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29 静かなる変化

俺は今、チュム師と一緒に遺跡の中心部に来ている。


以前探し出した黒い塊を、チュム師に見せるためだ。

今までクナイたちは何と戦ってきたのか、まったく知らなかったようだ。

俺なりの予測で、これじゃね? と考えているだけだが……。


「チュム師、これです。なんかグルグルしてますよね」

「……確かに、生きているようにもみえるが……こんな小さな塊が?」


小さくはないんだが。俺が最初に見たときは拳くらいだったのに、今は三十センチくらいになっている。


しかも、穴というよりは、反円球の塊だ。

手を近づけると、以前と同じように反発する。

ガチャガチャの蓋みたいなそれは、中に何かがウゴウゴと動いてみえる。


黒い靄の本体じゃないか、と感じられる。

俺の額には、これに一直線に伸びる何かがあるんだ。


「これは触ることも出来ぬものだ。これがどのようなものかは、今の時点で判断はできぬな」

「そうですか……」


それからは遺跡を回り、卵を踏み潰して回った。

だけど卵はいくら踏み潰しても、次の日来て見ればまた増えていて埒が開かない。


俺は試しに、黒い塊のすぐ近くにある、できたばかりらしい卵を手に取って見た。

「おぉ? 襲ってこない……」

そう言えば、チュム師と始めにここへ来たときも卵は襲ってこなかった。

それを俺は飲んだんだった。


「あれから俺、何かが変わったような……気がする」

卵を懐に入れ、俺たちは拠点へ帰った。


拠点に特別に与えられた俺の居室は、チュム師の部屋から近い。

俺がチュム師を送り届け、その隣の隣のドアが、俺の部屋のものだ。


普段は隣の部屋は閉ざされていて、誰も入る事は出来ないようになっている。


何のためなのかよく分からなかった。

チュム師のプライバシーの保護か?


サンバラにあるクナイ・トムの兵舎にはチュム師の執務室があるが、彼は兵舎には住んでいない。

他の場所に大きな屋敷を持っていて、そこから通っているそうだ。

「まあ、当たり前だよね、クナイのトップなんだから」


だけど、ここの拠点ではチュム師が自分でなんでもやる。

側近は俺だけなのに、この頃は世話をやかなくてもよくなっている。


食事を持って行ったり、部屋の掃除だな。

着替えは「今は自分でする」と、チュム師が言うので手伝っていない。

水や湯を運ぶのは、別の雑用がやるし、便器の処理もそうだ。


何を言いたいのかというと、俺は側近としての仕事が殆どない、ということだ。

いつも側にいた側近長のような高度な仕事は、俺には無理だし。


俺がここに来たのは――いや、そもそも側近になれたのは、俺が遺跡へ入れたからだ。

チュム師は俺を側に置き、監視していたと言うことだ。


たかだか十一歳だった雑兵には、法外な扱いだったんだ。

だが側近になれたことで給料が跳ね上がった。

一年半金を貯めて、それを父ちゃんに渡せた。

よかったんだこれで。


仕事が終わってしまったので午後は閑だ。

さっき拾ってきた卵を、取り出した俺はそれをじっと見る。

「これを飲めば、また能力が増えるんじゃね?」


遺跡から離れた卵は殆どが”身体能力”を上げるものだった。

あの後、戦士のクナイ二人が卵を見つけて飲んだ結果、分かった事実だ。


彼らの内一人は力が”強くなった気がする”というし、もう一人は”目がよく見えるようになった”そうだ。


よかったな、でも、それだけ? って感じだ。俺のとは違いすぎる。

先輩にその事を相談するとこう言った。


「お前、飲んだとき成長期だったからじゃね?」

そうか! と納得した。

チュム師も飲んだけど、靄には入れるようになっただけで、

「私は特に変わりはないようだ」と言ったからだ。


チュム師は父ちゃんよりも年を取っている。そこで俺は、妙に納得した。


俺は、まだ成長期だ。今のうちに飲めば能力は増える――かもね。

早速いつものくるくるコキッをしてごくごく飲む。

「クーーっうまい!!」


みんなは、不味いって言うけど、コーラの味、知らないんだろうな。

この喉を通るときにジクジクッとして、シュワッと抜けるのが良いんじゃないか。


しばらく待っても変化は感じない。一眠りすれば分るだろう。

でもまだ寝るには早い。

俺はチュム師にお伺いをたてる。


チュム師の部屋へ行き、外出の許可をもらうためだ。


「コウタロウです」

「うむ。はいれ」


チュム師は書類を読んでいた。側にあったコップが空だった。

「丁度よいな、これに水を」

「は!」

近くの水瓶から水をくみ入れコップに注ぐ。

そしてチュム師の執務机の端に置いた。


「何だ、何かあったか」

「はい、外出の許可を頂きに参りました」

「許可する」

「はっ、では失礼します」


その後、きびすを返して部屋を出ようとしたとき、ドアが開いて俺の鼻っぱしにゴンと当った。

入ろうとした兵士と鉢合わせたのだ。

「うわあアーーーっ」

「おい!」

鼻にまともにぶつかり、俺は大声を上げたのだ。

その時後ろで、チュム師のコップが割れる音がした。

ピンッという音が鳴り、書類が水浸しになった。


俺の鼻は大丈夫だったが、チュム師を驚かせてしまった。面目ない。


俺は急いでぞうきんで書類の水気を拭き取った――チュム師、手が震えてる。やっぱ年取ってるからかな――こっそりそう思った。


チュム師は、おっかない顔をしてコップを見つめていた。






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