12 子らの語らい
山から戻り、野良仕事をしている父ちゃんを手伝う。
「山で何か拾ってきたか?」
「うん、また雷鳥もどき、捕まえてきた。それと樹液」
「お前だけだな、雷鳥もどきを捕まえてくるのは。秘密の穴場か?」
「……う、そう秘密」
「は、は、そうか。だが、山の向こうは行くなよ」
「……分かった」
俺は、咄嗟に嘘をついた。前々から、禁止されていたことだと知っていた。
それでも敢えて行っていた、食いもんのためだ。
父ちゃんは鍬を置き、少しだけ真面目な顔になった。
「危険だというだけではないんだぞ、おいらたちは山の向こうまで入ってはダメなんだ」
「え、どうして?」
ここで父ちゃんから、自分達の身分を教えられた。
ここいらの農家は、村長以外は農奴だと初めて聞かされたのだ。
「農奴って、奴隷?」
「奴隷とは少し違うが、土地に縛り付けられて、自由はないな」
父ちゃんの言葉は、俺に衝撃を与えた。
前世では、農奴など聞いたこともなかった。
百歩譲って、他の国にあったとしよう。
それでも、ニュースには出ていなかった。
「じゃあ、村長は一体何?」
「村長は……何だろうな。サンバラ風にいえば、領主様……か?」
あの、粗末な家に住んでいるのが領主だと聞かされ、
俺は、この国は一体ドンダケ貧しいんだと落ち込んだ。
この村で文字を読み書きできる者はいない。村長も文盲だそうだ。
言い伝えを口承する――それが今の村長の立ち位置らしい。
この頃、無駄に成長しすぎたせいで、なにかと子らの先頭に立たされるようになった。
俺の上には十人くらい年長の子らがいるのに、なぜかそいつらまで俺の指示を待つようになった。
まあ、身体が人一倍デカくなったせいだろうが、俺に聞いてどうするんだ?
聞かれても、学がない俺に答えようがない。
知ったかぶりしてただ頷いていると、勝手に解釈してくれる。
まあ、それはそれで楽なので、そのままにしている。
その中で、三つ年上のサラだけが、俺を疑いの目で見てくる。
一昨年の雑草取りが原因だろう。
物言いもキツい。
「ちょっと、コウタロウ。あんた、何いい加減に頷いてんのよ。ちゃんと考えてるの!」
「え、そ、そうだな。えーと……皆の意見がすごくいいかな。それでいいかなと……」
「ふーん、だったら、これで進めるわ。今年の秋祭り」
お前が先立ちになればいいじゃん。何で、俺に一々許可取るんだよ。
そう思っても、口には出さない。おっかなすぎる。
今年の秋祭りは趣向を凝らすことに決まった。
いつも、大人たちが最後まで飲み明かすのに不満を持っていた子らは、自分達もなんとか最後まで祭りに参加したいと考えたようだ。
十二歳の男の子は五人いる。彼らの火飛びの祭事は、来年成人するための心構えをするための神事だった。
どこの世界でも似たようなことをするんだなと、一人納得する。
前世、日本では成人年齢が高く、文明社会になって、成人の儀はただの年齢の価値以外は無いと思う。
ここでは十三歳で成人し、すぐに所帯を持つそうだ。
男も女もだ。
あの、おっかないサラでさえ、来年は嫁に行く。
こいつの旦那になる奴、ご愁傷様……。
だが、この頃は少しだけ村の事情が変わった。
兵隊として連れて行かれる者が出てきたから。
だから、十歳の子らにも火飛びをさせよう、そして皆で送り出そう……という名目で、自分等も大人と楽しむ口実にしたわけだ。
よく頭が回るな。
今年、秋祭りは大盛況だった。
来年は俺も火飛びに加わる。
俺は、多分、徴兵されるだろう。
そしてここへは二度と戻れない……。
ゴンタと同じように肉の壁になる。
今は穴は、不活性時期だそうだ。上手くいけば三十年このままの状態が続く。
そうなれば、俺はここへ帰されるだろうが、俺の予感は帰れないと告げていた。
来年の春に検査があるそうだ。
そして、最後の冬を越せば……
※
次の年の春、今年徴兵される子の出陣式があった。
この村からはたった一人だけだが、天祖国からは全部で五十人弱が徴兵される。
ここには、天祖国の”廻り役人”も来ていた。
村長と廻り役人が、少し離れたところでひそひそ話をしている。
俺は何時ものように気配を消し、側へ行って盗み聞きした。
「毎年になった徴兵制度は、天祖国にとって負担ではないのだろうか」
村長が小声で尋ねる。
「負担だとも」
廻り役人は鼻で笑った。
「天祖国の総人口は五万人ほどだ。サンバラに押し付けられて、それはもう大変だそうだ。いつ活性化するか分からない“穴”への備えのためだけの徴兵だぞ」
役人は、腹に据えかねると、サンバラ国をひとしきり非難して、
「農奴といえど、この国の農業の担い手が減っていくのだ」
廻り役人は農奴に優しいみたいだ。俺は役人の顔をそっと覗く。
「わしんとこの体格の良い奴ばかりが連れて行かれてしまう。何とかなりませんかお役人様」
「無理だな……こればかりは」
この日、俺が来年の徴兵に決まった。
「この村にもずいぶん立派な体格の子がいたんだな、来年は君の出番だ」
廻り役人がそう言い、村では満場一致だった。




