第6話 再会したと思う
『ふふふ、仲良しだね~☆』
ドライアドはおれ達のやり取りをニコニコと眺めていた。
『素敵な友達が出来たみたいで良かったね、フェンリル!』
『うむ、本当にそうだな。角ウサギと友となれたのは僥倖だった。私は最初怖がらせてしまったというのに、こいつの方から友になろうと言ってくれてな。それからも怯えたりせず話を…。』
『あー、あー!そういうの言わなくて良いから!そ、それより言っておかなきゃいけない事はもう無いか!?』
大事なことは言わない癖に、こういう時は全部言おうとするとか。
照れとか無いのか、こいつは。
『そうだな。お前に話しておかないとならない事がある。』
あるのかよ!
『元々ドライアドが目覚めてからお前に話すつもりだったのだ。ちゃんとこれから説明する。』
『ふーん…まあ、話して貰えるんならそれで良いや。で?一体何だ。』
『うむ。話というのはお前の寿命の事だ。そもそも、此処に来るのを急ぐ事にした要因はそれだからな。』
へ、寿命?しかもドライアドじゃなくて、おれの?
どういう事だとフェンリルを問い詰めると、きちんと説明してくれた。
おれが転生した〈ホーンラビット〉という魔物は、どうやら…寿命が短いらしいのだ。
具体的にどれ位短いのかと言うと、何も無ければ平均7日…大体1週間だ。
寿命一桁は短過ぎるだろ。おれはセミか。
…因みに「何も無ければ」というのは、人間や他の魔物に襲われたり食われなかったりした場合、という意味だ。
魔物の死因は大体それなので、ホーンラビットに限らず魔物が寿命で死ぬ事は稀らしいけど。
そして天敵も多い、戦いになっても大した事無い、寿命も短い。
〈ホーンラビット〉という魔物は食物連鎖の底辺。簡単に倒せる素材の素。
最弱の魔物=〈ホーンラビット〉というのは、この世界の共通認識なのである。
うん。いや、分かるよ?自覚はある分、最弱って呼ばれるのも納得はするけど…何だかなぁ。そんな理由で有名って言われても嬉しくないよね。
やっぱり他人の目から見ても、おれって弱かったのか。
…な、泣いてないし!ちょっと、目から汗が止まらないだけだし!
『そう気を落とすな。外敵からは私が守ってやれるし、寿命の方もきちんと対処すれば問題ない。安心しろ、その方法も分かっている。』
『対処って?』
フェンリルが教えてくれた、対策する方法。
その方法は至ってシンプル。
それは、〈進化〉をする事。
進化をして〈ホーンラビット〉から別の魔物になってしまえば、おれの寿命を延ばす事が可能だ。というか、寿命の問題を解決出来るのは実質この方法だけらしい。
『でも進化するって言ったって、そんな事簡単に出来るのか?もし他の魔物と戦わなくちゃいけないなら滅茶苦茶大変そうだけど。』
『そこは大丈夫だ。お前が戦わずとも進化する方法も、ちゃんと考えてある。ドライアド、お前も話を聞いていただろう。協力してくれないか。』
『はいはーい☆しっかり聞いてたよ~!フェンリルの頼みでもあるし、この子の為にも手伝ってあげる!』
フェンリルに呼ばれたドライアドが、元気に手を上げ返事をする。
具体的に何をするのかというと。
魔物が進化する為には条件を満たさなければならない。
条件は魔物によっては特殊なのもあるらしいが、基本は戦闘で相手を倒す事で進化する。
〈ホーンラビット〉の進化条件もそれなんだけど、その条件を満たすにはそれなりの戦闘回数が必要になる。
ただ、おれは弱いので(自分で言ってて悲しくなってくるが)戦闘で敵を倒すのは非常に困難。そもそも倒せる相手がいるのかという話だ。
それなら敵を倒せる様に強くなれば良いんだけど、そうしてる間に寿命の方が先に来てしまう。それでは本末転倒だ。
戦う以外の方法、短いタイムリミット。
それでフェンリルが思い付いたのが「ドライアドに協力を仰ぎ〈ドライアドの葉〉を貰う」という方法だった。
『〈ドライアドの葉〉というのは、普通の葉とは違うものだ。森一つ全て支配下に置ける程強い力と膨大な魔力を持つドライアドが、一枚の葉に特殊な魔力を込めたもの。その特別な一枚だけが〈ドライアドの葉〉と呼ばれるのだ。』
『へぇー…何か凄そう。』
『実際凄い代物だぞ。〈ドライアドの葉〉を口にすれば、お前が進化する事も可能なのだからな。』
『えっ!食べるだけで良いの?』
『魔物の生命力の源は魔力だからね!勿論、進化するのにも魔力がいる。だから戦闘で相手を倒して進化に必要な魔力を蓄える、そうする事で魔物は進化出来るんだ。だから私が君の進化に必要な量の魔力を葉っぱに込めて、それを君が食べれば進化する事が出来るって事!大丈夫、味は保証するよ☆』
いや、別に味の心配はしてなかったけど。
でも確かに、食べるだけで進化出来ちゃうのは凄いな。だからフェンリルはドライアドに協力して貰おうと思った訳ね。
進化出来る程の魔力を込められるなんて、そういう事が出来るのはドライアド以外には居なそうだもんな。
後、どうでも良いけど〈ドライアドの葉〉って、ゲームに出て来る使ったら経験値増えるアイテムとか進化する道具とかみたいだな。
『ではドライアド、早速だが…。』
『はーい、任せといて☆…って言いたいんだけど、新しい樹になったばかりだからさ、まだ本調子じゃないんだよね~。だからちょっとだけ待って貰える?』
『それは全然良いけど、大丈夫か?』
無理をさせる事になるのでは、と心配になったがドライアドが言うには体調が悪いとかそういう訳では無いらしい。
〈ドライアドの葉〉は葉っぱに特殊な魔力を込めて作るのだが、それには繊細なコントロールが必要になる。
だけど生まれ変わって日も浅いドライアドはまだ完全には新しい樹に馴染んでおらず、力も弱くなっていて万全の状態じゃない。その為、今のままでは〈ドライアドの葉〉を作れないという。
ただ、かなり回復はしているらしく、『2、3日待ってくれれば感覚を取り戻せると思うよ☆』と言っていた。
無茶させる事にはならないみたいで良かった。待つのも数日ならおれの寿命にも間に合うし。
そうして安心していると、フェンリルが『一つ提案があるのだが。』と切り出した。
『ドライアドの回復を待つ間、私達でこの森の手入れを手伝おうと思うのだが。』
『おぉっ、良いアイデアだな!ドライアドへのお礼にもなるし、おれ達が手伝ってる間にゆっくり休めるしな!』
フェンリルの提案におれは間髪入れずに賛成した。
思い出すのは、此処まで来るまでに見た森の現状。
あちこち萎れたり枯れたりして、どこも元気が無い状態だった。
管理者であるドライアドは、本体である大樹が寿命を終えると長い間眠ってしまう。
その間はドライアド自身何も出来ないので、当然森の管理も出来なくなる。
更に、森は主であるドライアドと繋がっているので、その本体の状態にも影響される。
主が寿命を迎え眠りについた森は活力と生命力を失い、そのまま主の目覚めを待ちつつ長い年月を共に眠るのである。
『ドライアドが以前の力を取り戻せば森の修復も可能だが、まだ回復しきっていないのだろう?それに確か、森の状態が良くなればドライアドの回復も早まるのだったな。角ウサギも言っていたが世話になる礼だ、任せておけ。』
『そうだよ!おれは力仕事は無理だけど、頑張って出来る事やるからさ!』
おれ達がそう言うと、ドライアドは一瞬驚いた様な表情をした後嬉しそうに笑った。
『そう…そっかぁ…。えへへ、そう言ってくれるならお言葉に甘えちゃおっかな☆ありがとうね!』
『正直助かるよ~!』と言いながら喜ぶドライアドを見ているとこっちも嬉しくなる。
思わずフェンリルと顔を見合って、良かったな!と笑った。
『うむ、そうだな。…とはいえ、この森は広い。私達だけでは流石に大変だろうし、手は多い方が助かるだろうな。』
『それはそうだけどさ、誰か手伝ってくれる奴の当てはあるのか?…言っておくけど、おれにはいないぞ。』
おれにはフェンリルやドライアド以外の友達や知り合いがいないからな。
て、転生したばかりなんだから仕方ないだろ!
それにまだ!まだだから!!
これから増える予定だから!!
一応、友達に、って言った相手もいたし…と思ったけど、あれは流石にノーカンか。そもそもおれが勝手に言ってただけだし。
おれは頭に一瞬浮かんだ姿を掻き消す様に、ふるふると首を振った。
突然のおれの行動に心配したフェンリルに『何でも無い。』と返す。
『そうか。まあ良い、私が言っているのは、彼処にいる者の事だ。』
『えっ、何処?』
言われてフェンリルの視線を辿ると、そこにいたのは今頭に浮かんでいたプルプルボディ。
そう、スライムさんだった。
『え?何で此処にスライムさんが!?』
『やはり気付いていなかったか。あのスライムは森を出てから私達の後をずっと付いて来ていたぞ。』
『そうなの!?って、分かってたなら何で教えてくれなかったんだよ。』
『スライムが追って来ていると知ったらお前は怖がっただろう。それに敵意は感じ無かったからな、気にする事も無いだろうと放っておいたのだ。例え襲い掛かってきたとしても返り討ちにするだけだしな。』
そう言われるとその通り過ぎて、返す言葉も御座いません。
『だがしばらく様子を伺っていても、後を付いて来るだけでやはりこちらに何かしてくる気配も無い。だからあのスライムに害が無いのであればこの際役に立つかと思ってな。ドライアド、お前もあいつから敵意は感じていないのだな?』
『そうだね。私達にもこの森にも、危害を加えるつもりじゃ無いみたいだよ☆』
『へえ、そういうのも分かるのか。というかこの森に元々いるスライムさんと見分け付くのか?』
『そりゃ分かるよ?何せ私は森の管理者〈ドライアド〉だからね!今は力が弱まっているとはいえ害意がある奴は森に入って来た瞬間すぐ分かるし、うちの森に居た子か見分ける位朝飯前だよ☆』
自慢気に言いながらドライアドは胸を逸らした。
フェンリルとドライアドが言うならそうなんだろう。あそこにいるのは、おれが1番最初に出会ったスライムさんで間違い無いみたいだ。
『でもどうやっておれ達を追って来てたんだ?あの森から此処まで来るのに結構な距離だったよな?スライムさんって動きは遅かったし、とても追い付けるとは思えないんだけど。』
『あぁ、それはな…。』
フェンリルが何か言いかけた時、スライムさんの体が突然変化し始めた。
半透明の体は茶色く色付いていき、しばらくすると羽毛に覆われた翼が生えた。
それから鉤爪のある足が生え地面の上に立つと、その後は嘴が出来て体全体がシュッとしていき。
そして最後に瞳を開ければ、変化はもう終わりの様だった。
そこに立っているのは、大きな鳥の姿をした魔物だった。キリッと鋭い目はこちらを見つめていて、元のスライムさんの面影は全く無い。
見た目は完全に別の魔物になっていた。
『ふむ、〈キックバード〉か。名の通り脚力が強いのが特徴の魔物だ。』
驚きの余り凝視していた視線を鳥の魔物の足元へ向けると太く発達した足と尖って鋭い鉤爪が見える。確かにあれに掴まれたり蹴られたりしたら一溜まりも無いだろうな、と思った。
そんな事を考えていると、スライムさんが翼を広げその場から飛び立った。
それを見てさっきの疑問の答えが分かった。つまり、スライムさんは他の魔物の姿に〈擬態〉して移動したんだ。
今みたいに空を飛んでいけばおれ達の姿を見つける事が出来るし、後を追う事も可能になる。
なるほどなぁ、それならスライムさんが此処まで付いて来れたのも納得だ。
そうしておれ達の周りを1周したスライムさんは、おれの前に下り立った。
そして擬態を解いて元のプルプルした姿に戻る。
うーん…。「どうやって付いて来た」という疑問はこれで分かったけど、「何故付いて来た」のかという疑問は残ったままなんだよな。
危害を加える訳じゃ無いなら、おれを食べるつもりで、というのは考えにくいけど…。
『スライムさんは、何で、おれ達の後を付いて来ようと思ったんだ?』
返事が無いのは分かっているけど、何だか聞きたくなったので聞いてみた。
すると。
『…ともだち?』
という、透き通る様な声がした。
フェンリルでもドライアドでも、勿論おれの声でも無い。
…という事は。
『スライムさんが喋ったあぁっ!?』
フェンリルの時と同様、おれは思わず叫んでいた。
だって驚くよね、普通!喋らないと思ってた奴が喋ったらさ!
『ふむ…。確かに、スライムは目や口を持って無いが〈擬態〉で姿形を変えられるからな。言葉を話す事自体はそこまで驚く程では無いが…。』
『えっ、そうなの?スライムさんが話すのって普通の事なの?』
『話すだけならな。スライムは知能や感情等を持たない魔物だ。だから大抵は聞いた事のある言葉を真似ているだけで、発する言葉には意思も意味も無い。要するに喋れはしても会話は出来ないのだ。』
そうなんだ…。じゃあ、このスライムさんの言葉にも意味は特に無いって事か。
…でも、うーん。
『上手く言えないけど、何かさ…このスライムさんは、そういう感じじゃ無い気がする。何というか、普通とは違うと思うんだよ。』
具体的にどう違うとか、説明は出来ないんだけど。
でも擬態して此処まで付いて来たり、敵意は感じなかったりと、ただ何となく行動してるとは思えないんだよな。
それにさっきスライムさんが言っていた、「友達」という言葉も気になる。
おれがそう言うと、フェンリルは『うむ。』と言って頷いた。
『お前がそう思うなら、あのスライムと話をしてみると良い。もし襲ってきたとしても守ってやるから安心しろ。』
『分かった。ありがとうフェンリル。』
いざという時フェンリルが助けてくれるなら心強いな。
それでもちょっと緊張しながら、話し掛けようとスライムさんの方に向き合う。そして気付いた。
見覚えのある赤い実が、スライムさんの上に乗っている事に。
『〈ナシェリの実〉…あの森から持って来たのか。じゃあ、お前はやっぱり、あの時のスライムさんなんだな?』
そうおれが聞いてみると、スライムは“プルプル”と縦に強く揺れる。
これはYESの時の返事だ。
次は、念の為にこれ聞いとこう。
『わざわざ付いて来たのは、やっぱりおれを食べる為なのか?』
スライムさんはこの問いにも“プルプルプル”と強く揺れた。
だけど今度は縦じゃなく横揺れだった。
つまりこれは…NOか?
『すらいむ、ともだち、たべない。』
スライムさんの言葉から考えてどうやら合ってるらしい。
YESの時は縦揺れ、NOの時は横揺れみたいだな。
食べるつもりじゃ無いというのは、フェンリル達の見解とも一致している。更におれの質問に対して、意味の繋がっている答えを返した。
という事は、このスライムさんには少なくとも知能があると思って良い。
後は…気になっていた事を聞いてみる。
『さっき言ってた「友達」って、おれの事を言ってるって事で合ってる?』
おれが聞くと“プルプル”と揺れるスライムさん。
そして、続けてこう言った。
『ともだち、いって、くれた。だから、すらいむ、ついてきた。』
…え?
た、確かにあの時、友達だって言ったけど…。
『それって、もしかして…おれが友達だって言ったから付いて来たのか?』
“プルプル”
『おれは、怖くなってお前から逃げたのに、こんな長い距離を追いかけてまでわざわざ付いて来てくれたのか?』
“プルプル”
『すらいむ、ともだち?』
そう聞いてくるスライムさん…いや、スライム。
そんなの…。
『うん…!おれとお前は、友達だ!』
『ともだち♪すらいむ、うれしい!』
おれの返事にスライムが喜びを露わにする様に“プルプル”と揺れる。
『おれも嬉しいよ!…でもあの時、逃げちゃってごめんな。』
話が出来るとは思ってなかったとはいえ、勝手に騒いで怯えて逃げたのはおれだ。
その事を謝るとスライムは“プルプルプル”と首を振る様に揺れる。
そして、こう言ってくれたのだ。
『すらいむ、きにしてない。こわいと、にげる、あたりまえ、だから、きにしないで。』
ス…スライム~~~ッ!!
お前っ…お前良い奴だなぁ…。
感極まったおれは、思わずスライムに飛び付いた。
おれの体は弾力のあるプルプルボディにしっかり受け止められる。こうして触れていてもクマの魔物の時みたいに体が溶け出したりする事は無い。
うん、ひんやりとしていて気持ちが良いな。
しばらくそうして程良い弾力を楽しんでいると、様子を見ていたフェンリルとドライアドもいつの間にか近くにやって来ていた。
『私はフェンリル、角ウサギの友だ。これからよろしく頼む。』
『あっ、私も私も!私はドライアドって言うんだ~!スライムちゃん仲良くしてね☆』
そしてスライムに自己紹介する。
するとスライムは“プルプル”と嬉しそうに揺れる。
『すらいむ、よろしく!つのうさぎ、ふぇんりる、どらいあど!すらいむ、ともだち、いっぱい♪』
それから“プルンプルン♪”と踊る様な動きをするスライム。とても喜んでいるのがこっちまで伝わってくる。
その表情は相変わらず分からないけれど、今はきっと嬉しそうに笑っているんだろうな。というか表情が無いだけで、感情表現は豊かなのかもしれないな。
釣られて笑顔になりながらおれはそう思った。
『改めて、これからよろしくなスライム!』
“プルプル♪”
『よろしく、つのうさぎ!』




