101 ヌアタラの危機
チュム師からの伝令は、馬で一日中走り続けてきたのだろう。
その馬は口から泡を吹き、倒れてしまった。
なぜ、魔物が湧き出す?
毎日三階層へ行って、魔物を殲滅し、魔核を潰していたはずなのに。
俺には訳が分からない。
とにかく急いで、天祖穴の砦へ行かねばならない。
「精鋭隊班長、ここを頼む。五班、六班はここに残り、三班、四班は天祖穴へ!」
俺はここに来てから、魔法部隊の各班から精鋭たちを集め精鋭隊を作った。
魔法部隊は今のところ俺を除いて六十六人いる。
一小隊十人構成に揃え、中で魔法若しくは剣の腕が優れた者だけで精鋭隊としたのだ。
魔法や剣の腕がそれほどでなくても、統率力に優れた年長者もいる。
その者を精鋭隊の班長に据えた。
彼にはここに残って南の砦を守ってもらうことにした。
――ここはまだ大丈夫だ。サンバラの動きは今のところない。
だが、南の砦を無防備にして置くわけにもいかない。
悩んだ末、魔法部隊を二つに分けることにしたのだ。
ここには雑兵が百人。戦士も三十人配備されている。何か起これば、残った魔法部隊が身体強化をかけて走り、知らせに来るはずだ。
「全員、呪文を唱え強化、走れ!」
俺は先頭を走る。誰よりも速く走ってまずは砦だ。
天祖穴の砦が持ちこたえていなければ……どうなる?
数時間、体感ではそうだが実際は分からなかった。ふと気付くと遙か後方を見ても魔法部隊の姿が見えない。
横目で領都を伺いながら、さらに先にある天祖穴へ向かおうとしたが、俺は思わず立ち止まった。
「領都が、港が燃えている!」
一瞬だけ逡巡し、また天祖穴めざし走り出す。
――チュム師は俺に天祖穴を任せたのだ。だから、領都は自分が守ると決めてこの事を伝令に伝えなかったに違いない。
魔物が溢れた理由が解った。
少し前から港に敵国が攻めてきたんだろう。
そのせいで、領都に残していた魔法兵も、港に駆り出されたのだ。
天祖国か? 多分天祖国だ。
こっそり商船を装って、港を制圧しようとしたに違いない。
『港の守りは準備ができている』
そう、チュム師は言っていた。あの火は、敵の船が燃やされた、そうに違いない。
――俺にできることは魔物を殲滅することだ。
さらに数時間後。
俺の目の前には、遺跡から溢れ出ようとする魔物たちが見えていた。
次から次と天祖穴の門から出てきているが、百体ほどだろうか。
「これくらいなら何とかなりそうだ」
魔物たちを拳で叩き、足で踏んづけ体当たりし、身体のすべてを使って倒しまくった。
振り向くと、魔法兵達も剣を抜き魔物を倒し始めていた。
「部隊長! 遅くなりました」
「おお、ここのを殲滅したら遺跡の中へ入るぞ。これからが本番だ」
「「「はい」」」
一階層へ入った。ここにも魔物がうようよいた。
魔法隊は淡々と倒していく。
だがおかしい。幾ら手が回らないと言ってもここまで増えてしまうものだろうか?
広い砂漠の階層だが、俺達は扇形の陣形で間隔を置いて立ち、魔物を端から切り捌いていった。
一時間ほどで捌ききり、一度休憩を挟む。
休憩している間も下の階へ通じる出入り口から列をなして魔物たちがのそのそと湧き出してくる。
「おかしいな、何で出てくる?」
これほどの魔物の魔核が残っていたのか、それとも迷宮の魔素が爆発的に増えたとしか考えられない。
「部隊長、おかしくないですか。領都に残っていた魔法隊はなにをしていたんでしょう」
確かに変だ。今、港を攻められてはいるが、精々が2日くらいだろう。そうでなければもっと早く伝令が来ていたはずだ。
「三階層まで降りて確かめてみるしかない」
「魔素の暴走……でしょうか?」
「俺にも分からん」
魔物を殲滅しながら三階層の入り口に来た。
「ん? ここからはそれほど出てこなくなったな」
皆、疲れているんだろう。水を飲んだり一息入れたそうにしているが、俺は構わず中へ入った。
三階層は静まりかえっていた。
いつもはぼんやりとした亡霊たちがいる階層なのだが――
そこには魔法隊三人が座り込みなにやら酒盛りをしているようだ。
訝しく感じながら声を掛ける。
「第一班、なにをしている」
俺の声に驚き飛び上がった彼らは、剣を構えた。
「おい、こいつは拳しか使わない丸腰野郎だ、やってしまえ!」
彼ら第一班魔法兵は、初期の頃チュム師に見い出された古株だった。
チュム師の護衛もかねて領都に残ってもらった、三十代後半の兵士達だった。
「何を考えているか知らないけど、あまりいい雰囲気ではなさそうだ。事情が知りたいんだが……」
「るっせい! 若造のくせに、生意気なんだよ、お前は。以前から好かねぇ野郎だったっ!」
彼は切り込んできた。だが俺のスピードにはついて来れない。
一瞬目の前から消えたように見えたのだろう、真後ろにいる俺を探し始める。
他の二人は俺に同時に斬りかかってくる。
瞬間、上に飛び上がった俺を見失い、同士討ちになりかかった。
お互いの剣を慌てて反らし、難を逃れた。
この間一分あっただろうか。
二階層の出入り口から次々と魔法兵が駆けつけてきた。
二十人はいる魔法兵が入ってきたのに気づき、彼らは目を剥いた。
彼らは項垂れ、手から剣を落とした。
無駄な足掻きはしないと決めたようだ。
「部隊長、何かあったのですか?」
「この魔法兵三人を拘束しろ」




