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18 穴という不思議

船が上陸したのは、どこか分らない場所だった。

だが俺は――ここは村からは遠いと考え、安心じた。


「ここはサンバラのどの辺りですか」

と、パヤン先輩に聞くと――ここはサンバラからは離れているが、天祖国とも言えない場所さ――と教えられた。


天祖国よりもずっと南に位置する港で、簡易の船着き場が設けられていた。

ここは穴の調査のためだけに造られた港で、見張りが数人いるだけで人は住んでいないという。


簡素な建物がポツンと建っていて、そこには上官たちが寝泊まりするらしい。

他の船員は野宿だ。数人は船に残るらしい。


周りを見渡せば、草が生い茂る荒野、といったところで、ここからさらに北へ徒歩で一日の距離に穴はある。


俺は穴を見て見たかった。居残り要員にされそうになったので、無駄に力をアピールする。

つまり、重い木や石を持ち上げて見せたりしたのだ。


「君は新兵か?」

偉そうな叔父さんが声を掛けてくる。帯の色は金色だった。

装備もやけに金ぴかしている。

これは、アピールしておかないとと思い、俺は早口でまくし立てた。


「はい! 持久力は抜群で疲れ知らずの怪我なしと言われています!」

そう言うと「ほほう、そうか。では君、私の小姓に取り立ててやる、こっちへ来なさい」

にまにまと笑いが止らない俺は、ホイホイ後を付いていった。


叔父さんは、クナイの最高位――クナイ・トム・チュムだったらしい。

名前ではなく位のことだ。

叔父さんの名前は、ソク・タラだと言った。


彼は、決して大きくはない。せいぜい百六十センチ前後だろう。

だけど威圧感が半端なかった。

声は荒げない、静かに相手を見つめ低い声で語る。

それだけで相手は顔を青くしビビりまくる。

たった一日でそれが分った。


俺の寝床はソク・タラのすぐ側だ。布にくるまってごろ寝だが、屋根があるだけで安心感があった。


朝、誰よりも早く目覚めたと思ったのに、すでにソク・タラは目覚めてじっと寝床に横たわっていた。

俺は慌てて飛び起き、彼の身の回りの世話を甲斐甲斐しくやく。


支度が調い、皆が起き出すのをじっと待つ、ソク・タラ。

この緊張感が、妙に落ち着かない。

偉い人だと知らされて、気安く声も掛けられない。

副隊長が来るまでの間俺は、彼の側で身の置き場がなく、じっと待つしかなかった。


やっと部屋の戸が叩かれ、副隊長が入ってきた。

俺は詰めていた息をフーッと吐き出した。


「今日、出発で宜しいでしょうか? 早めに穴まで着かなければ、ここいらに雪が降るかも知れませ――」

「うム。足の速い兵だけで少人数で強行する。人選を」

「はっ!」


俺は急いで食事の準備をし、後片付けを終わらせる。

「君は足は速いか」

「はい走りには自信があります。一日中走っても疲れません。何ならチャム師を負ぶっていても平気です!」

そこでソク・タラはフッと笑い、

「そうか」と言った。


出発の時、何処から見つけてきたのか、馬がいた。

その馬にソク・タラが跨がり、俺は馬と並走する。

周りに集まったのは、若い兵士で身軽な奴ばかり十人ほどだった。

副隊長はどうかというと、どうやら足が遅いようで居残り組だった。


その副隊長は、俺を睨んで、

「しっかり守れ!」

と威圧してくる。だけど、彼の威圧は大した事がない。

俺がヘラヘラ笑って「任せておくんなさい」とふざけると、

頭をはたかれた。


――叩くことはないだろう……痛くは無いけど。


北へ向かい、ソク・タラをのせた馬は、軽快な速歩で走り出す。

俺は気軽な散歩程度に大股で付いていく。

周りの兵達も走り、難なく付いてきているようだ。


だが、一時間もすると遅れるものが出てきた。


「キツければこれより戻れ」

ソク・タラは、容赦がなかった。

数人は悔しそうにうなだれて戻っていったが、他の兵は頑張って付いて来れたようだ。


中継地点に着き休憩を入れて、そこで皆倒れ込んでしまった。

俺は馬の世話がある。ソク・タラは馬から下り皆に食事を取るように言っていた。

俺は馬に水を飲ませ、汗をかいた身体を拭いてやる。

大体の仕事を終え戻ると、ソク・タラは、

「君はホラではなく、本当に規格外だったのだな」

その眼を大きく見開いて、そう言ってくれた。


一時間の休憩後、また走り出すようだ。

このペースだと夜まで走り続ければ、六十キロくらいは進めるのではないだろうか?


「きみ、名前をまだ聞いていなかった」

俺は、――え、そうだったっけ――と思いすかさず名乗る。

「コウタロウって言います」


「そうか、今回の調査は私が見たかっただけだ。これからは私一人で行っても良いが……どうする?」

「っ俺も行きます! ぜっぜん平気です。何なら、馬をもっと速く走らせてくれても構いません!」

「……」


兵達はここで待つことになり、俺とソク・タラだけが、“穴”まで征く事になった。


“穴”は、港から百二十キロも離れていないそうだ。

普通の兵がゆっくり歩けば三日はかかる距離だ。

だが馬なら半日で着く。

馬をもっと速く走らせれば、難なく着いてしまえる場所にあったらしい。


兵達を置いて、ソク・タラは馬の速度を上げた。

俺は負けじと、馬の横を走る。


ソク・タラは、馬と競走するように走るおれを、ちらりと見て、馬の腹を軽く蹴った。

途端に馬に追い越された。

悔しくなった俺はポンポンとはねるように両足を踏み出す。

足の歩幅が三倍に跳ね上がり、馬を追い越した。


調子に乗って走っていたが、いつの間にか馬の姿が消えた。

「あれっ……」

振り向くと、ずっと後ろをゆっくりと馬が歩いてくる。


「コウタロウ、馬は、続けて全力では走れない。自重しなさい」

「……はい」


「もう着いてしまった」とソク・タラに言われ、初めて俺は周りを見まわした。


そこは、いつか来たことがある遺跡だった。

俺は、馬の世話も忘れて、愕然と遺跡に見入った。


「今、安定期かどうかの確認のために来たのだ。暫く見て回る。君は休んでいなさい」


呆然と佇む俺に馬の手綱を握らせ、ソク・タラは遺跡の外縁に沿って歩く。


手に握らせられた手綱を見て、ハッとした俺は馬の世話をする。

水を与え、身体を拭き、一通り世話を終えた俺は、フラフラと遺跡の中へ入っていった。


遺跡の中心には、やはり、あの、塊があった。

ドクドクと脈打つような塊。

「少し大きくなってる……」

塊は十センチほどに成長していた。側に雷鳥もどきの卵が落ちていた。

「こんな処になぜ?」


俺は、何気なく卵を拾い、ずた袋に入れる。

遺跡の中には魔物などいない。

ただ靄のようなものが以前と同じく漂っているだけだった。


ふと顔を上げると、ソク・タラが怖い顔で遠くから睨んでいた。


あッ、と思い急いで遺跡から走り出た。






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