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112 出国

魔法世界へ 行くときには、ラヌビスを連れて行く。

多分あいつは行きたがらないだろうが、あいつをここに置いておくわけに行かない。

また誰かと仲良くなって、この世界の成長を早めてしまうかも知れない。

ラヌビスの持っている知識はとんでもないものだ。治癒は特に素晴らしい。

だけど、心の用意ができていない者達に、今までとは百八十度認識が変わってしまうような技術は、果たしてそこの人類にとって助けとなるのか。

大きな波に攫われて、溺れてしまうのではないのか。

俺は、自分の手でそれをやってしまった。

これ以上はダメだ。

ラヌビスが、スファルタン帝国でやってきたことを見れば自ずと答えが出る。

未開の地だった大陸全土、更には周辺諸国までをも巻き込んで、あるべき姿を変えてしまったのだから。


「魔法世界へ行くと言ってもなぁ……特別準備するものもなさそうだ」


先回、魔法世界へ行ったのは、魔法をきちんと習う目的があった。

でも今回は、ラヌビスを連れて逃げ込むためだ。

このままエルタゴスへ入ってもいいのか――エルタゴスにしても、ラヌビスは脅威のはずだ。

俺は、頭を抱えてしまった。


――どこへも行けないのでは?


「何を悩んでおる。コウタロウ」

「……魔法世界へ行こうとしているんだ。ラヌビスも一緒にな」

「儂はここにいる。お主もここにいればいいではないか。魔女がうようよおる魔法世界など、儂は好かんぞ!」

「ん? ラヌビスは、魔女が怖いのか」

「あ、当たり前じゃ。儂の理解の及ばぬものは、脅威の何物でもないわ」


知らなかった。そうか……ラヌビスは魔女が弱点だったか。

これはいいことを聞いた。こうなったら何としてでも、こいつを連れて行く。

俺はもう一つの気がかりを片付けようと思った。

それは、テセンのことだ。

彼はこの南砦にいて、毎日剣の稽古や見廻りなんかをしている。

だけど、そろそろヌエタラ領主、ソク・タラに呼び出されるだろう。

彼の本意を確かめ、彼が、ヌエタラをどうしたいのかを聞いてから、俺はこっそりと逃げる。もうここには帰れない。

軍隊から”逃げる”ということは、斬首刑に値するのだから。


「テセン、君はこれからどうしていくつもりだ?」

「……サンバラでは死んだことにされてしまったからな。帰ることはできない。家族にも迷惑を掛けるだろうし。私の副官だった男が、今のクナイ・トム・チュムだそうだ。彼は、私に取って代わりたくて、私をここに置いていったのだろう」


テセンは、王からどのような指示を受けたか、そしてその時の気持ちも一緒に語ってくれた。

ソク・タラを尊敬し憧れていたこと。その人物を手に掛けねばならないと葛藤したことなどだ。


「私は、これは神から与えられた希望だと考えている。ヌエタラの地でソク・タラ殿の力となれるのであれば、これ以上の幸せはないと考えておる」


「そうか、分かった。君の好きなようにすればいいさ。一つ、君にお願いがあるんだ」


俺は、テセンに事情を話した。詳しいことは伏せたが、通信機器の新しい技術はこれ以上発展させてはサンバラにとっても、このヌエタラにとっても、諸刃の剣になることだ。


「だからこれ以上ここに俺はいられない」


その事をソク・タラに伝えてもらいたいと……俺がいなくなったあとに。


「……必ず伝えよう」


俺の目を見てテセンはさらにこう言った。


「私の命を救ってもらえて、感謝している」




よし! 父ちゃんにも別れを言った。ソク・タラにも伝言できた。


あとは行動するだけだ。ラヌビスが、エネルギーの充填をする前にとっ捕まえて、無理やり連れていけばいいだけだ。


今は雷も少ない。チャンスだろう。


少しの荷物をずた袋に詰め、ラヌビスが今住居にしている仮兵舎を目指した。


以前は俺の執務室に入り浸っていたが、この頃は、この取り壊し予定の小屋に陣取っている。


負傷兵を収容するためだけに急遽作った小屋な為、近日中に壊すと伝えても、頑として動かなくて困っていたのだ。


扉を開けると、木の姿のラヌビスが六十センチくらいの箱の上にじっとしている。


「ラヌビス、何している?」


【エネルギー……の……充填だ】


「……! 雷がなくてもよくなったのか」


【ああ……お主が……仕入れてくれた……銅線の……お陰だ】


俺は焦った。だけど、ラヌビスがエネルギー満タンになっても、俺の怪力に抵抗できるのか?


試したことはなかったが。


天祖穴を抜けて、サンクチュアルへ行く。その間だけでいいのだ。


「ラヌビス、一緒に俺と行ってくれ。魔女が住む月の神殿にずっといるわけでもないんだ。あっちへ着いたら、誰もいない場所へ行って静かに暮らそう」


【……水が……まずい……】


そうだった。ラヌビスは水がなければ生きていけないんだった。だけど、これほどの技術があるんだから自分でなんとかできるのでは?


「お前、自分で作れるようになっただろう。これは発電機かなにかなら、どうにかできそうだがな」


【できない……ことも……ない】


ラヌビスが犬に変化した。俺は今まで彼が座っていた箱を持ち上げ背中にくくりつける。


「おい! なにをする、返せ」


「これも持って行ってやるから、ラヌビスも一緒に行こう、な」


ラヌビスは、俺の後を付いてくる。


俺の足に纏わり付き、ぴょんぴょん跳ねて、「返せ」と言うが、俺はそのまま歩く。


「ラヌビス、俺たちはここにいてはダメなんだ」


「なぜじゃ。助けになったであろう。戦争にも勝てる。ヌエタラは大きくなって帝国になる。そうであろう?」


「それではダメなんだ! 俺もお前も、ここでは異物だ!」


ラヌビスはビクンと耳を立て、立ち止まる。


「確かに儂はそうじゃろ。だがお主はここが生まれ故郷であろう」


「俺には前世の記憶がある……」


「……そうであったか」


それからは大人しく俺の後をついてくるようになった。





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