〔第70話〕完璧な作戦だぁー!よし、行ってこいフブ!
今回前半がフブ視点、後半がツグネ視点になります。
あまり動きのない話し合いのシーンや作戦会議のシーンも全部書いていきます。
——————チュンチュンッ…。
鳥の囀りが浅い眠りのフブをゆっくり目覚めに近づけさせた。
——————[ふふふフブ…フブっ…]
僅かな意識の中、重い瞼を上げるとそこには兎が居て、兎の声が聞こえてきた。
(兎…今は大怪我してるからそんなに叫ばない方がいいんじゃ…。ん?)
「……って!!!…兎ィィィッ?!?!」
フブはベットから勢いよく体を起こした。
——————ゴッ!
フブの頭に硬い兎の頭がぶつかる。
「痛ッ!」
「いいい痛ッい……」
「う、兎?!」
「ふふふフブ今日はどどどうしたの…いつも私よりも早く起きてるのに…きき今日は遅かったから生存確認に……」
「うぇッ?!兎?!起きたの?!大丈夫ッ!!!?」
「え…。あぁ…えと…お、おお起きた…。だ、大丈夫…だけど…。」
「兎!!!!」
切羽詰まったフブの声に兎が肩をびくつかせる。
「うひゃいッ…、」
「両脚折れてるのにまだ動いちゃダメだよ!!!」
「…え。おおお折れてないよ…。」
「えッ…だって……でも…ッ…。」
フブは周りを見渡す。
「なッ…」
今私の居る場所はエヴァンテの教会の中の一室だった。
〈フブ〉の生活部屋として貸し出してくれているエヴァンテの教会の中だ。
そしてフブはやっと今自分の置かれている状況に気づいた。
時間が…
「戻った…。」
ツグネの能力って確か“死に戻り”だったよね…。
え…でも、私覚えてる…。
ツグネより先に死んだら記憶持ち越せないって言ってたのに…。
だって私、あの時確かにツグネより早く死んでた…。
じゃぁ尚更何で覚えてるんだろう…。
あッ!!
私が不死身だから死んだ判定に入らなかったとか…?
今回痛みも感じぬ間に死ねたのが不幸中の幸いだったのかも知れない…。
「ももも戻った…って、何の話してるの…」
不安そうな顔を浮かべる兎に私は何とかして経緯を伝えようと頭をフル回転させた。
「あのね…!えーとね…!うーん………。どこから話せばいいんだろう…。あっ!あっ!今!今何月何日!!!」
「いい今…9月25日…。」
——————プシューッ…。
フブの頭がショートした。
「兎!!!」
「ひゃいッ…」
「とりあえず、ツグネ!今はツグネと合流だ!多分そっちのが話早いと思う!」
その時、兎の顔が曇った。
それと同時に兎は全てを理解した様な眼差しで私を見た。
「…わかった。」
兎が後ろを向くほんの一瞬チラッと見えたその表情は私が今まで見てきた兎の表情の中で最も怖い顔をしていたと思う。
———————————————#####
俺は222襲撃よりもさらに時間を巻き戻し“やり直し”をした。
【具体的には連合のベクター約500機を使った都市への奇襲が決行される前日まで戻った。】
「ツグネ?ツグネ…?どうしましたか。」
俺の手にはカトラリーが握られ、食卓向こう側、すなわち目線の先にセルフレリアがちょんと座っていた。
※カトラリー…食器のフォークやナイフの事。
「ここはエヴァンテの食堂…。時間は朝。場所は食堂…か。…お前は、レリア…か。」
「レリア言うな…。…ていうか、急にどうしたんですか?」
気を抜いた瞬間、圧倒的な質量にゆっくり押しつぶされていく感覚がツグネの全身をフラッシュバックした。
「ウプッ…オェッ…!!!」
——————ボトボトボドボドッ!!!
俺は胃の中の物を全部吐き出してしまった。
(あの圧迫される感覚ッ…まだ消えねぇ…。)
「ツグネ!本当に大丈夫ですか貴方!」
セルフレリアが自分の席からバッと立ち上がり、隣に来て背中をさすってくれた。
「ハァッ…ハァッ…ハァ…わ、悪い…。」
「まぁ最近222の襲撃に向けての激務が連続していましたからね。疲れるのも無理ないですよ。まだ時間は有ります。ゆっくり休むのが吉でしょうツグネ。」
「…。」
都市と222の差は圧倒的だった。
本戦は30秒もしない内に222に都市を壊滅させられた。
この世界はほんっと“初見殺し”が好きだよなァッ…、
とはいえ、このままゆっくり休んでいたらまた同じ結果になる。
「…シャルロッテ!お冷と適当な布を持って来てくれますか?」
セルフレリアは隣に座っていたあたふたしているケモの女に話しかけた。
シャルロッテと呼ばれたその女ケモは、過去俺がエヴァンの街へ不法侵入してた時、俺とタフナを殺そうとして来た門番だ。
(レリアの横にシャルロッテが居たか…。そういやそうだったな…この日たまたまセルフレリアとシャルロッテの2人と朝食一緒だったな…。)
「はいっ!お、お冷と布ですね。今お持ち致します!」
シャルロッテは少しあたふたしながら、数十秒かけてお冷と布を持って来た。
俺はシャルロッテとセルフレリアにゲロの処理をしてもらい介抱されている状況だ。
何とも情けない事だ。
——————ガチャンッ!!!
その時、食堂のデカい扉がバンッと開かれた。
——————「たのもぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
嵐の様に現れた1人の女…
そう、フブである。
それに…兎も…。
(うわっ、兎なんだアイツ…。めっちゃ怖い顔してんじゃねぇか…。)
「ツグネ!!!って…何でゲロってんの?」
…待て。いや、待てよ。
そもそもこの状況がおかしい。
今回で3回目の“やり直し”になるが、フブがこんな急に訪ねてくること自体無かったはずだ。
この短い間で何か変わったのかッ?!
「ゲホッ…ゴホッ…。おう…フブ…。」
セルフレリアとシャルロッテの介抱を振り払い俺はフブの前に立った。
俺が話すよりも先になぜだか活気付いているフブが言った。
「うげぇ、ゲロ臭いよっ。じゃなくてッ!私覚えてるよ!」
「は?」
俺は想像していなかったフブからの言葉に度肝を抜かれた。
「いやいや、待てよ。だって、お前はあの時確実に…」
俺は“死んでいただろ”という短い言葉が喉から出なかった。
多分それはフブの後ろにピッタリくっついた兎の目がぎらついていたのが妙に視界に入ってきたからだ。
「その…お前は確実に…その…」
俺はこの後の未来を知ってる。が、故に兎に対し迂闊に情報を並べる訳にはいかない。
なぜならこの後、コイツは連合のベクター500機を返り討ちにし、更にその後も連合の奇襲でラスターまでをも捕まえる。
そして、そのラスターを不当に引っ張り出し、俺たちの目の前でボコす。
そしてその後、兎は都市やエヴァンテに対し超反抗的になるからだ。
まぁそれでも一様しっかり仕事をしてくれてはいるから問題自体は無いのだが…。
しかしまぁ、その原因が未だにわからない以上、下手にコイツを怒らせる原因を作る訳にはいかない。
ド級駆逐艦瀬音夏の奇襲で現れたエネ•ローゼ•ユワナ•ベクターの相手をできるのがコイツしかいないからだ…。
それに、多分だが222はきっとそれ以上強い…。
さて、どうしたものか…。
「兎を外させろ。」
咄嗟に俺の口から出た言葉はそんな言葉だった。
理由としては、頭の良いコイツが俺たちの会話から未来の状況を考察してくるのが怖かったからだ。
そんな事を知ってか知らずか兎は眉間に皺を寄せて不服そうに俺を睨んでくる。
「なな何で私を外すの…。」
「あ?んなもん都市の為に決まってるだろーがよ。」
「…やややましい事があるの?」
俺の言葉が詰まったその時、フブが気を利かせて助太刀してくれた。
「兎!大丈夫だよ!これは私達の明るい未来の為だから兎は先に朝ごはん食べといてよ!すぐ戻ってくるからさ!」
「……うん。」
(…コイツ、フブの言う事はすぐ聞くな…。)
フブに丸め込まれた兎は泣く泣く、後ろへ一歩下がった。
しかし、一向に食堂の外から出ようとしない兎を見かねて俺はフブへ対し、アイコンタクトで食堂を出る様に合図した。
——————ガチャンッ…。
———————————————#####
俺はフブを連れて、とある部屋に入った。
「んで、フブ。話だが…」
——————「ちょっと、ツグネさん貴方なんで僕の部屋に平然と女の子連れて入って来てんですか…。」
「久しぶりだなタフナ。」
「久しぶりだねタッフー。」
「いや…え?別に貴方達2人とは久しぶりでも何でも無いですよ。だって昨日貴方達と朝ごはん食べ〜…もしかして…」
タフナは何となく状況を理解した。
「あぁ、ご察しの通りだ。」
「…つまり、今回で何回目ですか…。」
「今回で3回目だ。」
「そ、そうですか…。…フブさんが覚えてるって事はフブさんだけ生き残れたんですか…?」
「そうだ。って言ーてぇんだが…それがそーでもねぇーんだよ。」
「え?」
「あーそうなんだよ。私もなんで“やり直し”前の過去覚えてるかあんまりわかってないんだぁ〜。」
「フブさんがツグネさんよりも長く生きてたから記憶を残したまま“やり直し”が出来た…。じゃないんですか?」
「いや…今回は確実にフブの方が先に死んでいた。」
「え?アッなら…っ!もしかして、ツグネさん!ドーベル•ランに潰されて欠損してた能力の一部が回復したんですか!?」
「…いや。感覚でわかる。それは違う。」
「なら、どうして…。」
「あのぉ〜…多分、私が不死身だったから“死んだ”判定に入らなかったとかいう考察はどうでしょうか〜?」
「…確かにそれなら一様、納得は出来ますね。」
「いやそもそも俺は記憶の持ち越し相手なんか選択してなかったぞ。」
タフナの部屋に朝の陽光が照りつけ、あいた窓から頬を撫でる様な優しい風が吹く。
「…ツグネさん。今回の死に方聞いてもイイですか…?」
「…まぁ、後で諸々説明するが簡単に言えば圧死だ。」
「…そう、ですか。」
空気を循環させる様な優しい風がタフナの部屋の窓に下げられたカーテンを押し上げ流す。
「私も圧死したよー!」
「でもね〜、なんか圧死する速度が早かったからあんまり痛みとか感じずに死んだ気がするよ。」
「…俺はその真逆だったぜ。」
理想的な朝の天候とは真逆な会話の内容に俺は内心、ため息をついた。
そんな俺の心情を察したかの様にタフナが言った。
「ツグネさん、ご愁傷さまです…。」
「別に死んでねぇよ。まぁ死んだけどさ。そういう意味では本当にご愁傷さまだぜ俺…。」
「うぇ〜私にはご愁傷さまないの〜?」
「…それ自分でいいます?」
「コイツメンタルバケモンだな。」
「話を戻しますが、ツグネさん。多分貴方は混乱して死ぬ間際、無差別に記憶の持ち越しを選択したなどではないでしょうか?」
「まぁ…実際草薙ん時も色々混乱してタフナの記憶間違えて持ち越しちまったからな。今回もその可能性が高いな。」
「…え。衝撃の事実なんですけどツグネさん。ツグネさん。ツグネさん。」
「3回も呼ぶな、気持ち悪い。」
「えーとー、つまり今回は私がたまたま不死身でツグネが混乱してたから記憶を持ち越せたって事?」
「だな。」
「…まぁ、そんな感じでしょうね。」
「んじゃあさ、それってつまり私はツグネの近くにいるだけで死んでても記憶引き継げるって事ぢゃん!最強ぢゃん!裏技ぢゃん!」
「…いや、実際問題便利なのは事実かも知れないが、それそんな使う機会無いんじゃねぇか?肉壁つっても能力的に俺自体最終的に死ぬし、やっぱあんまり意味ねぇよ。」
「ぐぬぬ…確かに。」
「あの、ていうかツグネさんフブさん。」
「なんだ?」
「どしたのタッフー?」
「何で僕の部屋、会議室みたいに使ってんですか…。」
「…お前にも今後のことを話したかったからだ。」
「…あー。えーと…。ツグネの言う通り。」
「フブさん貴方は何も考えてませんでしたね…。」
「そんな事ないと思うと考えています。」
「文章が交通事故起こしてますよ…。まぁイイですよ。なら、僕にも提案があります。」
「んだよ。」
「なにさ〜?」
「エヴァンテ様もこの場へ呼びましょう。」
その言葉に俺は背筋が凍った。
「エ、エヴァンテか…まぁそうだな…。」
「エヴァンテ!呼ぼ呼ぼ〜!」
半不死身のセルフレリアが本当に死ぬのか実験する為にロイヤーで叩き潰したあの女は信用に足るのだろうか。
本当にこの場にエヴァンテを呼んでいいのだろうか。
(でも、エヴァンテには1回目、2回目の事を全部話てある…。今更3回目の事を伝えないのも非効率的な気がする…。それに“やり直し”は有った事が無かった事になる能力だ。論理的に考えれば、あれも一つの正解なのかもしれない。)
俺は自分の中で無理やりそう紐付けてタフナに頷いた。
「そうだな…。エヴァンテも…呼ぼう。」
さっき見たセルフレリアの無垢な表情、騙されやすそうな表情と言ってもいいかもしれない。
日頃小言がうるさい頑固な奴だが、さっきは優しかった。
いや、もう考えるのはやめよう。
エヴァンテは5000年生き、4000年国を統治し続けているバケモノだ。
そんな奴を人と思ってはいけない。
きっとアイツは人じゃない。
俺はそんなバケモノとこれから付き合っていかなければならないんだ。
全ては俺の選んだ選択で俺の為なのだから、他のものに同情している暇は無い。
「場所を変えよう。それとエヴァンテと合流してから本格的な対策を練るぞ。」
「…はいッ。」
「ねぇ…やっぱり、兎は呼ばないの?別に私は兎がいてもイイと思うけど…。」
…どうするか俺。
アイツと腹割って不満を聞き出すのもアリな気がして来たが…。
いや、でもアイツが腹割って話す所なんて想像つかねぇからナシだな。
「今回、兎は呼ばない。俺の判断だ。」
「えぇー!?けちぃー!それでも都市の最終兵器ですかぁー?」
「…最終兵器が俺って、エヴァンテもお前らも、もっと危機感持った方がいいんじゃねぇか…。」
「やだー!!!兎も一緒作戦会議するぅーうー!!!」
「ガキかよお前ッ!」
「やだぁー!!!やだやだやだー!!!」
待てよ…。
兎と1番仲のいいコイツなら兎の反発の原因を探れるかも知れない…。
「ん゛ん゛…。フブ。お前には今からやって欲しいことがある。当然それにはそこに兎が関わってる。」
フブの地団駄がピタっと止まった。
もうひと押しか。
「いや、お前にしか出来ないことなんだ…。」
「私にしか出来ないこと…ッ!」
(よし、掛かったッ。)
「お前は記憶持ち越してるから兎がラスターを引っ張り出して来てボコボコにしたあの一件覚えてんだろ。」
「もちろん、その後兎とフランスパンでチャンバラしたのも覚えてるよ!」
いや、それに関しては本当に何してんだよ。
「…そうか。…お前は兎がそんな行動に出た原因を調べて欲しい。」
「チャンバラ?」
「そっちじゃねぇーよ。ラスターの方だよ。」
「わかった。それが私にしか出来ない事なんだね!」
「そうだ。お前にしか出来ない。」
「私にしか出来ない事!」
「完璧な作戦だぁー!よし、行ってこいフブ!」
「おっけぇーい!じゃぁ行ってくる!…ってなるか。作戦会議に兎呼びたくないから私諸共って事じゃんそれ。」
(チッ…、そんなコトはうまく運べねぇか…。)
そんな俺達2人と距離を置いて冷たい目で茶番劇を見ていたタフナがそれに反応する。
「ツグネさん…フブさんの事なんだと思ってるんですか?」
「そーゆー生き物だと思ってはいる。」
「ひどぉーッ!私地頭はイイんだから。」
「出ッたッよッ…。“私は馬鹿です”の代名詞。」
「ムキィーーーッ!!!いつもテストで良い点取ってたもんねぇーだ。」
わちょわちゃして話がまとまりそうにないその状況を見かねたタフナがフブの方へ真剣な眼差しを向け言った。
「しかし、フブさん。兎さんの不満を引き出せるのは貴方しかいないのも事実です。人一倍警戒心の強いあの人の相談に乗ってあげて下さい。」
タフナの真剣な言葉にフブは首を縦に振るしかなかった。
「まぁ…実際エヴァンテが222に勝てるのは兎だけって言ってたもんね…。そんな兎があんな不安定じゃ…ね…。うん、わかったよ。私やってみるよ。」
「あぁ、そっちはお前に任せた。」
「任せました。お互い頑張りましょうフブさん。」
———————————————#####
俺とタフナはエヴァンテの部屋の前まで足を運んだ。
エヴァンテの部屋に近づけば近づくほど、すれ違うメイドやシスターの数は多くなる。
つくづくエヴァンテは権力者なんだと思い知らされる。
豪勢な絨毯を踏みエヴァンテの部屋の前まで来た。
部屋の前には2人のメイドがドアの両端に立っていた。
そのメイドがこちらを見るなり一礼してきた。
——————ペコッ。
面白い事に右のメイドが先に頭を下げそのまま頭を上げた後、次左のメイドが頭を下げた。
同時に頭を下げないのか…。
何で何だろう…まぁいっか。
「エヴァンテに用だ。開けろ。」
俺の言葉に対し、メイド達はもう一度ぺこりと順番に頭を下げながら片膝を立てて返事した。
「「承りました。」」
(騎士かよ…。)
両端の内、右の方にいたメイドがドアをノックした。
——————コンコンコンッ…。
「エヴァンテ様、ツグネ様がおいでになられました。」
「…僕は見えてないんですかね。」
眉間にしわを寄せたタフナが不満そうに吐露した。
それを見たメイド2人の顔が真っ青になった。
「たッ、大変失礼致しました!エヴァンテ様、タフナ様もご一緒になられています!」
「ブハハッ!タフナッ…お前メイドにもイジられてやがんのか。」
「イジられてないですよ!ちょっと僕の存在感が薄いだけですよ!誰にだって間違いはありますよ!メイドさん落ち込まないで下さいね!ね!ね!!!」
——————『どうぞお入り下さいましっ。』
エヴァンテにそう言われ、メイドがドアを開けて俺達を中に入れた。
『アトモスフィリアは交渉の余地ナシで、アフィーネ•アクターは条件次第といった所なんですわね。ふむふむ。あーっと…話の途中で申し訳ございませんが急用が入りました故、また後日続きを話しましょう。…。はい。はい。えぇ、そうですわね。では、引き続きご贔屓にお願いしたしますわ。』
エヴァンテは空中に向かって誰かと話していた。
安心して欲しい、5000年生きていてボケ始めたとかでは無い。
アレは市民権を応用したテレパシーの様な物らしい。
長年生きてないと使えないらしいが…
にしても、長電話無理やり終わらせた感あってなんか申し訳ないな。
『おはようございますツグネ。それにタフナ様。』
「おはようエヴァンテ。」
「おはようございます。エヴァンテ様。」
エヴァンテはいつもの豪勢なシスター服を身に纏っていた。
「悪いな。外出する前だったのか?」
『全くもって問題ございませんわ。それと先ほど連合列車に滞在しているドレス•ロードから連絡が入りました。』
それに真っ先に反応したのはタフナだった。
「ドレス•ロードってあのエヴァンテ様と最初に出会った時に居たあのメルヘン電ノコ少女ですか?」
そうかタフナは記憶を引き継げて無いから知らないのか“明日の連合の奇襲”を。
「あぁ、その話だがもう知ってる。」
『…なるほど。』
どうやら、エヴァンテは俺の言葉の意味を一瞬で理解したらしい。
それと対照的にタフナはあまり話についてこれてない様子だ。
まぁ当たり前か。
俺がタフナの立場でもそうなる自信はある。
「タフナ。連合が明日行う奇襲の知らせだ。ドレス•ロードが市民権使ってあのダグラス•モニカに悟られない様に連絡をしてきたんだろ?エヴァンテ。」
『全くツグネの仰る通りですわ。しかし、まぁあのダグラス•モニカの事です。それ自体を予測はしていると思いますわ。』
「…連合の奇襲ですか、ツグネさん。それってどんな規模なんですか?」
「“ド級戦艦”3隻に“ベクター”500機超”だ。」
「なッ!!!それって…ッ。」
『大軍…ですわね…。』
「あぁ、そーだな。大軍だ。」
「ツグネさん…それどうなったんですか?」
「安心しろ。全部new orderが解決してくれる。」
「え?!ベクターってスフィアみたいな人型ロボットですよね?それにド級戦艦3隻?!そんな大軍ッ、兎さんだけで?!」
エヴァンテは顎に指を添えて言った。
『…数日前の連合との小競り合いでnew orderを初めて実践投入しましたが、これ程までだったとはわかりませんでしたわ。』
「あー、確かその時は連合のベクター偵察機5機だったか?瞬殺だったらあんまnew orderの実力わかんなかったよな。」
『さて、ツグネ。訪ねて来られたを“理由の方”の話をしましょう。』
「…そうだな。まず何から話せばいいか…。」
俺は一瞬フブの姿が頭によぎった。
くそ…アイツが居たら状況とか勝手に説明してくれたんじゃ無いだろうか…。
毎度思うが“やり直し”のたびに毎回状況説明すんのが結構面倒なんだよな。
「まぁそうだな。細かい事抜いて大雑把に言えば…
1.【最初に連合からの奇襲。勝利。】これが明日だ。
2.【ダグラス•モニカが首相になった連合からの再度奇襲。敗北。】
3.【222の手先からの奇襲。これは…まぁ敗北感だな。】
4.【222本戦。敗北。】
まぁこんな感じだ。」
「奇襲ばっかですね…。」
『やはり、次の連合の首相はダグラス•モニカになってしまうのですね…。』
「…それに関して色々考えたが多分、ダグラス•モニカを首相させない様にするのは無理だ。そしてだが、2回目の連合の奇襲はベクターを使ってメイトンを投げてくるから物理的に回避は不可能と考えた方がいい。」
「何ですかそれッ反則でしょ…。でも…流石ダグラス•モニカといった所ですね…。超頭いい作戦ですね…。」
『ベクターがメイトンを投げる射程圏内に入る前にnew orderに撃墜して貰うのはどうでしょうか?』
「…ダグラス•モニカがその対策を考えてないと思えねぇけどな。」
今はあえて言わないがnew orderのスフィアメイトンにぶち抜かれてたからな…。
あれは接触自体が危険だ。
『…そうですわね。ダグラス•モニカ相手に対しては“やった方がイイ”は“やらない方がイイ”と考えた方が良いですね。きっとそれは罠に違いありませんの。』
「あぁ、そうだな。」
…でも、それを許してしまったら“超ド級戦艦”がトワイライト5000に現れて…。
周回移動都市の地下中層に超ド級戦艦が現れるのは何とかしないといけないがダグラス•モニカの指揮のもとあぁなっている以上、それを食い止めれる気がしない。
「ツグネさん今回はどうしますか。」
「そうだな。まず、順当に明日。1回目の連合の奇襲を返り討ちにする。」
『はい。』
「その次に222からの手先の奇襲を前回とは違うカタチで撃退する。…きっと222も編成を変えてくるからなんとかしないとな…。」
「え?編成を変えてくる…?それってつまり222はツグネさんの“やり直し”を知覚してるって事ですか?!」
『それは非常にマズい事になりましたわね…。』
あっ、そうかコイツらこの時点では知らないのか。
「前回の“やり直し2回目”は222本戦で兎が戦えない状態になった事で負けた。」
実際はnew orderとか関係ナシの天文学的なミサイルで都市自体一瞬で…。
まぁ…。それは多分、エヴァンテの大聖堂とか言う攻撃で何とかなるだろう。今はそう信じるしかない。
「この戦争の肝は“いかに222からの手先の奇襲を兎の消耗なしで対処できるかどうかだ。”」
『それが勝負の境目なのですね…。』
「…ツグネさん。その222の手先っていうのは…。具体的にはどんな感じなんですか?」
「ラウンド級のスフィア2機とnew orderレベルに強い一機。それにド級駆逐艦瀬音夏だ。」
『弩級駆逐艦瀬音夏ですか…。であれば、ラウンド級のスフィア2機というのはミルとレイの事なのでしょうか…。』
「…正解だ。セネカの親だな。」
まぁ、そーだよな。エヴァンテ過去にミルとレイにボコされてんもんな…。
「ちょっと待ってください!それも驚きなんですが、兎さんレベルのスフィアが一機ってそれかなりヤバいじゃないですか!」
「そうだ。…だから、2回目は負けた。」
「…まとめるなら主に障壁は二つだな。ダグラス•モニカが指揮した連合の奇襲と、222の手先の奇襲。それを何とかしない限り俺達は222と戦う土俵にも立てねぇって事だ。」
見えてきた残酷な現実。
しかも、今言っていない困難が山ほどある。
兎の件、フブから小耳に挟んだ落武者の件、ロイヤーに乗っていた俺を襲撃したスフィア、それに…メイトン…と超ド級戦艦の件…。
正直もうこの時点で嫌になる事は多いが…
でも、やるしかない。
その時、エヴァンテの部屋のドアがノックされた。
——————コンコンコンッ…。
——————「シャルロッテ様がおいでになられました。ツグネ様への胃薬を届けに来た様です。」
エヴァンテの部屋の前で警備をして居たメイドの声が響く。
『えぇ、わかりましたわ。どうぞお入り下さいまし。』
エヴァンテの一声でシャルロッテが部屋へ入ってきた。
「エヴァンテ様。お会いできて光栄です。」
シャルロッテはエヴァンテに対し、社交辞令的な挨拶を済ませた後、俺に対して小指の爪ほどの小さな薬を手渡してきた。
「おう…ありがとう…。」
「では、私はこれで…」
そう言ってシャルロッテが部屋から出て行こうとしたその時、エヴァンテはシャルロッテを背中から抱きしめた。
「ッ?!」
シャルロッテはあまりの事態に目を見開き肩を吊り上げている。
『…シャルロッテ、なぜそんなに遠慮しているのかしら。』
「あっ…いえ…私の様な者が居てはいい場所では無いと思いましたので…」
シャルロッテの敬語は何だか他のメイドやシスターと違って辿々しさを感じる。
田舎からここへ就職してきたのだろうか。
『シャルロッテ…。貴方ぁ〜ツグネを殺したことがあるらしいじゃないですかぁ〜…。』
「そんな記憶は…私の記憶に無いのですが…しかし、ツグネを死に戻りさせた事があるらしい…です…ね…。」
『でもね、私は責めている訳ではございませんのよ?シャルロッテはしっかり門番としての仕事を果たしたにすぎませんの。』
「はッ…はひぃッ…」
ケモであるシャルロッテの表情がみるみるうちに青くなり、耳と尻尾が垂れ下がる。
『シャルロッテぇ〜…貴方今日は空いてますか?』
「こッ、これからカスミ様率いる特別作戦群での訓練が…」
『すみません、よく聞こえませんでしたわ。もう一度お願いしてもよろしくて?』
——————ギュッ…。
エヴァンテは部屋にある大きなソファに座った。
その時、シャルロッテを背中から抱き抱えたまま座ったので、必然エヴァンテの膝の上にシャルロッテが乗った。
「あっ…あの…き、今日はカスミ様の…特殊作戦…」
エヴァンテは後ろからシャルロッテのサラサラとした首の毛並みをスーッと吸いながら言う。
『よく聞こえなかったわ。もう一度よろしくて?』
「あッ…ひぃッ…ひぃッ…」
イジメじゃねぇーかよ。
『もう一度よろしくて?』
「で、でもッ…か、カスミ様…の…」
まぁ、カスミも六防だからエヴァンテレベルに偉い立場にいるから下手にドタキャンできないんだろうな。
エヴァンテがシャルロッテの頬を後ろからスリスリする。
そういや、ここへ来た最初の頃、メルヘン少女のドレス•ロードもシャルロッテ相手におんなじ様な事してたな…。
『もう一度…。よ、ろ、し、く、て?』
「きッ…今日の…予定はッ…ご、ございません…」
「うわッ…ひっでぇ…これが司教の所業かよ…。」
「なんかグロいですね…。」
『では、シャルロッテ。私の代わりにここへ居て下さいまし。私はこれから明日への対策を統合幕僚長へ説明しに行かねばなりませんからね。』
「グッロ…。」
「グッロいですね…。」
「はッ…はひぃッ…!」
『ここでの話はシャルロッテ貴方の体を通して全部見せて貰いますわ。同意して下さいますか?』
なるほどシャルロッテがリモート会議のカメラ代わりになるってことか…。
それだとエヴァンテが居なくなっても今から話す内容全部エヴァンテに伝わるのか。
同じ事二回話さなくて済むのは大変ありがたい事だ。
「はひぃッ…よ、よろこんでッ…。」
おい、エヴァンテ。シャルロッテ泣きそうになってんぞ。
それにしてもカメラの代わりかー…あっ、
「あっ、エヴァンテ。ならシャルロッテを連れてなら場所変えても、俺達の作戦会議聞いてくれんのか?」
『はい。シャルロッテの目と耳がある限りどこでも大丈夫ですわ。』
なんか言い方怖ぇな…。
——————コンコンコンッ…。
そしてまた外からドア前にいたメイドの声が聞こえて来た。
——————「エヴァンテ様。お支度のご準備は整いましたでしょうか?」
『では、私はここでお暇させていただきますわ。』
「あぁ、んじゃまたな。」
「では、お仕事頑張って下さい。」
「はひぃッ…いってらっしゃいませ…エヴァンテ様…」
エヴァンテが部屋から退出した。
「よし、エロ本探すか。」
「何ですかその男子高校生ノリ…。」
「一様…エヴァンテ様にこの会話聞こえてますよ…。」
「だから、言ってんだよ。」
「冗談は程々にして下さいツグネ…。」
「シャルロッテお前さ、俺に対して下手な敬語使うなよ。こっちはもうお前に殺されてんだからさ。」
「…そうですね。あっ…そうだな…。」
釈然としない態度でシャルロッテは頷いた。
「あーそうそう。お前そんな感じだったわ。」
「ツグネさん…なんかシャルロッテさんに対して棘ありますね…。気持ちはわかりますがやめてあげて下さい。」
「別にもう何とも思ってねぇーよ。って言いたいけどあん時足吹っ飛ばされたの痛かったなーッ。めっちゃ血ぃでたなー。」
「う…。」
コイツも可哀想だよな。
“やり直し”の事覚えてないからパラレルワールドの話されてるみたいになってんだもんな。
「なぁ、シャルロッテ。エウレカが今どこにいるかわかるか?」
「特別な作戦に出ていない限り外壁の方の基地に居ると思うが…」
コイツ敬語抜けるの早いな…。
「エウレカに聞きたい事が結構あるからとりあえずエウレカに会いに行こうと思う。馬車を用意してくれ。」
「わかった…。」
なんかコイツさっきからちょっと拗ねてんな…。
まぁそらそうか。
エヴァンテに詰められて、俺に揶揄われまくってんだもんな。
そうなるのも無理はないよな。
シャルロッテは部屋のドアを開け、外で待機しているメイドに馬車を用意する様に指示を出した。
エヴァンテのドアの前に居た2人、死ぬほど強いです。
メイドが交互にお辞儀をする理由は視覚ゼロの状態を回避する為です。頭を下げていないもう1人が前方の視界を確保する事で客人を装った奇襲にも対処できます。
【アトモスフィリア】と【アフィーネ•アクター】は他国のネームドパイロットです。




