31 第二部 プロローグ
採集係のパパスは、仲間と連れ立って、今日も”サンクチュアル”に来ていた。
サンクチュアルは、不思議なところだ。
五階層になっていて、それぞれが違う世界のように感じられる。
大きな石造りの扉を抜けると広い砂漠になっていて、見渡しても生き物の気配が感じられない。
ここには何もない。水も草木も。
すぐに次の階層の入り口に入り、二階層に降りるとそこは草原に変わる。
草原には、たくさんの獣がいる。だが、パパスは、ここも素通りする。
三階層からが探索の本命となる。
三階層は、岩ばかりの無機質な荒野だが、ここは空間がゆがみ時間も狂う。
四階層へ行きたくても中々入り口が見つからない。
もたもたしていれば、ここで餓死してしまうのだ。
空間と時間が歪んでいるせいで、何年もここにいるように感じたり空間がどこまでも続くように感じたりする。
魔物もいるが、パパスたちには近づいてこない。
何とか四階層の入り口を探し当て、やっと本命に辿り付く。
ここには、希少な”ヴィーダ”が落ちているのだ。
ヴィーダとは、魔核だ。
丸い十センチほどの塊で、とても貴重なものだ。
だが、これは魔物に変化する。もしくは近くにいる獣に擬態する。
月の司祭様はこの魔物を”ベスタ”と呼んでいる。
たまに、このサンクチュアルに盗掘者が入り、魔核に取り付かれてしまうこともあるのだ。
取り付かれた者は、ベスタとなり気味の悪い魔物と化す。
パパスたちにとっては、その魔物などは脅威でない。
彼らは月の司祭様から、魔核を頂き、無敵になれたのだから。
ベスタや変化した魔核は、パパスたちを敵とは認めない。
だから安心して魔核を採集ができる。
パパスのような採集者は、神殿に囲われている。
孤児で農民の出ではあるが、魔核の許容量があると認められた者だからだ。
農民からは、滅多に見つからない素養だ。
パパスはそれが誇らしい。
敬愛する月の司祭様にお仕えできることもそうだが、農民という身分から抜け出せたことも、嬉しく思う。
農民は辛い労働を強いられるし、”エルタゴス国”では最下層だ。
魔核みたいな高価な物には手が出ないほど地位が低いのだ。
魔核は殆どが、特権階級が買い上げてしまう。
――おいらたちは運がよかった。
一緒に来ている採集者五人もパパスと同じ仲間だ。
パパスたちには危険がない魔物たちだが、適当に数を減らしておかないと、サンクチュアルから溢れ出て、里の人達に危険が及ぶ。
魔物に擬態したベスタには、実体がある。
そのままにして置くわけには行かない。
だが、減らしすぎてもダメだ。
こいつらは、盗掘者を倒してくれる役目もあるのだから。
今日もその任務をこなしながら、ヴィーダを探す。
運がよければ数個は見つかるだろう。
死にかけのヴィーダが一つだけ見つかった。
だが、価値のあるヴィーダは未成熟のヴィーダだ。
魔核が生まれたばかりで、新鮮で、中には純粋な魔素が詰まっている。
魔核とは、魔物が生まれる前の“核”にすぎない。
魔核が完全に出来上がってしまうと、ベスタになったり、近くの獣に擬態してしまう。
擬態できずに長く経つとこうして死にかけるのだ。
月の司祭様は「魔素が抜けるため、死にかけるのだ」と教えてくれた。
だが、今日は他は見つからない。
魔核が出来上がってしまったものさえ、落ちていなかった。
「……これは、また、サンクチュアルから魔素が抜け出してしまっているのでは?」
「そうだ、前回の封じ込めから一年が過ぎている。月の司祭様に知らせなければ!」
おいらたちは急いでサンクチュアルから外へ向かった。




