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111 技術革新

俺は、走った。久しぶりの自由だった。

二時間足らずで領都に着いてしまった。


「ヌアタラ領主に面会をしたい。魔法部隊隊長コウタロウだ」


待たされる間もなくすぐにソク・タラの執務室に通された。

執務室には、兵士隊長と側近数名、魔法部隊の班長も同席して、込み入った話の最中だったようだ。


「コウタロウ、ちょうどよかった。君を呼びにやった伝令を走らせたが……ずいぶん早かったな」

「いえ、伝令とは行き違いだったようです。新技術の提案を持って参りました」


ソク・タラの眉がピクリと上がり、俺は別室で待つように言われた。

茶が出され、ぼんやり待っていると、ソク・タラが入ってきた。


「待たせたな。新技術とは……聞かせてくれ」


すぐにソク・タラは本題に切り込んできた。相変わらず無駄がない。


「これです。何だと思います? へ、へ、これは伝令いらずって言うヤツです。すごいでしょう?」

「……コウタロウ。はじめから順を追って説明しなさい。訳が分かるように。分かったな」


やべ、つい興奮してしまった。ちゃんと説明モードに切り替えなくては。


「これは、遠くの人と通信……えーと……連絡するためのものです。今使って見せますので見ていてください」


箱の横にあるハンドルをくるくる回す。これは発電用だ。

しばらくして、持ってきた紙に書いてある符号をゆっくりと打った。

通信が繋がったようだ。向こうからの答えが返ってきた。

紙に書いてある符号と照らし合わせ文を読み上げる。


「ソク・タラより伝令。領都へ来るべし」


ソク・タラの表情の変化が窺えない。コウタロウは踏み込んで説明をした。


「これは領主が僕を呼んでいるという、ソク・タラ様の伝令が到着したというしらせです。分かりますか」


途端に納得したのか、ソク・タラの目が大きく見開かれた。

ソク・タラの驚く顔を見て、俺は大満足だった。


「コウタロウ、これをどうした。まさか、魔法の世界ではこのような技術があったと言うのか」

「いえ、あー……そうかも。そうです魔法ですね。多分」

「……多分……か。まあいい。言えないということだな。詳しくは突き詰めないでおこう。しかしこれは、戦争の概念を覆す代物だぞ」

「戦争……始まるのですか」

「国を興すには、痛みはつきものだ……」


ソク・タラからは、この機器をあと五つ欲しいと言われた。

船に乗せて使うのだという。機動力のある船に搭載しておけば、小回りが利くというのだ。

俺はすっきりしないまま帰路についた。

これからの伝令隊は様相を変えていくだろう。馬に乗って走り回っていたのが、机に向かい一日中通信の傍受をしていくことになる。


「俺は、何をしてしまった……?」


ぼんやりとそう呟くと、ラヌビスが、


「遅かれ早かれ技術は革新していく。今がその時だった。そういうことだ。ここの世界は魔法自体が元々無かったのだろう? 魔法に依存しない生活ならば、その内人間は到達する知識だった」

「俺は、それを早めたって言うことだよな」


俺のしたことは悪いことだったのか。そうではなく、ただ早まっただけなのかは、これから先も知ることはない。

実際、この世界の国がどれほどあるのかさえ知らないのだ。

もしかすると、サンバラや、天祖国の他にもたくさんの国があるのかもしれない。

ずっと西の方へ行けば、エルタゴスがあるかもしれないし、もっと違う国が散らばっている可能性だってあるのだ。


さらには次元が違うというラヌビスの世界も、どこかにあるのだ。


「俺って、小さな世界の一部分しか知らなかった……」


電信機器は五個だけ作って、ソク・タラに渡した。


「もう作れなくなりました。これを作ってくれた人が死にましたので」


俺は、嘘をついた。尊敬するソク・タラに。

そして今後も、技術のための助言は、ラヌビスには求めないと決めたのだ。

俺は弱虫の意気地なしだろう。自分の罪悪感に押しつぶされそうになっているのだから。

俺は知っているのだ。前世ではどのように発展していったかを。

確かに素晴らしい発展を遂げて生活は便利になった。

そして、どうなった? 強大な兵器を持ち、お互いににらみ合っている。

人間自体は革新していないのだ。兵器や技術だけが伸びていき、心は置き去りにされてしまっていた。


「俺はここを去る」


父ちゃんや母ちゃん、ジロウやサブロウには申し訳ないが、俺がここにいてはダメだと考える。この先ソク・タラに相談を持ちかけられたら、俺はどうするか。

きっとまた、似たようなことが起こるだろう。

何故なら、この世界には少し考え方を変えるだけですぐに発展してしまう、ポテンシャルがあるのだ。

例えば、火薬、そして今回使った銅線。周りを見まわせばもっとありそうだった。


「父ちゃん。俺の馬鹿みたいな話、聞いてくれる?」

「ほう、馬鹿なお前が、馬鹿な話をする。真っ当だな。聞くぞ」

「俺、実は違う世界からここに生まれ変わった。だから俺には、父ちゃんの他にも別の父親の記憶がある」


父ちゃんは僅かにニヤリとしてこう言った。


「母ちゃんが浮気していない、と思ってもいいのか?」

「当たり前だろう、違う世界の話なんだから!」

「は、は、いや、冗談だ。聞くから、続けろ」


俺は今までどうやってこの世界を見てきたか、自分の前世はどうだったかを何時間も掛けて話した。そして、今回の事も……。


「そうか、お前はここにいれば、この世界を壊すと、怖がっている。そうなんだな?」

「うん。俺、だから、魔法の世界へ戻った方がいいと思う」

「分かった、そこで生きていけ。どこへ行ってもお前はおいらの息子だ。今生の別れとなっても、またどこかで会えるさ……違う世界でな」





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