26 魔物討伐
まだ日は高い。
拠点に帰るにはまだ早い、時間は残っていると考えた。
「俺が食べたのは魔物の卵かどうか……」
そうでないと、人間として自信が持てない。
俺は魔物なのかどうなのか――確認する必要がある。
来た道を戻り、足下を確認しながらゆっくりと探し回った。
「あった!」
雷鳥もどきの卵……らしきもの。
卵に近づくと、また俺に飛び掛かり、黒い水が被さって、また消える。
それを何度か繰り返す内に、あの初めて卵を見つけた場所に着く。
岩の荒野だ。
そこにも三個ほど落ちているのが見つかったが、その卵は襲いかかってこない。
俺は周りの気配を辿る。
「ここには靄がない。綺麗に空気が澄み渡っている」
卵を手に取ってもピクリともしない。
もしかして、これって死んでる? それとも弱っている?
小刀で、ツンツンして小さな穴を開ける。
簡単に穴が開く、デロンとしていて落ちてこない。
開いた穴に小刀を差し込み、くるくるかき混ぜると、コキッとした。
「前と同じだ」
卵から炭酸飲料のようなシュワシュワした感じが伝わる。
地面に落すと、泡立ち、その後、ふわりと消えた。
取り敢えず、危険はない……と思いたい。
持って帰っても良いのか?
誰にも相談できない。困った俺は、残った卵を懐に入れた。
俺には危険はないが、ここには置いておけない。それに、能力が付くすごいものかも知れない卵だ。
拠点までの帰り道。やはり靄の中に卵がいくつか落ちている。
何個か踏み潰し、拠点へ向かった。
拠点は――魔物に襲われていた。
※
俺は始めて見る魔物を、まじまじと見ていた。
なぜか恐怖は湧かなかった。
雷鳥もどきに似た魔物だっだ――十羽……って数えるのか……。
だがデカい。ダチョウくらいある。
雷鳥もどきは大人しい鳥だった。
あれに似たこの鳥はまるで別のものだ。確かに魔物……なのだろう。
それは、太い足で駆け回って、戦士たちを翻弄している。
あちらでは、鋭い嘴で兵士を突き刺そうとしている。
その内、戦士たちに何羽か倒され、”雷鳥もどき魔物”は、黒い水となって地面に落ち、消えた。
俺はピンと来てしまった。
「あの卵に雷鳥もどきが喰われて、変身したのかっ!」
そうに違いない。だってここいらには雷鳥もどきが結構いるのだから。
俺が拠点に急いで近づくと、魔物化した鳥たちは俺を避けるように散っていく。何羽か靄の中に駆け入るものまでいた。
俺も加勢しようとしてチュム師の側へ駆け寄ったが、魔物が途端に戦意を無くし、チュム師に首を断ち切られ、黒い靄となって消えた。
そして、振り返ったチュム師は、仁王のような形相で、剣を構えて俺に迫ってきた。
「チュム師! 俺です、コウタロウです!!」
「……魔物の擬態かもしれん」
「そんなぁ……」
それに駆け寄ってくる者がいた。先輩だった。
「チュム師。コウタロウは魔物なんかじゃないです。魔物の目は赤くなる、よく見てやってください」
「うむ。確かに目は正常だ、しかし”穴”に入れること、魔物が敵意を見せないこと。これはどう考えれば良い?」
「チュム師、俺……分かったんです。話を聞いてください」
ソク・タラは剣を下ろさないまま、じり、と一歩だけ近づいた。
「言え。だが一寸でも怪しい動きをしたら……斬る」
先輩が息を呑む気配がした。
俺は両手をゆっくりと上げ、懐に触れないようにして言った。
「……卵のことです、ここではなく静かな場所でお話ししたい。俺の……異常な身体のことについても」
「お前の異能……か。分った。だが、拘束させてもらう。それが条件だ」
「はい、もちろん抵抗はしません」
※
俺は、拠点に作られた、囲われた場所に入れらた。
戦士が五名、囲いの周りに立っていた。
ソク・タラ――チュム師は、俺の前に立ち、剣を抜いたままじっと立っている。
俺はこれまであった事を順に話し出した。
「オレの村はここから、山二つ越えたところにあります。七歳の頃――穴が活性化した頃だと思います。卵を見つけ食べました。その後からだがぐんぐん強く大きくなり出しました。原因は分らなかったけど、今日山から帰った途中でまた卵を見つけ持ち帰りました。この卵は雷鳥もどきの卵だと思っていましたが、魔物の元なのだと今日分りました」
「……持ち帰ったのか?」
「はい。でも、穴から離れた卵は襲ってきません。穴に……靄に近い卵は襲ってきます」
「それを一人で調べ上げたと――信じられんな!」
「では、誰かに飲ませてみればハッキリします」
「「「……」」」
「お、おいらがっ、の、飲んでみます。そうすれば、コウタロウが無実だって証明できるだろう」
「先輩! あ、これ飲み方にコツがあるんで、教えま――」
「まて! まずはコウタロウが先に飲んで見せなければ信用ならん」
俺は卵を取り出し、何時もの手順でくるくる、コキッとして、飲み頃になった卵を半分だけ飲んで見せた。
皆は固唾を呑んで見守る。
「先輩、一寸シュワシュワするけど結構いけます。どうぞ」
先輩は泣きそうな顔をして受取り、震える手でグイッと飲み干した。
皆は先輩をじーっと見る。
先輩はあまりにも注目され、身の置き場がないようだ。
もじもじしながら、
「お、美味しくはないけどぉ、ウップ……なんともないような、そうでもないような……」
「どっちだ! ハッキリしろ」
チュム師に睨まれ首をすくめる先輩。すかさず俺は言う。
「あ、あのすぐには効果がでないかも、明日になれば、お肌がつるつるになります」
「お肌……」
取り敢えず、先輩の様子見で、俺の処分は保留となった。




