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113 これからの生きる世界

夜になるのを待って、天祖穴へ入ることにした。

夜は見張りもいないし、天祖穴へ入る魔法兵もいないからだ。


「ラヌビス、最下層へ入ったら、また前のように、君を俺の身体に縛る。そうしないと、黒い玉の中に入れないから」

「黒い玉……あれは一体なんじゃ?」

「多分、俺の世界で読んだ本の物語と同じものだ。ダンジョンの核だと思う」

「ダンジョン……お主の世界はとんでもないところだったのじゃな」

「……物語の話だよ。本当のことじゃない」


砂漠の階層を超え、草原の階層を抜ける。


「サンクチュアルと、同じだ。この次の階には亡霊の魔物がいて、そこだけが違うんだ。不思議だ」

「儂はこれで二度目だが、確かに造りは似ておるの」

「最下層へ入る背中には荷物があるから、ラヌビスは身体の前に縛るか」


ラヌビスが俺に抱き付く形で縛る。この格好だと彼は俺の後ろを見る。


「魔物は襲ってこないからいいけど、誰か来たら教えてくれ」

「ああ、任せろ」


こんな夜中に人がいないだろうとは思うが、万が一、と言う事もある。

最下層へ入ると、五メートルの半球形の玉があった。

サンクチュアルのものと似ている。

まるで、こっちの天祖穴と魔法世界のサンクチュアルの間にすっぽり挟まっているように感じる。

俺は呪文を唱える。


「デルㇽㇽㇽ、浸潤」


いい加減な呪文だが、イメージが大事だ。治癒の波形だってそうだった。

必ずしも呪文が必要というわけでもないのでは――

得意な属性なら呪文は要らない、と俺は思っている。

片足ずつ、一歩一歩、黒い玉にめり込んでいく。

ズブズブと身体全体が入り込んだ途端、弾かれそうになるが堪える。そして反対側から引っ張られる感覚に身を任せた。

目の前にはさっきと同じような最下層があった。

だが、ここはサンクチュアルだ。

ラヌビスは俺の後ろを見ているようだ。


「どうした?何か気になることでもあったか?」

「……以前、儂はここで何も、感じなかった……今は……」


ラヌビス。どうした?


「気味が悪いだろう、その玉。生きているように感じられる。ギラリとしたり、どろりと動くように見えるだけだ、気にするな」

「……」


俺たちは上の階を目指す。ラヌビスは自分の足で走り抜けた。

上の階には、今は採集人はいなかった。


「こっちも夜中なのかな。時間が同じになった……やっぱりそうだったんだ」

「以前は違ったのか?」

「以前は、時間と空間が歪むという階層があった。それが消えてしまって、天祖穴が出来上がった。俺はそう考えているけど。ラヌビスはどう思う?」

「あり得る。エネルギーを大量に使う空間が変化してこうなったのではないのか、と予想できるな」


以前の四階層だった所は、いまは三階層と呼ぶのか。

そこには魔物がうようよいたが、俺たちには寄ってこない。

ここで少し魔核を拾って、ベルーダに持って行こう。

以前は黙って出てきたから、彼女はきっと腹を立てているに違いない。

ご機嫌取りだな。

三十個ほどの魔核を拾い、魔素が詰った魔核も五つ見つけた。

これだけあれば良いだろう。

二階層を抜け一階層の砂漠へ出た。


「ラヌビス、今のうちに水、飲んでおくか?」

「大丈夫じゃ。以前の時はエネルギーが空っぽだったが、今は補充しておる。これくらいは我慢できそうじゃ」


俺はゆっくり歩き、ラヌビスは必死に走って俺に着いてくる。

出口が見えてきた。サンクチュアルの門だ。

朝日が少しずつ闇を払っていく。

山裾がぱーっと明るく照らされ始める頃、俺は山を下っていった。

しばらく神殿の門の前で立っていると、見知った門番のノビスが俺に気付いて走り寄ってきた。


「コタルルッロ! 戻ったのか」

「うん、黙っていなくなってごめん。ベルーダ司祭は?」

「……今はここにはいない」

「何で? デルードは、彼もいないの?」

「デルード司祭はおられるぞ。呼んでくる。待っていろ」


三十分してデルードが出てきた。

走ってきたようだ、息が上がっている。起きてすぐだったのか、髪の毛が逆立っていた。

よほど慌てて駆けつけてきたのか、寝癖があるデルードを見たのは初めてだった。








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