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107 実験

謎の負傷兵は見事に復活した。

ラヌビスの治療で、傷跡なんて一つも残っていない。

あの変な振動や、不思議な音階は、一体何なんだ? 

魔法……いや、科学とも違うおかしな力なんだと思う。

俺は、回復した彼に色々質問したが、「私は一般兵である。気になされるな」

と偉そうに答える。めちゃくちゃ嘘言ってるってバレバレだ。


――一般兵がそんな口の利き方する分けねぇだろ。


だけど、チュム師に言われたとおり、俺は素知らぬふうを装った。


「元気になったみたいだから、テセン、身体でも動かしてみるか?」

「まだ足下がふらつくのでな、もうしばらくこうしていようと思う」


食事も平らげ、風呂にも入り綺麗になったテセン。

テセン――という名前だけで、名字は名乗らない。多分、由緒正しい家柄なんだろうなとは考えている。

名字を言えば、階級なんかバレるくらい高いんだろう。

俺は、チュム師に伝令を送った。一行だけの簡単な文。


『かの者、回復。テセンと名乗る』


すぐにまたチュム師から答えが返ってきた。


『そのまま、目を離すな。今サンバラと交渉中』


俺は、今も毎日高台に登る。

数日前に、サンバラの輜重隊が到着し、生き残りの百人弱の兵と一緒にサンバラに引き返していった。

彼らのあとを斥候が追いかけ、本当に戻ったのかどうかの確認はさせている。

結果が分かるのは十日、ないしは十五日かかるだろう。

領都にいる魔法兵達は、毎日天祖穴へ入り魔物を殲滅して、魔核も取ってきている。

魔法兵の補充もされているようだった。

ここに残された負傷兵たちの回復もゆっくりだがしてきている。

南の砦は、緊迫していた状態から、徐々に日常に戻りつつあった。


「ラヌビス。俺にお前の治療、教えてくれないか」

「お主に? 無理であろうな。お主の喉の器官は儂の次元の言葉は発せぬであろう」

「じゃぁ、どうやっているのだけ見せてよ。もしかしたら、俺の治癒の力の成長に役立つかも知れないからさ」

「……どうだかのう」


時間が出来た俺は、仮眠室に入り、木に戻ったラヌビスから治癒の音階というか、振動を聞かせてもらう。

ブ~ンという小さな振動と、抑揚が混じった音階が奏でられる。

モールス信号のように、一定の間隔が空き、また繰り返される音。

書き留めようと思って用意した筆記用具が、意味が無かったことに気落ちする。


――書き取るなんて無理だ、こんなの。


ラヌビスは、枝を震わせながらずっと一時間も続けている。俺は、心地いい震動で段々眠くなってきた。

ぼんやり聞いていると前世の絵描き歌の旋律に思えてくる。


『マル書いて、チョン。マル書いて、チョン。お豆に、芽が出て、植木鉢~、植木鉢~……』


うとうとしていたら、ラヌビスに枝ではたかれて、目を覚ます。


【やる……きが……ないな……ら、やめる……ゾ】

「ごめんつい……なんだか眠くなる、心地いい振動だね」


ラヌビスは一瞬ぴかりとして犬に変わり「もう終わる」と言った。

俺が涎を垂らして寝ていたせいだ。機嫌を悪くしたみたいだ。


「何じゃ、何を書いたのじゃ! これは……」


ラヌビスは、俺の落書きを見て目を剥いた。


「お主が書いたこの記号は、生命の設計図に酷似しておる」


生命の設計図だって! 涎が滲んだ絵描き歌のなれの果ては、どう見てもただのマルと点々だ。

ん? そう言えば、魔法の世界エルタゴスには、ラノベで見るような魔法陣なるものは無かった。

ベルーダは、魔法の体形はまだ確立していないとも言っていた。

もしかすると、魔法世界の魔法は、まだ黎明期で、拙いのではないのか?

俺は自分の涎まみれの絵をじっと見て、もやもやしていたものが形を持ち始めた。


――振動音。確か紙に砂を乗せれば、音の形が出来上がると聞いたことがある。


ラヌビスの理解不能な振動音を、形に起こせるかも知れない。

俺は河原へ行って砂を集めた。

指の間からこぼれ落ちる、さらさらと細かい砂だ。

けれど、ひと握りしてみると、湿り気を含んで固まってしまう。


「乾かせばいいな。粒は細かい、使えるぞこれ」


目の詰ったざるを用意して、ふるいに掛け小さなゴミや小石をより分けた。

砂が乾いた頃を見計らって、なるべく滑らかな板の上に砂を撒く。


「ラヌビス、頼むからもう一回だけ。今度はちゃんと寝ないで聞くから」

「今は無理じゃ。エネルギーが足りん。雷が来たらな」

「そんなぁ……」


それから数日待つと「来たぞ!」と叫んだラヌビスが、頭に棒を刺して

雷に向かって一気に駆けだした。


「雷が頻繁に起きる季節でよかったよ、まったく」

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