第一部外伝② 辺境の砦ヌアタラ領
ソク・タラが褒美としてもらったヌアタラは、元、天祖原の領地だった場所だ。
ヌアタラの北側には天祖原の遺跡が、あちこちに広く残っている。
以前、遺跡には足を踏み入れることは叶わなかった。
だが、今は、限られた人だけは入ることが出来るようになった。
領主のソク・タラと、他四人。
魔素の卵を見つけて飲んだ戦士二人と、実験隊として飲んだ二人。
彼らには、毎日遺跡の様子を確認してもらっている。
また、魔素の卵があれば、持ち帰るように言っているが、今のところ見つかってはいない。
領主になって一年。
ここヌアタラ港から半日ほど馬で飛ばせば、遺跡となる。
ヌアタラは港を囲む港湾都市として、これからは発展して行くだろう。
ソク・タラは、砦の建設や、港の整備で何かと忙しくしていた。
ソク・タラの心の中に未だに残る、大柄な少年。
彼の故郷はここから近いという。
「山を二つ越えた場所だったな」
遺跡を通り抜ければ、一日もかからずたどり着けると聞く。
今、このヌアタラには領民が百人を少し上回る程度しかいない。
殆どがクナイ戦士や、元戦士だった老兵たちだ。
中には少数だが雑兵もいる。
暫くしたらここにも商人や農民が来るだろうが、今はまだ街を作っている途中だった。
物資はこれから五年間は、サンバラ国からもたらされる。
サンバラ国から天祖国へ行く定期便の平底船が、ここにも寄って物資を置いていく。
その為、ここでは天祖国の特産も多く、サンバラとの文化が混じり合ってきている。
サンバラ国から陸路で十二日ほどで着くここには、大きな荷馬車を引いて商人も来るようになるだろう。
土地も天祖国ほど寒くはなく、サンバラほど熱帯でもない。
土は肥えて作物もよく育つだろう。
古代の天祖原を長く栄えさせた豊かさが、ここにはあるのだ。
今まで、これほどの土地に誰も手を付けなかったのは、穴の存在があったからだ。
これまで二千年間、代々のサンバラ王による変質的なまでの執念に、戦士たちは、その貴い命を散らしてきた。
自分の所有地でもない天祖原に分け入り、穴が活性化する度に投入される戦士や雑兵は、数え切れないほど犬死にしてきた。
「これからは変わる。いや、私が変える」
ソク・タラには確信があった。
「穴は討伐しなくていい。消えるのを待つ、それが一番だ」
そのためには、穴の活性時に溢れ出る魔物が消えてしまうまで、やり過ごさなければならない。
ここの砦は堅固に作られている。
次に手をつける作業は、遺跡を取り囲む壁の建設。
遺跡の側には、多くの石が転がっている。これを利用すればいい。
すべて囲う必要はないのだ。魔物の勢いを削ぐだけでいい。
「人手が足りない」
側近がソク・タラにこぼした。
「王に願い出るか……穴の討伐は私が引き受けたのだ。今いる、使い道のなくなった雑兵をこちらに回してもらおう」
「それはよいお考えです。早速、王へ奏上をしたためます」
ほどなくして、王より勅書が届いた。
勅して告ぐ。
ヌアタラ領主ソク・タラは、北方の穴を守り、
天祖原の地を開き、国境の安寧に大いなる功を立てた。
よって、今後五年の支援を以て終わりとし、
以降はヌアタラを自立の地と定む。
ただし、北方の守りは従前のごとくソク・タラに任ず。
その功を鑑み、ヌアタラよりの年貢は免ずる。
領内の税は領主の裁量とし、
民の生活を損なわぬよう努めよ。
以上、王命としてここに記す。
サンバラ王
「これはこれは、願ってもない、ふ、ふ、ははは。よし、本腰を入れて、ヌアタラを作り上げようぞ」




