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9 ゴンタの悲報

冬の間の俺の仕事が一つ増えた。

倉庫の見回りだ。

今年は、ネズミがよく出没するようになったのだ。

俺の家の倉庫には、今までになく食糧が積まれている。何処で知ったのか!


俺は倉庫の中でじっとして気配を消す。

ネズミとのバトルで鍛えられたおかげだ。


かすかにカサコソ音がする方へ素早く移動し、ネズミの出入り口を見つけた。

土を掘って入ってきたようだ。まずは穴を埋め戻す。

これで、文字通り袋のネズミだ。


――ふっ、お前にはもう逃げ場はなくなった!

太った二十センチほどのネズミが慌て出す。

俺の素早さはもうネズミを追い越すほどになった。

お前にはまけん!!


ふと天井の梁を見上げると、そこで何かが光った。

不審に思い、一瞬で飛び上がり、梁に降り立つ。

ほんと、この頃の俺って人間離れしてきたと、つくづく思う。


梁にいたのは怯えた猫? だった。


この世界にも猫や犬はいる。ただ滅多に見ないだけだ。

猫はサンバラ国にたくさんいると聞く。

多分、商船から逃れて野生化した猫だろう。


痩せ細ってブルブル震えている。縞々のキジトラっぽい猫だ。

さっき仕留めたネズミを差し出すと、クンクンと匂いを嗅ぎ、ペロリと人舐め。

その後、コリッコリッと音を立てながら夢中で食べ始めた。


「お前、行くところがないんだったら、ここにいていいぞ。その代わりネズミの番兵をしろよ」


猫はうんともすんとも言わず、満足したのか、そのまま蔵に積んであった、藁の中へ潜り込んでいった。


猫が来てから、俺の仕事はぐっと減った。

何度かネズミがいないか見回りをしたが、気配は無い。

だが、猫の匂いでネズミが寄りつかなくなると、今度は猫の食べ物がなくなる。


仕方なく家に連れてきて、俺達の残り物を分け与えるようになった。

猫は、囲炉裏の側にデンと寝転がり、我が物顔にしている。

ジロウは、この猫が大のお気に入りで、何時も毛皮に顔を突っ込んでいる。

そのせいで猫の毛皮は涎まみれだ。


だが、ふてぶてしい猫は気にするそぶりも見せず、されるがままになっていた。


「母ちゃん、この間の山が鳴いていたの、何だったんだろう」

「そうだねぇ。聞いたことない音だったね」


そんな話をしながらも、冬は過ぎ、春はすぐそこに来ていた。



毎年恒例の、春の言祝ぎがまたやってきた。

戸口には子ども達が集まり、連れ立って歩く様子が見える。


俺も急いでかんじきを履き、雪がまだ残る道を踏みしめて歩き出した。

俺はこれで三回目の言祝ぎだ。


村長の戸口をくぐり抜け、一番前の端っこに陣取る。

干し餅をもらったら、すぐに外に飛び出す準備だ。


何度聞いても訳が分からない言祝ぎは、いい加減飽きている。

だが、今年の言祝ぎは、いつもと様子が違った。

長い話が終わった後、村長がこう切出した。


「ゴンタが名誉の死を遂げた。皆で黙祷を……」


言われるがまま、手を合わせ頭を垂れて祈る振りをする。

俺には意味が分からない。

突然の死の知らせが、どうして「名誉の死」になるのか。


詳しいことも知らされぬまま、村長の家から出された。

俺の手にはいつの間にか、干し餅が握られていた。


家に帰り着くと、隣の親父が父ちゃんと話し込んでいる。

――子どもには聞かせられない話だ――と俺は咄嗟に感づいた。

だから気配を消した。


俺がいるとも知らず、大人たちは怒りを滲ませた声で話していた。


「何だって、初めから言わなかったんだ!」

「とんでもない化物がいると分かったら、誰も集まらないと知っていたからさ」

父ちゃんたちの話を聞いて、何となく事情が見えてきた。


二十年から五十年ごとに穴は大きくなるという。

そうなると”魔物”という化物が、外に溢れ出てくるそうだ。

それを退治しながら、穴の奥へと進んで行かねばならないのだ。

穴の奥には強大な力を持った人間がいて、魔物を操っている。


それは”魔王”と呼ばれている。


そこまでしか分からないが、今回集められた勇者八百人の内、生き残れたのはたったの五人。サンバラ国の騎士だけだったらしい。


集められた勇者たちは先頭に立たされた……。

「ゴンタは捨て駒にされたのか」

俺はその足で山へ入った。












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