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102 裏切り

天祖穴の魔物は片付いた。

拘束された魔法兵を連れて、天祖穴の砦に彼らを預ける。

砦には、数名の雑兵しか残っていないようだ。


「他の兵達はどうした」


魔物にやられてしまったのか?


「魔法兵十人で手が足りると言われ、他は領都へ行きました」


領都は今、港が攻められている。

俺は急に不安になり、領都に急いで駆けつけることにした。

だが、ハタと思い至る。


「十人の魔法兵? 他の魔法兵は天祖穴にはいなかったぞ」


俺は拘束された魔法兵を睨むと、彼らの一人が答えた。


「彼奴らは始末した。おまえらももうすぐ皆殺しさ。これは、サンバラ国と天祖国が組んで仕組んだものだ。俺たちを殺したければ殺せばいいさ。すぐにおまえらもあの世行きだからな」


俺の側にいた魔法兵たちが色めき経つ。


「貴様ぁ! 裏切り者め!」

「フン、裏切っただと、俺はサンバラの兵だ。お前たちこそサンバラ王を蔑ろにしているではないか!」


俺は確かにそうだと思った。ヌアタラは、今でもサンバラ国家の一部だ。

だが、王はこのヌアタラには口出ししないと勅書を出したはずだ。

それなのに、豊かになった土地に欲を出した。

サンバラ王こそ、魔物の対応をしながら働くチュム師の功績を蔑ろにしているではないか。


「この三人は牢へ入れておけ」


俺が雑兵に命じると、彼らは心細そうに三人を見る。


「大丈夫だ。ここの三人は碌な魔法が使えない。牢を抜け出すなどできはしない。力の劣った魔法兵だ」


俺は、この三人をわざと貶した。

彼らには、憎々しげに睨まれたが、紛れもない事実だ。

成長期をだいぶ過ぎてから魔核を取り込んだ初期の魔法兵は、力がない。

彼らの処理は、チュム師の判断に委ねよう。


「さあ、領都まで走るぞ」

「「「はい!!!」」」

「今日はずいぶん走りますね、部隊長」

「ああ、そうだな、俺は先に行く。疲れないように休みを挟んでこいよ。あっちへ着いたら戦闘になるかも知れないからな」

「……はい。心得ております」


俺は一段とスピードを上げた。まったく疲れない俺の異能は、やはり桁外れなのだろう。

領都の門を抜け、港へ向かう。

領の住民たちは、家の中へ避難していた。くねくねと続く港までの道路には、人っ子一人いなかった。

先ほど見た火の手は静まり、モヤモヤとした煙と、喉や目に突き刺す焦げ臭さが漂っていた。

港に着くとそこにチュム師がいた。

チュム師は魔法兵十人に囲まれ、じっと海を見ていた。


「チュム師!」

「コウタロウか。天祖穴の魔物は片付いたか」

「はい。チュム師、お話があります」

「うむ、魔法兵のことか?」

「……はい」


港近くには、簡易の作戦本部が設けられていた。

本部の別室に入ってチュム師と差し向かい、今回の事を報告する。


「やはりな。あの三人にはサンバラに家族が残っている。金で釣られたか、もしくは当初から王の密偵だったか、それはあとから確認するとして、コウタロウ」

「はい」

「お前、また走ることになるな」

「え、どう言うことでしょう?」

「ここは片がついた。天祖国の国力は弱い。あの国の船は僅かしか残っていないだろう。サンバラに計画を持ちかけられて仕方なく加勢した、と私は見ている」

「では、本命はこれから……」

「そうだ、南の砦が狙われる。よく考えられた作戦だな。三方から攻められれば戦力は分散する。私でもこうするだろう」

「い、今すぐ戻ります! このあと魔法兵たちがここへ来ますが、彼らには来なくて良いと言っておいてください。ここの守りは彼らに任せます」

「ん、悪いな。コウタロウ。頼んだぞ」


走り出して間もなく夕日が沈み、ゆっくりと暗くなっていく。

今日は早朝から、ヌアタラ領内を北へ南へと行ったり来たりだ。

そして、真っ暗闇になった。

俺は走りに走った。今までで一番のスピードだろう。

南の砦近くには俺の実家も在る。


「父ちゃん、ちゃんと山に逃げたかなぁ」


ラヌビスがいるんだ。何かあったら、無敵だという力を見せてくれる。

遠くの方でズゴーンという音がする。


「何の音だ……」


焦るほど足が絡まりそうになる。右足を降ろす間もなく左足が地面を蹴る感覚が、空を飛んでいるように感じる。

昔、子供の頃、力を得たときに感じた高揚感がぶり返してきた。


「こんな時に!」


ふわりと、農奴の頃の懐かしい記憶が匂いを伴って蘇ってきた。

焦っているはずなのに心がゆっくり鼓動するような不思議な感覚だ。


砦は無事だった。暗闇の中で、煌々と松明がたかれていた。

では先ほどの音は何だったのか。

砦に帰り着いても兵達は俺に気づきもせず遥か彼方を見ていた。


「今戻った。何かあったのか」

「あ、部隊長。大変です。得体の知れないものが空から降ってきて……」

「得体の知れないもの?」


俺は砦の高台に駆け上がる。そこにも兵たちがぎっしり立って遠くを見ていた。


「あ、お帰りなさい、部隊長」


何となく緊張感に欠ける声だ。敵が攻めてきたのではないのか?

とにかく、ここの準備多問題なく整っている。敵が攻めてきたとしても迎え撃つことは可能だ。

執務室に戻り、詳しい話を聞くことにした。


「報告します!」


ビシッと敬礼し、精鋭隊長が話し始めた。


「夕刻間際、遠見の報告がありました。数百の軍勢が砦めざし進軍中、とのことでした。近隣に避難の布令をだし。後各所に兵を配置。サンバラの兵とおぼしき軍は野営を始めた模様」

「ん、それで?」

「そ、それで先ほど轟音があり……多分全滅したのではないかと。斥候を行かせましたので、間もなく戻る頃と思います、以上」



















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