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13 初めての船出

あっと言う間に春になった。

今までで一番早く春が来たと感じる。

春風も収まった頃、俺は出発する。


今年は天祖国の廻り役人が来なかった。

毎年のことで手間がかかりすぎると今更ながら気が付いたようだ。

日時だけが決められて勝手に港まで来いということだ。


来年の徴兵も村で決めるよう、お達しが来たらしい。

一番体格が良い奴を出すという取り決めだそうだ。

農奴に否は無い。決められたとおり行くまでだ。

万が一俺が逃げれば、村全体で罰を受ける。


……旨い制度だな、まったく。


港までは歩きで半日の距離だ。

村長が一緒について行くという。

父ちゃんは来たくても無理だ、農奴だから……。

家を出るとき、父ちゃんから八百モン手渡された。

この金は、冬の間母ちゃんやみんなで稼いだ内職の全額だ。


「要らない。塩や麹、買えなくなる……」

「馬鹿を言うな、いいから持って行け。金なんて何とかなるさ。命までは買えないんだしな……」


最後の言葉は、消え入るような声だった。

母ちゃんは家の奥から出てこなかった。



港は活気づいていた。

俺は、淋しさも忘れ口をあんぐり開け、港に停泊していた船を見ていた。


前世では見たことがないような船だ。

四角い帆。二本マストで、平底のややずんぐりした船だ。

三十メートル位あるか? 船の両脇にはバランスを取るためだろうか、長い棒のようなものがついている。

もしかして、前世、テレビで見た「アウトリガー」っていう奴か。


正面から見たらまるでヤジロベイみたいだった。


船の上で、大声で怒鳴っているのは船員だろう。

腰に布を巻いただけの、まるで、腰巻きのような簡素な服装だ。

あんなの、どこかにひっかけてしまわないのだろうか。


申し訳程度に上着を羽織っているのは、ここの気候が堪えるからだろう。

サンバラ国はずっと南の国だと言うし。


裸足で縦横無尽に走り回っている。乗組員たちはそれぞれの仕事で忙しそうだ。


荷を積むのも大変そうだ。

重そうな荷物を肩に乗せ、細い渡し板を、ホイホイ身軽に渡っていく。


ここで、少し待っていると、一緒にサンバラへいく子らが、三々五々到着し始めた。


村長に連れられて、三人から五人のまとまりでやって来る。

俺みたいな独りぼっちは、いないようだった。

俺の村は相当小規模なんだろうな。


村長たちは子らをここに置き、帰っていった。

俺たちを船に乗せるための係なのか、二十歳くらいの浅黒い若者が、訛りの強い言葉で、

「こっちだ、海に落ちんなよ、ガキども」

そう言って、船まで案内してくれた。


若者は、陸の上ではフラフラとおぼつかない足取りだったが、いざ船に乗るとまるで別人のように歩き出した。


確か、長い間船に乗っていると平衡感覚がやや変わる、と聞いたことを思い出した。

益体もない知識だけが思い出される。


船に上がるとマストの側に集められ、人数を数えられた。

帳簿と照らし合わせているようだ。


俺は子らの中で、頭一つ分背が高かった。

なぜか子らはビクビクして俺に寄って来る。


寄らば大樹の陰ってか?

前世でもそうだったが、これは俺の持って生れた宿命みたいなものかも知れない。


その後、狭い船室に押し込められた。

周りには積み上げられた荷物が所狭しと置かれている。


子らの一人がヒクヒクと泣き出し、伝染するように半分くらいが泣き出した。


俺にはどうしようもない。見ない振りをし、薄暗い船室の中を見まわした。

上を見上げると板の隙間から、光に照らされてほこりの筋が線のように浮かんでいた。


甲板を走り回る船員が通る度、その光が点滅するようにみえる。

ドタドタ、ペタペタと船員たちが動き回り、その内静かになった。


暫くすると壁の向こうから

「えい」「ホー」「よい」「ホー」と低い声が聞こえ、船がゆっくりと動き出したのが分かった。


船は港からどれくらい離れたのだろうか。

甲板へ上がってはいけないのか。

じりじりとしながら俺は、子らの泣き声を聞き、長い間膝を抱えて座っていた。


数時間は経ったか。

ションベンがしたくなった。

船室のはしごの下に、あの青年が置いてくれた汚物用の桶がある。


――これにしておけ、おいらが捨ててくるからな。オマエ等には船の便所は危ねぇからよ。


俺は早速、一番乗りで用を足した。

それを見ていた子らが、次々と桶に向かい用を足した。

上からの光はなくなった。もう夜なのだ。船室という名の倉庫は、人の影さえ見えない暗闇。


腹が減ってきた。

子らは持ち寄った握り飯を食っていたが、俺は船酔いが怖い。

前世、乗り物酔いで酷い目にあった。

ここには酔い止めの薬などないだろう。

そのまま空腹を抱えその場にごろりと横になった。


翌朝目覚めると、青年がはしごをおりてくるのと目が合った。

「飯だ、天気がいいから、甲板で喰ってもいいぞ」

そう言って青年は汚物入りの桶を持ってはしごを上がっていった。


はしごを登り、狭い出入り口から甲板へ出る。


思わずグッと背を伸ばし、深呼吸をした。

潮の香りが鼻を抜け、まったく世界が違うという実感が湧いた。

側には銅鍋が置かれ、その隣に変わった米が山盛りになっている。

細長い米だ。

青年が深皿に米を盛り、スープを掛けて渡してくれる。


スープからは不思議な、食欲をそそる匂いが周りに立ちこめた。


「味付けは魚醤だ。喰ったことネェだろ。おまえんとこは味噌だもんな」


箸も何もないのでどうするのかと聞くと「手で喰え」といって笑う。

青年に食べ方を習いながら、空きっ腹を満たした子らから、笑顔が覗いた。


スープには魚が入っていた。

海の魚は転生して初めてだった。






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