか、パパス」

「サンクチュアルの魔素が抜けかかっています」

「分かりました。すぐに対処します。べルーダ、貴方いってきて。ルナ・サクラから数人と、ノビスを補助として連れて行きなさい」

「はい、承知いたしました」


ベルーダと呼ばれた司祭は、ルナ・プリエステだ。

ルナ・プリエステは五名しかおらず、ベルーダはその三番目に位置する。

彼女は月の女神、アル・テミーラ神に使える司祭であり、魔の力を操る魔女だ。


司祭には明確な序列がある。

大司祭アルキプリエステ

● 月の司祭プリエステ

聖職者サクラ

● 見習い(アコライト)


信者下仕え(ノビス)


ベルーダは六十歳だ。

月の司祭プリエステの中でも高位に位置する司祭である。


彼女は五人の男性ノビスと、サクラから選んだ女性二人を連れ、

魔素の吹き出し口があるサンクチュアル五階層へと向かった。


五人の男性ノビスは、この報告を持ってきた採集人だ。


「パパス、それにしてもずいぶん早く戻れたのね。いつもなら二日くらいかかるでしょうに」

「そうなんです、変なんでやんす。早く着いたのは、なぜでしょうか?」

「三階層が、変化……したのかもしれない。去年の修復の時も、どこかおかしかったのよ」


ベルーダは三階層に着くと、魔素の流れを読んだ。


「そうね……変化しているわ。空間の歪みが少し収まり、時間の狂いも減っている」


ベルーダ一行は急ぎ五階層を目指した。

途中の四階層には、ベスタの姿がほとんど見当たらなかった。

魔素が抜けきってしまっているのだ。


「でも、今回はパパスがすぐに気付いてくれたお陰で、修復が早く出来そうよ」

「へ、へ、」

パパスは、敬愛する月の司祭に褒められ、頭をかき顔を赤らめた。


まだ十八歳と若いパパス。

そして親のようにベルーダを慕っている。

孤児である彼に、親の顔は思い出せない。

そんな彼が、女性司祭を慕うのは無理からぬことだった。


そんなパパスを、一時哀れみの籠もる眼差しで見つつも、 ベルーダは毅然と振り向き、五階層に足を踏み入れた。


五階層は、サンクチュアルの心臓部だ。

他の階層よりも狭く、神殿の中に入るような神聖さが漂うところだった。


天然の岩が、まるで作られたような正確さで積み重なり、その中心部は大きな黒い球……五メートルはあるだろう。

普段ならこの球から絶えず魔素が滲みでているのに、今はどこかに漏れ出している。 手を翳すとやはりはじかれてしまう。黒い玉の不思議な性質だった。


去年の今頃も、ベルーダはこの球の修復に来ていた。


ベルーダは、魔素を練り上げ『ヴィタ・ṙṙルナ』(浸潤)と唱える。


すると、弾かれていた自分の身体が玉の中に溶け込んでいく。

黒い塊の中へ入ったベルーダは、魔素の流れを辿る。

目では何ひとつ見えない、完全な闇の中を、魔素の”感知”だけで慎重に探っていく。


「……ああ、ここね」


魔素が裂け、外へ漏れ出している“ほつれ”を見つけると、

ベルーダは静かに魔素を練り上げた。


続けて、漏出部分に手を向け、低く呟く。


『ヴィタ・ṙセラ』《吸収》


すると、ほつれから溢れていた魔素が逆流するように吸い込まれ、

ゆっくりと元の流れへと戻っていった。

最後は、ほつれに蓋をする作業だ。


『ヴィタ・ṙフェル』《封止》と唱えた。


ほつれはひたっと素早く閉じ、堅い殻のような魔素が上から覆いかぶさる。

黒い球の表面が滑らかに整って、そこからゆっくりと魔素がしみ出してきた。


作業が終わると、黒い玉の外へ押し出されるように、いつの間にか排出されていた。


「フーッ」


何とか修復を終わらせたベルーダが、付き人たちに声を掛けようと顔を上げる。

だが、ノビスや、サクラたちが立ちすくみ、怯えている様子が目に入った。

彼らの視線を辿ると……


ベルーダの足下には――見知らぬ若者が倒れていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ