103 サンバラの影
間もなく斥候が戻り、現場の状況を語り出した。
「報告します。南砦より南方一キロのハン河の辺百メートルにわたり、地形陥没。敵陣営の野営地、全壊と思われます。死傷者複数。生存者は少数見かけましたが。そのままその場に待機している模様です」
「……そうか、では夜が明けたら偵察に出る。万が一に備え、負傷者の受入れ準備をしておくように」
「は」
斥候が持ってきた千切れかけた旗は、サンバラのもので間違いない。
やはりサンバラはヌエタラの混乱に乗じて仕掛けてきた。
数百という兵の数がそれを物語っていた。
チュム師に、王からの勅書もないまま、裏で動いていたに違いない。
「チュム師に伝令を送ってくれ、今の状況を側近に書かせて持たせてくれ」
多分、チュム師が結論を出し、明後日の夕方には、伝令が到着するはずだ。
それまでは不用意には動けない。
ここまでの被害を出して国が黙ってはいないだろう。なにか理由を付けて、また攻めてくる。
国と国との戦いではない。国の中での諍いなのだ。
翌朝、荷車を数台持って白旗を掲げ敵の野営地に慎重に入って行く。
俺は、戦鎧を一般兵のものに変え、荷車を引いて一緒に入って行った。
少し離れた場所には魔法兵二十人が待機し、動きがあれば反撃できるように控えている。
「我らはヌエタラの領兵だ。いかがなされた。負傷者を砦まで運んで治療する」
相手の指揮官らしい男が立ち上がった。クナイ・トムの戦鎧だ。ずいぶんと地位が高そうな帯の色だ。
「この地ヌエタラ領に天祖国から戦を仕掛けられたと報告があった。王から援軍せよと命じられ参った所存だ。その扱いが攻撃とは。王からどんな処分が下るか覚悟せよ」
ずいぶん頭が回る指揮官だな。ヌケヌケと助太刀に来たと抜かしやがる。
「攻撃とは言いがかりも甚だしい。未だ持ってこの様な大がかりな被害を出す物など見たことも聞いたこともない。なにを持って我らの攻撃と誤解された」
クナイ・トムの指揮官は憎々しげに俺を見てこう叫んだ。
「貴様ら! あやかしの術を使うであろうがぁ!」
ああ、魔法のことか。だが、残念ながら、俺の魔法兵士たちではこれほどの威力は出せない。
「勘違いなされている。仕方がない、怪我人を見殺しにするのは心苦しいが、このままでは誤解され、返ってこちらの不利になる。引き上げるぞ」
俺はそそくさとその場をあとにした。
やるだけはやった。情報も少しだが手に入った。あとはチュム師の答えを待つ。
チラリと怪我人を見ると縋るように俺たちを見ている。
同じ国の兵達だ。助けたいのは山々だが、この指揮官では交渉もへったくれもない。――もう少しだけ辛抱してくれ。
心の中で謝って砦へ引き返した。
帰り道山の狭道にさしかかった時、ラヌビスが走り寄ってきた。
「う、う、わん!」
「お前か! あれをやったのは」
俺は側にいた兵士を気にしつつ、ラヌビスを荷車に乗せ、急いで砦に連れ帰った。
俺の個人の居室にラヌビスを入れ、扉をしっかり閉める。
そして振り向きざま、ラヌビスに抗議した。
「おい、何やってんだよ。大変な事になったじゃないか!」
「なにを怒っておるか。お前の家族を守ると誓ったではないか」
「やり過ぎなんだってば」
「どこが。数百もの兵士じゃぞ。この後、村を襲い畑を踏みつけ、女を拐かす。食糧の備蓄まで奪われるのが目に見える。先手必勝は戦のならいじゃ。お主、考えが甘いぞ」
ああ、そうですか。さすが元皇様。言うことが大規模だ。やることもな。
「で、一体どうすれば、あんなことが出来るんだ?」
「科学の粋を集めた簡単なものじゃ。所謂、電磁波の応用だな。それに起爆剤としてちょっとだけ火薬も使ったがの」
火薬と電磁波? よく分からない科学の粋だ。
「ラヌビスのエネルギーを使ったんじゃないんだな」
「眼底にあるエネルギー庫は少ししか備蓄できぬ。スファルタン帝国にはあったが……あれがあればもっとすごいことができるんじゃが……」
「止めてくれ、これ以上すごかったら国ごと吹き飛ぶよ」
「まあ、エネルギー庫があるおかげで、元の姿に戻れるようになれたのじゃ。細かい作業はお手の物になれた。犬の姿では無理な芸当じゃった」




