10 サンバラ国
今回、穴の討伐で生き残ったのは、たったの五人。
生き残りを交えてクナイ団が話し合いを始めていた。
「今回の討伐隊は壊滅だったな」
「碌に訓練も積んでいない農民ばかりだったからな……」
クナイ団団長、ソク・タラは重々しく呟いた。
彼の父もこの討伐で殉職した。
父親は、最高司令官クナイ・トム・チュムの称号を持っていた。
ソク・タラは、その後を継いで、クナイ・トム・チュムになった。
今回の討伐には、”次代は参加させぬ”という父親の一言で、命拾いをしたのだ。
先回二十五年前にあった穴の討伐には、ソク・タラは参加していた。
まだ新兵だった頃彼は、父の小姓として従軍したのだった。
「あの時も大変な死傷者だったが、今回はそれを上待っている」
敬愛する父親の死を悼む間もあらばこそ、隊の再編成をしなければならない。
勇者と持ち上げられ、勢い込んで集まった者達は、殆どが農奴だ。
農奴の命は軽く見られがちだが、町の人々と比べれば鍛えられた身体をしている。
しかし、事情も知らされず、ましてや魔物など見たこともない若者たちだ。
中には子どもと言える年齢の者までいた。
「彼らは……逃げ惑うばかりでした……」
「そうか。役には立たなかった……そういうことだな」
「……クナイ・トムも五十人失いました。一概に役に立たなかったとは言えません。ただ、魔物が強すぎたのです」
前回の討伐は二十五年前。
その頃の記憶を持つクナイたちは、すでに引退したか、亡くなっていた。
「では、今後に備え、戦士と雑兵の強化を実施する。早めに兵を集め、鍛えねばならん。各方面に通達せよ」
重責を担ったソク・タラの心には最早、感傷は微塵もなかった。
ここ、サンバラ国では、戦士階級を纏めてクナイと呼ぶ。
その中には三つの階級があり、上位からクナイ・トム、クナイ・スレイ、そして一般のクナイに分かれている。
サンバラ王は、戦士階級を特別な階級と位置付けていた。
王族の下には貴族に似た特権階級はあるが、それと同等の扱いをしている。
”クナイは、我の盾であり矛だ”
国民はその言葉を重く受け止めている。
この国は二千年の間この地を守ってきた。
それ以前、サンバラという国はなく、広く温暖なこの地は獣や木々が生い茂る地だったという。
王家の秘宝の中に
「その昔、天祖原という国ありき――」
と記された古文書がある。
代々の王は、その古文書を読み解き、
”穴”の由来と、それがもたらす災いに向き合うことを課せられてきた。
これより北に、天祖原という人神が統べる国があったという。
そこは人が生れてよりずっと北を中心に栄えていたが、三千年程前に、“穴”が出現した。
”穴”は初めは拳ほどの大きさだった。
それが少しずつ成長し、
一千年ののち、ついに天祖原を飲み込んでしまった。
今では北の半島は、その子孫たちが天祖国を名乗って細々と生き残っているのみだ。
その後、南の地に国を興した初代サンバラ王は、
「”穴”との戦いは我らの使命である」――そう宣言した。
”穴”は北の天祖国との国境としてはいるが、実際は、距離が離れている。
古文書によれば、そこはかつて天祖原の人神が御座す神殿の跡だという。
そのため天祖国は孤立し、海を渡るほか往来の道はない。
陸の道は、”穴”によって完全に遮断されてしまったのだ。
※
「こたびの討伐も、以前の報告書と同じように自然に閉じた……そういうことなのだな」
二十五年前の生き残りは五十人以上おり、豊富な情報が残された。
今回は、穴の威力が桁違いだったと言われてはいるが、これだけでは何とも言えぬ。
戦士を束ねる団長でありながら、今後の見通しが立たない。
穴の不可解さ。
穴は普段は大人しい。
だがある一定の時期になると活性化する。
それも二十年から五十年という、不確かな周期で脈動しているのだ。
穴は不活性時期でも、そこに近づくことができない。
ソク・タラも、何度か確認の遠征に赴いたが、先ヘ進むことは叶わなかった。
近づけば、押し返されるような圧迫感があって、言いようのない不快感が押し寄せる。
活性化すれば、そこから魔物が少しずつ現れるようになる。
それが活性化の目安となっていた。
魔物が出れば、ちびちびと討伐を重ね、段々と穴に近づけるようになる。
それが、これまで討伐隊が担ってきた役割だった。
ソク・タラは、前回の報告書に目を落とし、付記の一文を黙読する。
『穴の一番奥に人物を確認。
黒い衣をまとった“人”と思われる。
黒い塊の方向へ向かうも、以後視認不能。
直後、穴外へ強制的に排出された。周囲には、累々と骸が折り重なる のみ』




