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第7話 頑張ろうと思う

今回はちょっと長めです。


新たにスライムを仲間に加え、おれ達は森の環境を整える為に具体的にどうするかを皆で考えた。

その話し合いの結果、次の様に作業していく事になった。


まず、フェンリルとスライムのペア。

ふたりには広い森の中を回って、多過ぎたり枯れて腐ってしまっている木の間引きや草木を食い荒らす魔物達を倒して貰う。

ちゃんと間引いておかないと陽の光りが上手く入ってこなくて森の植物が育ちにくくなるし、魔物が増え過ぎるとせっかく育った植物が食べられてしまうからな。

こういう作業も森の環境を整えるのに大事なことなのだ。


『じゃあ、そういう感じでお願いするね☆』


『うむ。任せておけ。』


“プルプル”

『すらいむも、がんばる!』


で、おれの方はというとドライアドとこのまま此処で待機だ。

…決して仕事が無いから留守番になった訳じゃないぞ?


ドライアドはそもそも、此処から余り遠くへは行けない。

ドライアドの分身体(人型の姿の方)は本体の樹から余り離れてしまうと、分身の体を維持出来ずに消えてしまうからだ。

もう少し本体の樹が成長して力も回復すれば行動範囲も広がるらしいけど、今の状態だとそんなには離れられないらしい。


だから此処を拠点にして、ドライアドには司令塔…というよりオペレーターかな?とにかく皆に指示を出す役割をして貰う。

ドライアドなら例えここから動けなくても森の中の様子は見聞き出来るし、そうやって森の状態を確認しながら皆にやって貰いたい事を指示していって貰おう、という事になったのだ。


おれも一緒に待機しながら、出来る事を精一杯頑張るつもりだ。


今回フェンリル達と別行動なのは、おれに力仕事や荒事は向いて無い(出来てたら苦労はしない)のと、この森の中で此処…大樹がある周辺が1番安全だからだ。


実はこの森には、目には見えないけれどドライアドの力によって結界が張ってあって、害意や敵意がある者を弾く為の森全体を覆う外側の結界と、大樹とその周り…おれ達が今居る此処一帯をぐるりと囲う内側の結界、その2つがこの森を外敵から守っている。

外側の結界は広範囲を覆っている分効果はそこまで強くないけど、内側にある結界は人間だろうと魔物だろうとドライアドが認めた相手以外は結界の中には絶対に入れないという強力なもの。

つまり此処の結界の中に居る限り、魔物に襲われない安全地帯という訳だ。


例えおれが魔物に襲われそうになったとしてもフェンリルやスライムが守ってくれるんだろうけど、各々やる事あるからね。

作業しつつ周囲を警戒しつつおれの事を守りつつ…なんてやってたら、気が散っていつまで経っても進まないだろう。


まあ、おれが一緒に行った所で対したお役には立てないと思うし。

応援なら出来るけど、完全に邪魔だろ?

だったら安全な場所で自分に出来る事をする方がまだマシってもんですよ、うん。


ネガティブ思考とかじゃないよ?

それぞれの出来る事を踏まえた妥当の判断だよね。

役割分担、向き不向き、適材適所ってやつ。


…とか何とか色々言ってみたけど、危ないから安全な場所に居ろってフェンリルに言われただけです。

しかも反対意見も無く(当事者含め)満場一致で決まりました。

皆過保護だよね、うん。


『ドライアド、こいつの事をしばらく頼む。』


『は~い!此処に居れば安全だから任せといて!私もこの子と話したい事あったし、ついでに沢山お喋りしちゃおっと☆』


『おお!楽しそう!おれもドライアドと色々話したいなと思ってたから丁度良いや。』


『えへへ、嬉しいな~!仲良くしてね☆』


『おう!よろしくな!』


ドライアドが嬉しそうにニコッと笑った。

おれもこの機会にドライアドとも仲良くなれたら良いと思う。


『ふふ…フェンリルの昔の話とかも喋っちゃおっかな?』


『全く…。喋るのは構わないが、各々やるべき事はちゃんとやるんだぞ。では行くか、スライム。』


“プルプル”

『すらいむ、いってくる!』


『いってらっしゃーい!気を付けてな。』


そんなやり取りを交わしながら、おれは手を振ってフェンリル達を見送ったのだった。



・・・


『さて、おれは何すれば良い?』


ふたりと別れた後、おれは早速ドライアドに指示を仰いだ。


自分、やる気ならあります!

何でも言って下さい!何でもやります!

(何でも出来るとは言ってない)


『そうだな~…。取りあえず、樹の成長を最優先にしたいから…土の状態を良くするのに肥料を作ろうか。だからまずはこの辺に落ちてる葉っぱを集めて欲しいな☆』


『分かった!』


辺りを見渡すと大樹や周囲にある木の葉っぱが地面に沢山落ちているのが分かる。成る程、これを使って肥料を作るのか。

落ち葉とかで作る肥料…詳しくは覚えて無いけどテレビか何かでやってた気がする。確か、腐葉土って言うんだっけ?


大量の葉っぱを集めるのは大変そうだけど、頑張るぞー!

気合を入れてからおれは作業に取り掛かった。


とはいえ此処には箒や熊手等の道具は無い。例えあったとしても、悲しい事におれの小さくてか弱い(しかも可愛い)前足では多分上手く扱えなかっただろう。

ので、地道に手作業で拾っていく。


うーん、一カ所に置いておくより何カ所かに分けて集めた方が効率が良いか。

これなら一々拾った葉っぱを持っていかなくて済むし、全部纏めるのは最後にやれば良いしね。


そうして黙々と葉っぱを集めしばらく経った頃、ドライアドが声を掛けてきた。


『お疲れ~。調子はどう?』


『おー、順調だよ。葉っぱが沢山落ちてるから集め甲斐あるし。ただ、風で飛んでいかないか少し心配かも。』


『ふっふっふ…そんな君にピッタリの物を贈呈しよう。ジャジャーン☆』


何だかノリノリな様子のドライアドがくれたのは、草や蔦等を編み込んで作られたお手製の籠だった。

違う種類の材料を組み合わせて作られているのか色や形は少し不揃いだけれど、しっかりとした作りの様で見た目の割に簡単には壊れなさそうだ。


『わ、ありがとう!でもこの籠どうしたんだ?』


『感覚を取り戻す練習のついでに作ってみたんだ~☆どうかな?』


まさかとは思ってたけど、この籠は何とドライアドのお手製だったらしい。

いや凄いな!?


だけどこれで葉っぱが風で飛ぶ心配も無くなるし、この籠を使えば集めた葉っぱを一カ所に纏める手間も省けるから作業が随分と楽になるはずだ。


『助かるよ!これはどうやって作ったんだ?』


『私って実は、草や蔦とか動かせたり出来ちゃうんだよね~☆例えばこうやって…。』


近くに生えていた草にドライアドが手で触れると、草は独りでに“シュルシュル”と動き絡まっていく。

そうしてあっという間に短いロープの様なものが出来上がってしまった。


『す、凄(すげ)えー!こんな事も出来るなんて、ドライアドってやっぱ凄いんだなぁ!』


『えへへ、でしょでしょ~?とまあこんな感じでうちの森に根を張ってる植物なら地面に落ちてる枝や葉っぱ以外は操れるし、籠だけじゃ無くて他にも色々作ったり出来るよ☆流石に遠隔で動かしたり同時に操れる様になるにはまだ訓練(リハビリ)が必要だけどね~。』


はえ~…。分かってはいたけど、今のドライアドは新しく生まれ変わった直後で所謂弱体化してる状態だから、全盛期の時の力はこれより凄いって事だよな。

力の回復自体は順調らしく、『後は微細なコントロールが出来る様になるまで、ひたすら訓練と練習あるのみ!』と息巻いていた。


『という訳で、勘を取り戻す為にもいくつか籠は作っておくから、葉っぱ集めの方は引き続きよろしくね☆』


『おう、任せとけ!』



・・・


そこからしばらくは、お互いやる事をこなしたりたまに軽口を言い合ったりしつつ、根を詰め過ぎない程度に作業を続けていた。

そうこうしている内に3つ目の籠も葉っぱで一杯になったので、おれは一度ドライアドに声を掛ける事にした。


『よし、これで…と。おーいドライアドー!この籠も一杯になったぞー!』


『ありがと~!じゃあ一旦この辺で終わりにして、休憩がてらおやつタイムにしようよ☆』


『やったぁ、おやつだー!』


おやつと聞いてついテンションが上がってしまった。

仕事や勉強の合間に食べるおやつってテンション上がるよね。


ドライアドがおやつに出してくれたのは、この森で採れた果物を乾燥させて作ったドライフルーツ。

何種類かの果物で作られたドライフルーツは見た目や香りも様々でどれも美味しそうだ。


大樹の根元に座って一口齧ると、優しい甘さが口の中に広がる。

食感は少し硬めだけど噛めば噛むほど味が出る。しかもドライフルーツ特有の渋味は全く感じなくて食べやすい。


『美味(うま)っ…。ドライアド、これ、凄く美味いよ!』


『ほんと?良かった~、結構自信作だったんだ☆他の種類もあるから、いっぱい食べて!』


『わ~い!』


ドライアドに勧められながら他のも口にすると、風味や食感がそれぞれ違って楽しくてどれも全部美味しかった。


そうしておれ達はおやつを食べながら他愛のない話をして和やかな時間を過ごしていた。

因みにフェンリルとスライムの分は別で取って置いてあるので喧嘩の心配は無い。

とはいえ、まだ結構量があるな。


残りのおやつはフェンリル達が帰って来た後に一緒に食べるかとおれがぼんやり考えていた時。

ドライアドが『そういえば、びっくりしたなぁ。』と感慨深そうに言ったのが聞こえてきた。


『何がびっくりしたんだ?』


『あのフェンリルが、友達を連れて来た事だよ!しかも出会ってばっかりであんなに仲良しなんでしょ?最初見た時、本当にびっくりしたんだから!』


『そ、そんな驚く事か?それにドライアドとフェンリルも仲良いだろ。』


『まあ、何だかんだ長い付き合いだしね~。フェンリルが最初此処に来た時、私が「暇だからお話でもしない?」ってつい話し掛けちゃって。それからは近くに来た時は立ち寄ってくれる様になったんだよ。しかも毎回、律儀にお土産持ってね。』


お土産持って森に来るフェンリルか。

何だろう、凄く想像出来る。あいつ律儀だし。

今回持って来たのはお土産じゃなくておれだったけど。


お歳暮を加えたフェンリルを思わず想像してしまい笑いそうになっていると、ドライアドに『そういえばさ。』と言われたので慌ててそれを掻き消した。


『君はさ、フェンリルがひとりでいる理由は知ってる?』


『え?』


フェンリルが色んな所を旅しているのは聞いているけど…ひとりでいる理由?

確かに旅はひとりでしてるみたいだし、誰かと話すのは久しぶり的な事は言ってたけど。

…あ、そういえば。


『他の魔物に怯えられるからじゃ無いのか?』


あの気迫と威圧感なら、周囲に逃げられるのも納得ではあるけど。

実際、おれも最初は逃げた訳だし。


そう思って言ったんだけど、ドライアドは『それも勿論あるんだけどね。』と困った様な笑顔でそう言った。

どうやらそれ以外にも理由があるらしい。


『昔、ある事があってね。それがキッカケで、フェンリルはひとりでいる事を望む様になったんだよ。』


フェンリルの、昔の話。

気にならない、と言ったら嘘になる…けど。


『それは…おれが聞いても良い話なのか?』


『勿論!寧ろ、知っておいて欲しいからこうして話してるんだよ。フェンリルに友達になろうと言ってくれた、君にはね。』


それからドライアドは静かに話し始めた。

過去に一度だけ聞いたという、フェンリルの昔の話を。


フェンリルがドライアドと出会う前の、ずっと昔の事。

若い頃のフェンリルは力の制御がまだ未熟で、気配や殺気を消す事も余り得意ではなかった。

そのせいで、周囲の人間からも魔物からも今より凄く恐れられていたらしい。


強い魔力を持つ魔物はそれだけ周囲に与える影響も大きくなる。

無自覚に放たれる圧倒的な存在感は居るだけで場を支配してしまう。

それがどれ程周りに緊張(プレッシャー)と恐怖を与えるかはおれが1番よく知っている。何と言っても経験済みだからな。


それでもおれが遭遇したのは現在の、力の制御が出来る様になった後のフェンリルだからまだマシな方だ。

当時はそれらが全く抑えられていない素の状態な訳だから、周りに与える影響は今とは比べ物にならないと思う。


そんな訳で、その頃のフェンリルは周りからとにかく恐れられていた。


それはフェンリルにはどうしようも無い事だった。

フェンリルの方から歩み寄ろうとしても、近付く間も無く相手は怯えて逃げて行ってしまうからだ。


たまに近付いてくる相手がいたにはいたらしいが、それらは大抵、力の差が分からない魔物か凶悪な魔物を討たんとする人間達だった。

そいつらは一方的に襲い掛かって来たり攻撃してくるだけで、此方の言い分は聞こうとしない。

更には自分達が敵わないと分かった途端一目散に逃げていくので、話をする機会さえ与えて貰えないのである。


そんな事を何度も繰り返す内、フェンリルは悟った。

敵意と武器を持って近付いて来る者はいても、友好的な意思を持って自分の元へ来ようとする者など皆無なのだ、と。


自身の身を守る為に逃げるのも、人間が魔物を討伐する為に武器を向けるのも、危険を回避する為の本能であり自己防衛だ。

だから、これは仕方が無い事なのだ。


そう思ったフェンリルは期待するのはやめた。

それから、せめて他の者達を刺激する事が無い様に人や魔物の多い場所には行かないようにしようと決めたのだった。


しかしフェンリルが大人しくしようとした所で、状況は何も変わらない…いや、寧ろ悪化してしまった。


何故なら、逃げた人間達がフェンリルの話をあちこちで吹聴したからである。

報酬目当てに討伐に向かったは良いが実際に相対してみた結果、彼らにとって〈フェンリル〉は想像以上に恐ろしい存在だと分かった。


それを彼らは人々に語った。教えた。伝えた。


しかし、彼らの話を聞いた者の中には、彼らの話を信じない者や臆病者だと彼らを馬鹿にする者もいた。

そういう者達にも信じて貰おうと話をする内、事実は大袈裟に脚色され、プライドを守る為にほんの少しの嘘をこっそり含んで話す事も増えていった。

そうして語られた話は、人に伝わっていく毎に余計な尾ひれが付いていき。


最終的に、「〈フェンリル〉は凶悪で残虐で恐ろしく魔物だ」という噂となった。

他にも「人間を襲う為に人前に現れる」「嘘を付いて此方を油断させてくる」等、有りもしない噂が広まっていった。


実際の所は、フェンリルは凶悪でも残虐でも無い。

だが、人間達はその噂を完全に信じてしまったいた。


こうして〈フェンリル〉という存在は人間達から益々恐怖の対象となってしまったのである。


此処まで来ると近寄る近寄らない以前に、〈フェンリル〉と聞いただけで怯え怖がる者さえ居る程だったらしい。

そんな周囲の様子を察したフェンリルは思った。


これはもう、どうしようも無いと。


そうして人間達との友好的な関係を築くのは半ば諦めながら、フェンリルは孤独に過ごしていったのである。


そんな時だったのだ。


フェンリルに、初めての友人が出来たのは。


その友人はかなりの変わり者で、最初に出会った際に言われたのが、


「私は貴方よりも強いから、貴方が例え噂通り凶悪な魔物だとしても難なく倒す事が出来るだろう。が、それではつまらないから、私と友になろうではないか!そうすれば貴方は私と居られる事で楽しい時間を過ごせるし、鍛練の相手となれば私と戦える事で更に力を付けられる。ほら、良い事尽くめだろう。何せこの私と友になれるのだから!」


というものだった。


中々に自信家な奴で変人ではあるが、自分で豪語するだけあってその強さは本物であり、当時のフェンリルと比べても大差ない程の実力を持っていた。

その為、仲の良い友達というよりはお互いに背中を任せられる戦友に近い関係性だった。

しかしその分、言葉は少なくとも分かり合える様な、かけがえのない存在だった。


フェンリルはとにかく、嬉しかった。


友人が出来た事も勿論だが、怖がられる事も敵意を向けられる事も無く話が出来る事が、凄く嬉しかったのだ。

誰かと目線が合う事が、誰かを背中に乗せて駆ける事が。

友人と話をする事が、こんなに楽しい事だなんて初めて知ったのだ。


フェンリルと友人は色んな場所を旅をした。


険しい山脈や果てしない砂漠、はたまた誰も踏破出来ないと言われていたダンジョンまで。

途中で魔物が襲い掛かって来たりもしたがフェンリル達の敵では無い。


友人と一緒なら、フェンリルは何処までも行ける気がしていた。


しかし、そんな日々は長くは続かなかった。


友人が、寿命で死んだからだ。


魔物の攻撃を食らっても即座に回復魔法で治療し、病気どころか風邪ひとつ引かなかったあの友人が。


だが、それは仕方ない事だった。


友人は〈人間〉だったのだから。


勿論フェンリルは人間にも寿命がある事は知っていたし、魔物と人間では寿命の長さが違う事も分かっていたが、まさかたった100年程度で《・・・・・・・・・・・・》死んでしまうとは思っていなかった。


だから、数日前まで元気に笑っていた友人があっさり死んでしまった事が、フェンリルにはとても信じられなかったのだ。


フェンリルは、それから誰かと…特に人間と深く関らない様にしようと決めた。


もしまた誰かと親しくなってしまえば、別れが辛くなってしまうから。


大事なものを失って悲しい思いをする位なら、最初から大事なものを作らない様にすれば良い。


幸い自分は何もせずとも、周りが勝手に避けていってくれるのだから都合が良い。

誰も近付いて来なければ、関わりを持つ事も無いのだから。


そうして人前に出ない様にしていたらいつの間にか「伝説の魔物」と呼ばれる様になっていたが、特に何も思わなかった。


ただ、そんな風に呼ばれる様になれば更に自分は畏怖されていくのだろう。

そうなれば自分の意志に関わらず、誰かと関わりを持つ事など最早絶望的なのではないだろうか。


例えば、自分と臆する事無く話が出来る様な相手でも現れたなら、或いは。

だがそんな者はこれまで、死んだ友人以外現れた事は無かった。

そしてこれからも、フェンリルの前に現れる事は恐らく無いのだろう。


その後も長い間、フェンリルはひとり、旅をし続けた。

一カ所に長く留まらず、彼方此方を転々と。

同じ所に長く居てしまうと愛着が湧いて離れ難くなってしまうから。


そうして旅をする中でこの森に立ち寄り、ドライアドと出会ったのである。


『最初は強い魔力を持つ魔物が来たから警戒したんだけど、結界が反応なかった時点で敵意が無いのは分かってたからね。なんか辛そうだったから、つい話し掛けちゃったんだ。』


『…そうだったんだ。』


ドライアドから話を聞き終えて、取り敢えずおれは一言そう口にした。

フェンリルの過去を聞いてどう思ったのか、上手く言葉にする自信が無かったからだ。


ふと思い出したのは、この森に向かっていた時にしたフェンリルとの会話。

あの時フェンリルが言っていた「背中に乗せた友達」というのはきっと、その友人の事だったんだろうな。


ずっと独りぼっちだったフェンリルにとって、やっと出来た初めての友達。

フェンリルにとっても、その友達にとっても、お互いにかけがえのない存在だったはず。


それを失ってフェンリルはどれ程、辛かったんだろう。

悲しかったんだろう。


また失うのが怖いからと、フェンリルは自分から孤独になるのを選んだというけど。


それなら、何故。


『どうして、フェンリルはおれと友達になってくれたんだろう。』


ポツリ、と。

気が付いたら、おれはそう声にしていた。


『どうしてって?』


『だって、フェンリルは誰とも関わらない様にしていたんだろ?それなら、おれと友達になるのはおかしいというか…。』


そうやってずっと長い間ひとりでいたフェンリルが、おれに言われたからって簡単に考えを変えるとは思えない。


それに自慢じゃないけど、おれは弱い。


攻撃も防御も貧弱なんだから、フェンリルが守ってくれなければ他の魔物に狙われて襲われるだろう。

それに寿命だって短い。何といっても7日だ。


そんな、すぐ死にそうな魔物と友達になろうと思った理由がよく分からない。


うーんと唸っていると、おれの考えている事が何となく分かったのかドライアドが『あぁ、成る程ね。』と納得した様子で言った。

それから『あくまで私の予想なんだけど。』と踏まえた上で話し出した。


『まず、君が弱い事はフェンリルにとって友達になるのを断る理由にはならない。フェンリルの強さなら君を守るのは難しい事では無いし、寿命に関しても魔物である君なら人間と違って進化さえすれば寿命を延ばせるでしょ?』


『それは…確かに。』


『まあ、放っておけないからって理由もありそうだけどね~。ほら、君って無防備過ぎるっていうか、危なかっしいというか。あの子お節介な所あるから、このままじゃ心配だって思ったのかもね。』


『う…。否定は出来ない、かも…。』


『…でもね。そういう、理屈だけの理由でフェンリルは君と友達になった訳じゃないよ。』


ドライアドはおれの方を向いて、それから優しく笑う。


『君と、友達になりたかったから。君が友達になりたいって言ってくれて、嬉しかったから。だからフェンリルは、君と友達になろうと思ったんだよ。』


『…!』


『自分の話を聞いてくれて、自分の言葉を信じてくれて、〈フェンリル〉だと知っても態度を変えないでいてくれて。その全部が、フェンリルにとって嬉しかった事なんだと思う。』


『それは、おれがただお気楽なだけで…。それに〈フェンリル〉の事も知らなかっただけだし。』


『だからこそじゃない?君の警戒心が低いお陰で怯える事無く話せた訳だし、別の世界から来たからこそ先入観を持たずに済んでいたんだから。それこそ、フェンリルの友人の子と同じ様にね。』


そう言ってドライアドは片目を閉じてウインクをした。


『…うん。もしそうなら嬉しいな。』


おれが角ウサギ(ホーンラビット)に転生したからフェンリルと友達になれたと思えば、最弱の魔物も悪くないのかもしれない。


『私ね、君がフェンリルと友達になってくれて、フェンリルに君みたいな友達が出来て、本当に嬉しいんだ。あの子、本当に長い間ひとりだったから。』


『ひとりって…ドライアドがいただろ。』


おれがそう言うと、ドライアドは何処か寂しそうな表情で首を横に振った。


『う~ん、どうだろ。確かに私とフェンリルは長い付き合いではあるけど、それでも、あんなに感情を表に出してるのを見たのは初めてだったよ。それに前より絶対明るくなったし。君と出会って…君と出会ったから、フェンリルは変われたんだよ。』


『いやいや、そんな事は無いだろ!』


すかさずおれは食い気味にドライアドの言葉を否定する。


『こうして話を聞いてて分かったけど、ドライアドはずっとフェンリルの事を心配してくれてたんだろ?フェンリルにもその気持ちは伝わってると思う。だからフェンリルが明るくなったのは、おれと出会っ…そういうのだけじゃなくて、ドライアドがいたお陰もあるって!』


最後ちょっとグダグダになってしまった。

いやだって『おれと出会ったから変われた』とか、小っ恥ずかし過ぎて自分の口から言えないよね。


『そうかな~。私は今までフェンリルの話を聞いてあげる事しか出来なかったから、何にもしてないよ。』


『その、「ただ話を聞いてあげる」っていうのが重要だったんだって!ドライアドが話を聞いてくれる事はフェンリルにとって凄く有難い事だったと思うぞ?』


自分の話を聞いて貰えるというのは案外嬉しいものだ。

中々そういう相手を作れなかったフェンリルなら尚更。


『誰かと関わらない様にしていたフェンリルが、ドライアドには何度も会いに来ていただろ。それは心を開いていたって事だと思うし、フェンリルが自分の過去を話したのがその証拠だ。だからフェンリルが変われたのは、ドライアドの存在があったからだよ。ドライアドが話し相手になってくれたから、フェンリルは少しずつ変わっていったんだと思う。ドライアドがその変化に気付かなかっただけでさ。』


『そう、かな。そうだったら良いんだけどね。』


ドライアドは少し照れ臭そうに、だけど嬉しそうに笑った。


『ふふ、何だか思ったより長話になっちゃった☆あの子の話、聞いてくれてありがとうね。』


『ううん。此方こそ、フェンリルの事教えてくれてありがとう。』


ドライアドからフェンリルの話を聞けて良かった。

まあ、過去を知ったからと言って何かが大きく変わったりだとか、そういう事は何も無い。


フェンリルはおれの大事な友達だ。

それはこれからも変わる事は無いだろう。


ただ…フェンリルを悲しませない為にも、旅の途中でうっかり死んだりしない様に気を付けようとは思う。

うん。いや、本当に。


まあそれよりもまずは、進化して寿命を延ばさない事には始まらないけれども。


…うん!よし、その為にもっと頑張ろう!

そうと決まれば休憩は終わりだ!


作業を再開しようとおれは決意を新たに立ち上がった。

するとドライアドが、


『は~い!もうすぐ日も暮れちゃうし、あの子達も帰って来るだろうから今日の作業はもうお終いにしま~す☆』


と言ったので、思わず引っくり返る。


何か拍子抜けだ…。ま、まあ良いんだけどな…。

全体の指揮取ってるのはドライアドだし。


それに日が暮れそうなのも本当だ。

少し休憩、のつもりが気付かない内に大分長い時間話し込んでしまっていたらしい。


『ふたりを待つ間、次は楽しい話でもしようよ☆』


『良いけど、楽しい話って何話すんだ?』


何か面白い話して!とか言われても困るぞ?


『そうだな~…あっ、私が実際に見聞きしてきた、「森にやって来た人達の観察記録」なんてどう?新人冒険者達の初々しい失敗、奇行に走る謎の老人、ある冒険者達の人情物語とか、面白エピソードが山ほどあるけど…聞く?』


『何それすっげー気になる。』


興味をそそられたおれは食い気味に答えた。


森の管理者ドライアドには、この森の中で起こっている事は全て分かってしまう。

そんな事とはつゆ知らず、森に訪れる者達は人目の無い場所と思って行動する。

それは冒険者達の薬草採取や魔物の討伐依頼であったり、怪しい密談であったり、傍から見て何をしてるか分からない謎の奇行だったりと様々である。


それらをドライアドが客観的な視点で見聞きした「観察記録」は思わず笑ってしまうものや意外な結末を迎えるものまで、どれも聞いているだけで退屈しないエピソードばかりで。


それはもう…滅茶苦茶面白かった。


勿論、個人名とかは伏せた上で話を聞いてるからね?

例えば話に出て来た冒険者と今後偶然出会ったとして、そいつの新人の頃の話をおれが知ってたら、何か…気まずいだろ。


そんなこんなで話をしつつ待っていると。


『戻ったぞ。』


“プルプル”

『ただいま!』


別行動をしていたフェンリルとスライムが帰って来た。


『おかえり!思ったより早かったな。』


『うむ。日が暮れる前に戻ろうと思っていたからな。』


そう言うフェンリルに疲れている様子は微塵も感じない。若干、土で薄汚れてはいるけれども。

スライムも元気に揺れている。

見た所、ふたり共怪我が無くて安心した。


『おかえり~!…うんうん、今回の作業のお陰で良い感じに日差しが入る様になったし、今日やった場所はこれ位でOKだよ☆』


ドライアドが一瞬だけ目を閉じて森の様子を確認した後、満足そうに頷いた。

それを見たフェンリルは尻尾を一振りする。


『うむ。ならば明日は何処をやるか?』


『じゃあ、此処から西側をお願いしようかな。』


『分かった。』


『あしたも、がんばる!』


スライムがやるぞー!という風に“プルプル”と揺れる。


それを見て、おれも頑張ろうという気持ちが湧いて来るのだった。




・・・



夜になり、辺りはすっかり真っ暗だ。

元々薄暗い森の中は人間だったら殆ど何も見えない状態だろうけど、魔物は夜目が効くので薄らと入ってくる月明かりだけでも視界は十分確保出来ていた。


それは森の魔物達にも言える事だが、結界のお陰でおれ達が居る場所には近付けないから襲われる心配は無い。

万が一そんな奴がいたとしてもフェンリルとスライムがいるから大丈夫だ。


おれはどうするかって?

おれはほら、そうなったら戦闘の邪魔になるだけだから応援でもするよ。

こんな可愛い子に応援されたらやる気出ちゃうだろ?


え、出ない?邪魔だから後ろに引っ込んでろって?

へいへい、分かりましたよー。

その時はちゃんと大人しくしてますよー。


…とまあ、それはともかく。


ドライアドが出してくれた果物や木の実を皆で食べる。

その他にもおやつに食べたドライフルーツやスライムが持って来てくれたナシェリの実等のデザートだってある。

皆と和気藹々と食べる夜ご飯は凄く楽しくて美味しくて、お腹と一緒に心もいっぱいで大満足だ。


こうしてると何か、皆でお泊まり会とか修学旅行してるみたいで良いなあ。

まあ、この森はドライアドの家みたいなもんだからお泊まり会っていうのも強(あなが)ち間違ってはいないかもしれないけどね。


『此方は特に問題無かったが、そっちはどうだ。』


『私達の方も順調だよ☆私の魔力のコントロールも結構前みたいに出来る様になってきたし、この子も頑張ってくれていたし。』


『そうか。…怪我とかもしてないのだな?』


『おう!この通りピンピンしてるぜ!お前等の方こそ魔物と戦ったりしたんだから怪我しなかったか?疲れたりしてないか?』


フェンリルもスライムも強いし、見た目は怪我も無さそうだったから大丈夫だとは思うけど、一応念の為にね。

案の定ふたりから、


『うむ。私達も怪我は無いぞ。魔物と戦うといっても魔法を使う程でも無い相手ばかりだったしな。お陰で魔力の消耗も殆どしていない。』


“プルプル”

『すらいむも、けが、しなかった。つかれない。たのしかった!』


と、頼もしい返事が返ってきた。


『そっか、それなら良かった。』


おれが安心してそう言うと、スライムが話したい事があったのか、『あのね!』と言った。


『ふぇんりる、すごい!かぜのまほうで、き、いっぱい、きってた!まもの、いっぱい、たおしてた!あと、はしるの、はやい!すごかった!』


話してる内に興奮してきたのか、“プルンプルン”と跳ねる様に揺れている。

スライムはよっぽどフェンリルの事を凄いと思ったんだろうな。うん、気持ちは分かる。


すごいすごい、と繰り返すスライムの話を頷きながら聞いていると、フェンリルが話に入ってきた。

尻尾が揺れているのを見るに、素直なスライムにストレートに褒められて嬉しいんだろう。


『私の事を凄いと褒めてくれるが、そう言うスライムこそ〈捕食〉で障害物や倒した魔物を処理したり、様々な姿に〈擬態〉して臨機応変に対応していたのは見事だったぞ。今日の作業が手際良く行えたのも、スライムが一緒に居たからだ。』


『私も見てたよ!スライムちゃん、大活躍だったんだから!』


『そうなんだ!凄いなスライム!』


良いなードライアド。おれもそれ見たかった。


『…すらいむも、すごい?』


『あぁ、スライムは凄いぞ。明日からも共に頑張ろう。』


フェンリルや皆に凄いと言われて嬉しくなったのか、スライムが“プルプルッ♪”とご機嫌に揺れる。


『ふぇんりる、いっしょ、うれしい!すらいむ、いっぱい、がんばる!』


『うむ。だが、頑張り過ぎるのは良くないぞ。もし疲れたりしたらちゃんと言え。分かったな?』


“プルプル”

『わかった!』


『…ふふ、何だかすっかり仲良しって感じだね~。』


『うん。何か安心した。』


フェンリルとスライムのやり取りを見ながら、おれとドライアドはこっそり笑い合う。


多分、今日一緒に行動した事でお互いの仲が深まったんだと思う。

面倒見の良さそうなフェンリルと素直なスライムなら相性良いとは思っていたけど、これなら今後も上手くやっていけるだろうな。


…ドライアドからフェンリルの過去を聞いた今、スライムとこうして仲良さそうにしてるのを見ると本当に良かったなぁと思うと言うか、思わず感慨深い気持ちになるというか。

そう思って横を向くと、気持ちは分かるよと言う様にドライアドが深く頷いた。


フェンリルがスライムと話すのを微笑ましい気持ちになりながら、おれとドライアドは見守っていた。


おれ達は友達になったばかりで、これまでに一緒に過ごした時間は余りにも少ない。

お互いの事だって、まだ知らない事の方が多いだろう。


それなら、これから一緒に旅をしていく中で沢山話をして、沢山知っていって、沢山笑い合えば良い。

フェンリルが辛く悲しい思いをした分、いや、それ以上に、楽しい思い出でいっぱいにしていけば良い。


そうしていつか、フェンリルが過去を乗り越えられたら。

その時は、フェンリルの口から直接聞けると良いな。

大事な友人との、素敵な思い出話を。


…うん!何だか、俄然楽しみになってきた!

勿論ピンチやトラブルハプニング、その他色々あるけれど、大変な事も危ない事も友達と一緒ならきっと大丈夫だ。


それにはやっぱり、まずは進化して寿命を延ばす事!

そして出来れば旅に出る前に、もう少しおれも戦える様になっておきたいな。

強い魔物を倒すまでは無理でも、せめて自分の身を守れる様にはなっておきたい。


そうだ、明日ドライアドに相談してみよう。

フェンリルと同じく長い時を生きているドライアドなら良い方法を何か知っているかもしれないし、ただ闇雲に鍛えるよりその方が良い気がする。


よし。目標も決まったし、寝るか!

丁度良い感じに眠くなってきたし。


おれはドライアドが用意してくれた寝床に横になる。

藁に似た乾燥させた草で作られた寝床は中々快適な寝心地だ。

うん、今夜はぐっすり眠れそうな気がする。


おれが『おやすみー。』と言うと、それぞれのおやすみが返ってきた。

それが何だかくすぐったくて、でも嬉しくて思わず口元が緩んだ。


…うん。

明日も、そしてこれからも頑張ろう。


おれはそう思いながら、目を閉じたのだった。




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