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23 王家の古文書

  その昔、天祖原という国ありき。

  大地は豊かにして、風は歌い、民は天と語らいし。


  されど、地の底より黒き穴ひらけり。

  その口より洩れし気は、やがて国を蝕みけり。

  

  我らが見しものを忘るるな。

  穴はただの裂け目にあらず。

  天と地の理を乱す災いの根なり。


  穴の気、満ちれば国は傾く。

  穴の影、魔の獣は溢るる。


  ゆえに、王たる者はこれを知れ。

  穴の動きを見よ。

  穴の兆しを聞け。


  穴の禍を断つは、王家の務めなり。


――王家の秘宝といわれるこの古文書は、天祖原から逃れた、人神に使える巫女の一派が残した物だった。


天祖原は、穴によって滅び、国民は四方に散った。

ある者は北へ、ある者は西へ、そしてこの南へと。


この古文書はその巫女が息子に託したものだという。

息子――初代サンバラ王は、これを大事に代々伝えようと残したのだ。

古文書にはさらにこう記されている。


――魔の獣は穴より出る。丸い球なれど忌むべきものなり。


今代の王、ラタナ・セン・サンバラは、”丸い球”という記述に引っかかりを覚えた。

「ソク・タラ、そなた、魔物を見たことがあると申したな」

「はっ、若かりし頃、前々回の穴の活性時、討伐隊として参加いたしました」

平伏したソク・タラの後頭部をじっと見つめ、ラタナはさらに訪ねる。


「丸い球の魔物はいたか」

「……いえ、見ませんでした。古文書にその様な記述が?」

「そうだ、”丸い球は……忌むべきものなり”とそのように書いておる」


――皆目見当が付かない話だ。ソク・タラにとって、魔物との戦いは現実だった。


都では魔物を見たことが無い者ばかりだ。

戦士の多くが魔物に倒されていくというのに、その現実は市井には殆ど伝わっていない。

都の者達にとっては、魔物自体が夢物語なのだ。


穴はゆっくり広がって、やがてある日、唐突に膨れ萎んでいく。

これは報告書を調べ、彼なりに出した結論だった。


ソク・タラには、人に言えない”心の声”がある。


「なにもしなければ穴は、自滅する。態々討伐する必要はないのでは」


だが、戦士を統べる立場では、表だって言うのは憚れることだった。

穴の討伐は、二千年の歴史あるサンバラ王家の悲願。

初代サンバラ王の遺言のようなものなのだ。

そして遺言を実行するというのが、代々のサンバラ王の来し方なのだ。


どれほどの農奴が犬死にしようと、鍛えられた戦士が魔物に蹂躙されようとも、ただ王に従うより、道はないのだ。



ソク・タラは執務室に戻ると、前々回と前回の討伐報告書を机に並べ、じっくりと見比べた。


ソク・タラは報告書を開いた。


【第八十六回討伐隊 報告書/第三隊】


一、雑兵突入。クナイ第二隊、後方より援護。

一、大型魔物討伐後、水状となり消滅。

一、付記:クナイ・スレイ隊、後方にて待機。

一、付記:生存者五十三名。内訳:クナイ・トム五十名、クナイ・スレイ三名

一、戦死者合計:五百六十七名


淡々とした記述が続く。


【第八十七回討伐隊 報告書/第一隊】


一、雑兵、逃亡するも全滅。

一、クナイ、全滅。

一、クナイ・トム半壊、後衛に踏みとどまるも、その後壊滅。

一、穴、消滅。魔物霧消。

一、付記:生存者、クナイ・トム、五名

一、戦死者合計:九百五十五名


ソク・タラは、討伐後の魔物の違いに首をかしげた。


――私も倒したことがある。魔物は死ねば、黒い水となって溶けるように地に落ちた。だが、穴が消滅した途端、霧散した。


この違いは何だ?


今まで、目にとめなかった細かい記述が、急に気にかかる。


さらにソク・タラは、以前コウタロウの不可解な行動を思い出す。


――不活性時期の穴周辺へは、踏み入ることができない。だが、あの時コウタロウは、何の抵抗もなく踏み入った。これも謎だ。


ソク・タラの目には、無駄に死んでいく戦士たちが映る。

今度また穴が活性化するまで、自分は生きているかどうか。

何とか戦士たちの安全を確保しておきたい。


切に思うのだった。


それが、例え一人を犠牲にする道であったとしても。



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