25 村への帰還
「コウタロウ、おまえに頼みがある――」
昨日、ソク・タラに呼び出され、俺はチュム師の要望を承諾した。
俺がまず、遺跡に入って、穴を見てくる――と言うものだった。
遺跡の中へは、普通は入れないのだそうだ。
前回の調査の時、俺は、確かに遺跡に入ることができた。
初めて知らされた事実――だから、下っ端の俺が今回まっ先に選ばれたのだ。
嬉しくも誇らしくもない、それが現実だ。
あの、船でのパヤン先輩との一場面は、俺に苦い後味を残した。
だから、俺は条件をつけた。
一日だけ休みを下さい……と。
港から穴へ続く道すがら言われたので、俺は穴討伐の拠点で仮眠し、まだ薄暗い朝靄の中、村を目指した。
ここから天祖国へ陸路が繋がっている。
だがここを通る事が出来るのは俺しかいなかった。
今地理が、ハッキリと頭の中に出来上がった。
この穴は、山を二つ越えたオレの村へ通じていたのだ。
俺の足は飛ぶように進む。
遺跡の南端を通り抜け、ぐんぐん父ちゃんの元へ、母ちゃんの元へと。
「もっと早く。もっと!」
俺は土地に縛り付けられている家族が、心配で溜まらない。
父ちゃんは農奴だ、何処にも逃げることができない。
ゴンタが死んだあの冬、山が鳴いていたのをゾッとしながら思い出していた。
「こんなに近く――魔物が溢れる場所に住んでいたなんて」
遺跡を抜け、岩山を登り、岩の荒野を跳びはねる。山が見えてきた。
あれを超えれば村だ!
今まで以上に力が湧く。
走りながら、俺は考えた。
ここまで、魔物が来ないように――俺が叩き潰してやる!!!
あっと言う間に村に着いた。
村は以前と変わらずのんびりしている。いや、少しだけ忙しいか。もうすぐ植え付けの準備があるんだから。
ここはまだ雪が残っている。春の言祝ぎは終わったか。
村の匂いがぷーんと香る。懐かしい、薪を燃やす焦げたような匂いと、少しだけ汚物が混じった身に染みついた匂いだった。
「父ちゃん、母ちゃんただいまっ!」
父ちゃんと母ちゃんは、何がどうしたという風に目を丸くして声も出ないみたいだ。
俺が大きくなったのと、側近の服装をオロオロしながら見ている。
「コウタロウか……?」
――俺が……分らなかったのか。
ジロウは大きくなった。もう俺の事は忘れているかも知れない。
まずは、金だ。
身体に括っていた袋を出す。ずしりとした重みのある袋をゴンと床に置く。
多分百万モンはあるはずだ。
「これ、絶対返しちゃダメだからね。俺が頑張った証なんだから、はい」
「あ、ああ分った。よく頑張ったな。帰れたってことだ……そうだな」
「……ううん、今日だけ休みがもらえた。すぐに拠点へ戻る。これだけは言っておく。山が鳴いたら、家から出ないで、きっとだよ。もし野良仕事していても家にすぐに戻ってきて。分った?」
「……何か……あるのか?」
「穴がまた動き出した」
「穴……そうか。分った。今までも何もなかったんだ。心配するな」
「……もう行くね」
母ちゃんが奥から慌てて何かを持ってくる。
「腹が減っているだろう。ほら、干し餅だ。ジロウが昨日もらってきた奴。途中で食べな」
「うん。じゃあ。行ってきます」
俺は軽くなったはずの懐が反対に重く感じた。
感傷に浸っている閑はない。気持ちを入れ替え、また山を駆け上がる。
「誰も餓死はしていなかった。それだけ分ればもう良い」
山を越え荒野を飛び岩山を登り切ったところから遺跡を望む。
ここから今眺めると、以前とは見え方が違っている。
遺跡の周りはぼんやりとした靄に覆われて、俺の感覚が引きずられような、額から一本線が繋がっているような感じがある。
「何だ? 前から……だったか?」
よく目をこらすと、靄から小さなものが飛び跳ねてくる。
俺はその動くものに向かい、疾駆する。
靄のすぐ近くで、動く丸いものを見て、俺は愕然とした。
「あれは、雷鳥もどきの……卵……!」
急いで近寄りつかみ取ろうとすると、卵が割れて俺に黒い水が被さる。
だが、黒い水はすぐに俺から離れ、地面に落ちてその後、靄となって消えた。
俺は遺跡の中を歩き回った。
遺跡の中にはポツポツと卵が落ちている。
そして動いている!
「何だこれは。俺が食べたのは、若しかして魔物の卵……だったのか」
俺は愕然とした。旨い旨いと食べたあれは、魔物の、元だったのではないか?
だから俺は異常に身体能力が付いたのか。
やっと納得したが、よく考えてみると、気味の悪い話だ。
「……俺は魔物?」




