116 ナナの故郷
「あなたも来なさい」
べルーダの鶴の一声で、俺もナナの島へ行くことになった。
ラヌビスを連れて行ってもいいか悩んだ。
二人きりになった時、俺は、彼を睨んで問い質した。
「もう、儂に皇ヘの未練はないと言うたじゃろうが。安心せい。ただな、あの地がどう変わったか、聞いてみたいと思うておる」
半信半疑ながら、ラヌビスを連れていくことにした。
――何かしたら、この手で葬ること……となる。
この世界は本来の成長に戻りつつある。
俺はそう考えている。急激な発展。それは人を置き去りにし、一部だけがそれを分かち合う、いびつなものに形作られていた。
これからは、身の丈に合った発展をしながらゆっくりとしたスピードで成長していくはずだ。
そう考えるのは俺のエゴかも知れないが、これ以上の横やりは不要だ。
船に乗ると、ラヌビスは船酔いし始めた。以前も慣れるまではこうだった。
どうしようも無いのでそっとしておく。
「もう直ぐ着くわ」
ベルーダが朗らかな声で叫んだ。
ラヌビスが船に慣れるより先に着いたようだ。
黒い毛皮の犬なので顔色は分からないが、たぶん真っ青なのだろう。
ふらふらして歩けそうもないので、抱きかかえる。俺の背中には彼の発電機が背負わされているからな。
港に着くやいなや、ベルーダは島の南側に歩き出した。
港のある街はすごい賑わいを見せていた。船が引っきりなしに行き交い、大量の荷物を降ろし、そして積み込んでいた。
街を行き交うのは、ほとんどが商人たちだ。
大声で商取引するものや、小声で取引するもの、様々だった。
ベルーダの後をついて歩いている、どんどん街から遠ざかっていく。
島の中心には泉があった。
「その水はそのまま飲んではダメよ。硬水だからお腹を壊すの」
島の住民は雨水を溜めたり、粗悪なワインで泉のミネラルを除去してから飲んでいるようだった。
南の海岸沿いまで来ると、小さな集落があった。
空き家が多く、住人は五十人ほどではないだろうか。
そこの人々は一様に背が低く、ずんぐりしていた。
灰緑色の肌。濃い緑の髪の毛、そして目は大きくくりっとしていて、虹彩は美しい緑色だった。
「ナナと同じだな」
「うん、アタイの種族。みんな同じ」
ナナは知り合いを見つけたのか、駆けだしていってしまった・
「ここは、かつてのスファル大陸に住んでいた種族の、生き残りの島だったの。今では私達のような種族に置き換わってしまった。純粋な種族は大陸の南と、ここにしかいなくなってしまった」
この言葉を聞いて、ラヌビスは目を反らし耳をぺたんとさせた。
ベルーダは、一年ほど前、ここに滞在していたという。その時に商人たちが持ち込んだ流行病にここの住人が冒されてしまったようだ。
そのため、住人のほとんどが体中あばたになっている。
――痘瘡……のようなものかな。
治癒の魔法陣を使って治して上げたいのだと、彼女は言う。
「彼らはもっといたんだけど、半分くらいに減ってしまったの。ナナの家族も許嫁も……」
さらにラヌビスに追い打ちを掛けるようなことをベルーダは言った。
「帝国が傾き、港は機能しなくなった。そのため立地条件のいいこの島に、商人たちが商取引に利用するようになったの。私たちのせいなのよこうなったのは」
ラヌビスは、立ち直れないのではないのか。もう表情が抜け落ちてしまった。
島の空き家に滞在させてもらう。
「幾らでも空いているから、好きに使って良いと言われたわ」
ラヌビスと二人きりになって俺は慰めることにした。
「お前のせいじゃない。これは、あとに皇を継いだヤツが不甲斐なかったせいさ」
「いや、儂がいたとしても同じじゃったろう。もっと悲惨なことになったやも知れん」
確かにそうだろう。デルードから聞いた話によると、ラヌビスはスファルタン帝国の地力を吸い取る装置を作っていた。それで次元に穴を開けてか、故郷へ帰ろうとしていたのだから。
さらにベルーダの言ったことが思い出された。
「ここの住民は穏やかで人なつこく学習能力に優れている。でも、何と言っても彼らが作る造形物は素晴らしい。芸術に特化した種族なの」




