27 丸い球の真実
ソク・タラは、拠点に作られた砦の高台に立って、遺跡から遙か離れた南側の草原を見渡していた。
今、草原には戦士たちが屈んで、地面をしらみつぶしに探しているのだ。
コウタロウがもたらした、異能を獲得できるという新事実。
それに仰天し、われも我もと魔素の元を探しているのだ。
――王から聞いた”丸い玉は忌むべき物”というのは何だったのか。
丸い玉が魔素の元だとしたら、これは我らにとって希望ではないのか。
魔物と戦い、死ぬ――戦士たちの運命がこれさえあれば劇的に変わる。
あの卵を身体に入れれば、魔物は避けていくのだ。
もう死ぬための戦いではなくなる。
戦士たちにとって、自分の命を救う驚異の力を得られるのだから。
戦士たちが探し出した”卵”が、ソク・タラのもとにももたらされたが、まだ飲む決心がつかないでいる。
「これを飲んで、まだ人間といえるのか? 人とは違う生き物になるのでは……」
慎重な性格で疑い深いソク・タラらしい迷いだが、コウタロウの力を目の当たりにした後だ――心は千々に乱れ、揺れている。
階下からバタバタと駆け上がる音がし、兵士が報告をする。
「コウタロウ一行が遺跡から戻りました」
「ん、分かった」
ソク・タラは、高台から降り、簡易にしつらえられた執務室ヘ入った。
コウタロウが大きな声で今日の成果を報告する。
「二百個ほど、踏み潰してきました!」
ソク・タラは、ただ頷き、もう下がってよいと身振りで示す。
若者らしい軽い足取りのまま、コウタロウは出て行った。
執務机にポツンと置かれた卵を見て、ソク・タラはおもむろに手を伸ばした。
※
俺たちは今、異能と呼ばれている。
漕ぎ手だったパヤン先輩と俺、そして農奴出身のムクン、十九歳の元雑兵だ。
彼は、チュム師に飲めと言われ、決死の覚悟で”卵”を飲んだ。
実験隊に回されたときは青い顔で震えていたが、今では「飲んでよかった」と喜んでいる。
毎朝俺たちは、朝食を済ませその後すぐに穴がある遺跡へ入る。
広い遺跡内をくまなく探し、卵を見つけたら、踏み潰しているのだ。
周りには飛び跳ねている卵や、じっとしている卵、魔物に変わった卵がある。
魔物になっても俺達には近寄らないが、俺は拳で殴り、倒している。
魔物はまだ数体しかいない。
殴れば、すぐに黒い水に変わり消える弱い魔物だ。
卵は、水となって襲ってくるが、それも俺達には脅威とはならなかった。
動けない卵はただ踏み潰す。
簡単な作業だった。
遺跡の中は靄で覆われている。
この靄がある所では卵は元気に生きている、と、俺は考えている。
近くに生き物がいれば、飛び掛かって喰らい、擬態して凶暴化する。危険な卵だった。
卵を飲んですぐに効果があるのは、魔物が避けるということだった。
そして誰も入ることが叶わなかった遺跡内部に足を踏み入れることができる。
それを知った戦士たちは目の色を変えた。
それはなぜか。
穴はまだ動き出したばかりだ。今のうちに禍根を断てば、魔物との戦いをしなくてもよくなるのだから。
だから俺たちは、毎朝、卵を見つけ、今後の脅威を踏み潰す任務をこなしている。
「なんだかこの頃、足が速くなった気がする」
パヤン先輩や元雑兵のムクン青年はそう言う。
俺は頭をかしげた。
『ただ、早くなるだけ? しかも少しだけ……』
俺の場合はすぐに効果があった気がする。
怪我は治り、飛ぶように走ることができ、重力が変わると感じるほどジャンプできた。
そのうえ、身体まで大きくなった。
「効果が出るまで、時間がかかる人もいるの……かもな」
それに、靄の中に入れば卵がどこにあるのかが分るようになった。
卵が濃い靄をまとっているのが、感じられるのだ。
”見える”というより、”感じる”という方がしっくりくる。
今拠点にいる戦士たちはこぞって草原で卵を探している。
靄から離れている卵は襲わないと、俺が教えたからだ。
ときたま、魔物は出てくるが、一日数匹程度だ。
しかも、出る場所は、靄がある周辺だけなので、簡単に処理できるようになった。
卵は、ぴょんぴょん飛んで靄から出て、近くで見つけた生き物を喰らい擬態するらしい。
そのため、この近くの生き物――トカゲやウサギに似た魔物がよく出る。
前回の穴の討伐に参加し、生き残ったクナイ・トムの戦士に聞くと、やはり以前も同じだったという。
だけど、魔物の強さが格段に違ったそうだ。
魔素を吸収しより強く育ったのではないかと、その戦士は予想していた。
魔素とは何だろう。
一体どこから来るものなのか。それともこの地の下に、元々あったのか。
前世、”地の下には竜脈がある”という設定で書かれた物語を読んだ。
『竜脈……もしかして、あるのかな?』
俺は足下を見たが、何も感じられない……。




