30 新たな能力
港の駐屯地にサンバラからの物資が届けられた。
大きな平底船で運ばれた、大量の食料や資材などだ。
それを港で待ち構えていた雑兵たちが、俺達の拠点に荷車で運んでくれた。
交代のクナイ・トム、それとクナイ・スレイも一緒に来た。
その中には、チュム師の側近が一人混じっていた。
俺の同室だった二十歳の側近だ。
彼と挨拶した俺は――サンバラに戻れるのか――と一寸、期待したがどうやら違うらしい。
「書類仕事が溜まりすぎて、チュム師が困っているんではないかと側近長が心配したのさ」
「……済みません。俺、役に立てなくって」
「いや、君はすごい発見をしたそうだな。皆驚いていた。”穴”が、穴でなかったって」
この拠点は、穴が不活性期に入るまで、ずっとここに維持される。
過去最長で一年拠点が置かれたという。
先回の、第八十七回討伐隊は三ヶ月。
急激に穴が膨張してすぐに萎んだという。
その後は穴が不活性時期に入ったそうだ。
要するに、どうなるか予測がつかないということらしい。
側近の彼からは弟のように可愛がられている。
だから俺も気軽に聞ける。思い切って先回の討伐の様子を聞いてみた。
「私が新兵になって間もいない時期だった。詳しいことは……でも大変な犠牲が出たことだけは聞いている」
ゴンタの立場は今なら分かる。
八百人も集められ、一人も生き残らなかった農奴たち。
雑兵たちは、どんな戦いをしたのか、どうして死んだのか。
「私の推測でしかないがね。サンバラの農奴も君の天祖国の農奴も、戦士として鍛える時間がなかったのではないかと考えている。
あっという間に穴は成長して、何がなんだか分からないうちに、穴へ送り込まれたのではないかな」
「ありがとうございます。村の知り合いが討伐で死んだって聞いて……あの時はすごく驚いたんだ」
「……そうだろうね。私はサンバラの戦士の家柄だから、戦死した先祖も何人かいたよ」
側近の先輩は、俺の隣の空いていた部屋に落ち着いたようだ。
物資の片付けも終わり、戦士たちの交代も終わった。
少しの間、拠点に弛緩した空気が流れ、誰もが気を緩めていた頃だった。
大きな音が遺跡から響き、何が起こったのか、まるで分からない。
ゴゴゴーッと音がし、地面がずれた。
俺の足下がふらつく。
「コウタロウ! 行くぞ! 穴が開いた!!!」
チェム師に叫ばれ、俺は引きずられるように走り出した。
俺は走りながら――穴が開いた?
――やはり、穴は別の場所にあったのか。
そんなことを思いながら走ったが――
あれは山が鳴いたときと同じじゃないかと、ハッとした。
「父ちゃんたち……ちゃんと家に避難したかな……」
そうだった、俺が守ると決めたんだ。何をしていたんだ、まったく!!
俺は走った。
チュム師を追い越し、他の戦士たちが魔物と戦っているのも追い越した。
魔物は遺跡から溢れ、百体はいそうだ。
走り抜ける俺の側から、ザザーッと波が割れるように魔物たちが引いて行く。
遺跡のどこに穴がある?
だが、俺の額から出る線は、真っ直ぐあの塊があった場所を指していた。
瞬く間にその場所に着くと、半円球の塊からもうもうと黒い靄が噴き出している。
俺は呆然と見つめていると、中で何かが動いた。
目をこらすと、「人だ、人がいる!」
後ろからチュム師が息を切らしながら走り寄ってきた。
「はあ、はあ。やはり人がいたか。こんなに早く中に入れたことは今までなかった」
「卵のお陰……ということですか」
「そうだ」
チュム師と俺の周りには魔物が寄りつかない。
遺跡の外を目指している。
「いつの間にか、遺跡の中にも魔物が増えている……」
「いつものことだ。穴が開けば一斉に魔物が溢れる。そして一瞬で静まり遺跡には入れなくなるのだ」
「あの穴の中にいる人は……魔王……?」
「さてな、魔王と言われてはいるが、何とも言えん」
チュム師は離れていく魔物を睨み付けながら、あとから来た異能たちに檄を飛ばす。
「今のうちに出来るだけ数を減らせ! 遺跡から外に出すな!」
後ろで戦士の異能たちの剣戟を感じながら、俺は手を伸ばした。
そうしなければならないと、なぜか思ったんだ。
そして……吸い込まれた。
チュム師の声が遠くで聞こえた……
――第一部 完 ――




