〔第71話〕悪とは多分コイツの事
俺は馬車へ先に乗り込み、ぐるっと頭を回し内装を確認した。
縦横3メートルぐらいの小さめの馬車だった。
「いや…小さくねぇな。これ。」
危ない危ない。
普段からエヴァンテやセネカ、エウレカやカンネ•ロード、カスミといった司教、六防、隊長副隊長レベルのネームド達と一緒に過ごしているから一般的な感覚が狂うところだった。
馬車はこんなもんだろ。
——————「にょ〜すっ。私もいるよ〜!」
馬車の中に見覚えのある顔があった。
話し方やテンションが若干フブに似ている女“ニヴァ”だ。
コイツあんまり何してるかよくわからんないんだよな。
「ニヴァか。ていうか、結構久々だな。」
「うんそうだね〜久々だね〜。」
後ろからシャルロッテとタフナも馬車へ乗り込んできた。
それぞれはそれぞれに挨拶を済ませると馬車の窓から入り込む柔らかい陽光を背に、用意されていた座席へ座った。
「ところでニヴァ、お前なんでここにいるんだ?」
「えぇ?ワタシがワタシの馬車に居ちゃだめなのぉ?」
「えっ、この馬車お前の…」
俺はシャルロッテをチラッと見た。
「すみません、近くの空いてる馬車がニヴァのしかなかったので…。」
「イイんだよぉシャルロッテぇ。お互いこーゆー時は助け合いじゃないか。」
「わ、わかったからあんま顔近づけんな…。」
シャルロッテが敬語を使っていない所を見るとニヴァは隊長とか副隊長レベルではないのかな。
まぁ、馬車に関しても目的地に着ければ何でもいい。
「あのツグネさん。さっきの話の続きなんですが明日、連合の大規模奇襲があるっていいましたよね。」
「おう。」
俺はニヴァの方をチラッと見た。
ニヴァは「どうぞ何も聞かないから自由にしていいよ」と言わんばかりの表情で俺にバチコーンとウィンクを飛ばしてきた。
こーゆー所もほんとフブに似てるなコイツ。
「明日new orderが出るんですか?」
「まぁ、そうなるな。」
「でも、それってnew orderの消耗になりますよね。」
「…まぁ、そうだな。」
「それは222本戦に影響はないんですか?ツグネさん言ってたじゃないですか。今回の戦いはいかにnew orderの消耗を抑えられるかって。」
「あー…それに関しちゃ、大丈夫だ。連合の大攻勢…いや、大規模奇襲から次の戦いまで数日時間がある。そこでアイツも体力を回復できるから問題ない。」
「でもそこで万が一怪我とかしちゃったら危なくないですか?」
「それに関しても大丈夫だ。明日の戦いは一方的なもんになるからな。」
「うさ…new orderってそんなに強いんですか…?」
「アイツはレベルが違ぇよ。…いや、安心してる場合じゃねぇな。アイツレベルのスフィアが222本戦前に来るんだ。それを何とかしねぇと…。」
「そのスフィアのパイロットが誰かわからないんですか?」
「…多分どこの国のパイロット〜、とかじゃねぇぞ。アレは遠い過去から呼び出されてきた222の手先であって…。」
「周回移動都市の住民っていうのは不老の人達なんですから、もしかしたら誰かそのパイロットについて知ってるかもしれませんよ?」
「…そうだな。敵パイロットの名前は“エネ•ローゼ•ユワナ•ベクターだ。」
——————ガタッ。
その時シャルロッテが立ち上がった。
「お、お前…シャルロッテ…何か知ってんのか?」
「いや…知っていると言うほどではないが、昔育てて貰った親からエネ•ローゼ•ユワナ•ベクターと言う名前を聞いた事がある…。」
「んで、それは…どんな…だ?」
「エネ•ローゼ•ユワナ•ベクターは一万年前から初雪の日に現れる大きなネズミの妖精…と寝る前聞かせてくれた…。」
「よし、どこから突っ込めばいいと思うタフナ?」
「雑なパスは受け取りませんよ。」
てか、何気に育て親って言ったかコイツ…。
追求するのはちょっとまずいか…?
いやいや、もしかするとケモと人間の常識がちょっと違うだけの可能性もあるしな。
「だから、私も雪の日にはネズミの妖精を探しに行ったものだ。」
「お前って迷信とか信じるタイプなんだな。」
「意外ですね。」
「こ、子供の頃だからな!今は別に普通だ!」
「さっきエヴァンテに泣かされてたお前が普通…か…。」
「普通ですか…。」
「な、なんだ!別にイイだろ。」
「んで、確認だが初雪の日に現れる大きなネズミの妖精がエネ•ローゼ•ユワナ•ベクターって事であってんのか?」
「…私はそう聞いた。」
「一体これが何のヒントに繋がるのかわかるか?タフナ。」
「こっちが聞きたいですよ。」
「…確かに今考えてみればネズミの名前がエネ•ローゼ•ユワナ•ベクターってのもおかしな話だな。寝る前子供に聞かせるにしては長過ぎんだよな名前…。」
シャルロッテと共に俺達は黙り込んでしばらく首を傾げていた。
「そういや、エネって名字なんか違和感あんだよな。」
「あー確かにそうですね。なんか海外の人の名前とかにしてもあんまり聞かないですよね。」
そんな疑問が浮かび上がった時、シャルロッテがその疑問に返した。
「ツグネとタフナは知らないのか。“エネ”は短縮系だ。正式には“エネルギーカガクショウ”の略だな。改めて不思議な名前だよな。」
「…何じゃそりゃ。」
「…これは見過ごせませんね。何を見過ごせないかもわかりませんが。見過ごせません。」
「なら、シャルロッテ。つまり大きなネズミの名前は“エネルギーカガクショウ•ローゼ•ユワナ•ベクター”になるな。」
「…あくまで連合にお家を構える現代の“エネ”という名に関しての話だ。一万年前の“エネ”については私も知らない。」
「…エネルギーカガクショウとかいう変わった名前が一万年の時を経て復活したのか。はたまた一万年前から受け継がれてきた名前なのか…。」
「なら、聞けばいいのでは?」
「は?」
「え?」
「いや…別にエネ•ローゼ•ユワナ•ベクター以外にもエネの名を持っている者は沢山いるぞ。周回移動都市にも連合の大使館あるし、その中に“エネ”って名前の人は沢山居る。その人達に聞けばいいのでは?」
「マジかよ…。なんで連合の大使が都市に居んだよ…。」
「あー、そういえばこの世界、名目上は“平和”でしたもんね…。」
その時、さっきからあえて話に入って来なかったニヴァが口を開いた。
「あのね〜、世界は[旧世界]、[現世界]、[新世界]とあるけど現在、1番人間同士が争っていないのが[旧世界]なんだよ?名目上の平和なんて呼ばれてるけど、実は本当に平和な世界なんだよ?」
「…外にやべぇバケモンが山のようにいんのが[旧世界]だろ。こんなん名目上の平和なんかあっても意味ねぇだろ。」
「もしかして、平和になってるのって人間が争えない様な状況になってるからじゃないですか?」
「それはそうとも言うね〜。でも、エヴァンテの暴走を止めたミルとレイの事も忘れないであげてねぇ〜。あの2人は健気に頑張ったんだからっ。」
「エウレカを訪ねた後、連合の大使館にも行こう。出来れば、全部今日中に回りたいがどうだ?行けるかシャルロッテ、ニヴァ。」
シャルロッテは俺に対し、「私がさっきエヴァンテに詰められての見たやろ!今日一日エヴァンテに無理やり空けられたやろ!」と言わんばかりの表情でこちらを睨んでくる。
一方でニヴァは大きなあくびを皆に見せつけた後、ニコッとした表情で言った。
「ワタシはいつでも暇だからね。いいよ楽しそう〜!」
「お前は一体師団でどーゆーポジションなんだよ…。」
「まぁワタシは隊長でも副隊長でも無いただのしがない救急部隊長ですからねぇ〜。それにエウレカにはワタシが生み出した究極の膝カックンをするって約束してたしね!」
…222との戦いで世間があたふたしてる中、本当にコイツは何をしてたんだよ。
———————————————#####
「着きまちたぁっっーーーー!!!ハワイ!!!」
ニヴァの陽気な声が太陽の下で響く。
「意外と早かったなハワイ。」
「えぇ。日差しが眩しくてビーチに行くのが楽しみですね。」
俺とタフナが珍しくニヴァに乗っかってちょける。
今回タフナもちょけているが多分ツッコミ役に回るのが嫌になったんだろう。
「…私にツッコミをさせようとするのやめてくれる?」
無理やりツッコミ役に回されたシャルロッテが不満そうだ。
——————ガキンッ!!!
鉄と鉄が打ち付けられる音がする。
[もっと腰入れろ!]
[インパクトの瞬間を見極めろ!]
馬車を降りてからすぐ見えた景色と鉄のぶつかり合う音。
本物の剣、即ち真剣で訓練をする数百人がグラウンドの様な場所にずらっと並んでいた。
グラウンドの向こう側にはエヴァンテの教会程とまでは言えないがでかい建物がどんと建っていた。
恐らくあそこが目的の基地か。
——————ドカーーーンッ!!!
大きな粉塵が遠くの方で上がった。
——————「ハハハハハッ!技量が足りないぞお前達!もっと死ぬ気で訓練しろ!戦え!」
エウレカの声だ。
なんかハッスルしてんなアイツ…。
222との戦いを前に気合入ってんのかな。
——————うぉーーー!!!
——————ガキンッ!!!
「…なぁ、タフナ。」
「何ですか。」
「拳銃貸してくれ。」
俺の声音を聞き察したようなタフナ。
「あ、はい。どうぞ…。」
あえてかどうかはわからないが、タフナは決してその用途を聞いてこなかった。
「あぁ、ありがとう。」
前回の圧死の時、これが手元にあればきっと楽に死ねていた。
今回何があるか分からないからもう今の段階から持っておこう。
俺は拳銃をズボンのポケットに押し込んだ。
ポケットが大きいズボンを履いてきて正解だったな…。
「私はこの基地の冷蔵庫漁ってからエウレカに合流するよ〜。そんでその後、エウレカに究極に膝カックンするから“シー”でお願いね!」
ニヴァはそう言って馬車へ帰った。
「では、私が案内する。」
シャルロッテが慣れた足取りで遠くに見える基地に向かって訓練している師団員の横をスタスタ歩く。
皆真剣を振り回していて危ないな…。
位置関係的に今歩いているのがグラウンドの様な場所、遠くにある基地、その中間地点からエウレカの声が聞こえてきていると言った所だ。
——————『“流れを感じ取れ!”』
「基地入る前にエウレカ見つけちまったな。」
「まぁ、すぐ見つかってよかったじゃないですか。」
そんな時、1人の訓練していた師団員が先頭を歩くシャルロッテに横から元気よく話しかけた。
——————「シャルロッテ!?シャルロッテじゃん!元気してた?!久しぶりだね!」
シャルロッテは少し驚いた表情を見せた後、話しかけて来た女を見て顔をパーっと和ませた。
「ミルティーか!久しぶりだな!」
シャルロッテが歩く足を止め、こちらをチラッと見てきた。
その姿はまるで飼い犬が主人に許可を求める様な眼差しだった。クーンって聞こえてきそうだ。
「別にそこまで気使ってくれなくていいよ。久しぶりに友達に会ったんだろ?なら、ちょっとぐらい話していけよ。」
「ありがとうツグネ。」
シャルロッテは“ミルティー”と言う女と5分ほど話し込んでいた。
タフナと俺はあえてシャルロッテから距離を取り、しばらく時間を置いた。
後から何の話をしていたのか聞くと、ミルティーという女は師団内での出世話をしていたらしい。
ミルティーはずっと昔、上司に楯突いたせいで出世が遅れていたが、この間やっと出世できたのだとか。
なーんか現実的な話でヤだな…。
かのゆうシャルロッテは、あー見えてエヴァンテのお気に入りらしく常に近くに置かれている。
そういう面ではシャルロッテも出世頭なんだろうな。
なんだかんだ言ってシャルロッテはエヴァンテの部屋に入る事を許されている。
そう考えるとシャルロッテも…
「あッ…」
俺は気付いた。
というより思い出したに近いかも知れない。
エヴァンテのギアは超人的な回復能力だ。
そんなエヴァンテは体の一部を代償とし“大聖堂”という周回移動都市自体を使った攻撃を行う。
そんなエヴァンテは“大聖堂”の代償をギアを使って回復させる。
その時エヴァンテにはケモ耳と尻尾が生えてくる。
そしてエヴァンテは自ら毎回それらを切り落とす。
何故そんな事をするのか何故そんな事になっているのか、それはエヴァンテ自身が自らの体を獣人化させているからだ。
しかし、自身は獣人を迫害した歴史を持つが故、大衆に自らがケモである事を知られてはならない。
知られればエヴァンテは今の地位から没落するだろう。
そんなリスクを背負ってまで、なぜ自ら進んでケモになったのか。
それは、ケモが人間のギアを模るからだ。
何百年という長い時間をかけ同じ人をそばに置けば、ケモはその一部を模倣する。
それを踏まえた上で…
エヴァンテはセルフレリアのギアを模倣し、黒い肩羽の天使を得ていた。
つまり、シャルロッテがエヴァンテの近くに置かれているという事は…。
「なぁ、シャルロッテ。お前どんなギア持ってんだ?」
「き、急になんだ…。」
「いいから教えろ。」
「なんでお前に教えなきゃ何ないんだよ。」
「…ほーん。はーん。」
「な、なんだよ…。」
「ふーん。いーんだ。俺に言わなくて。」
シャルロッテの眉が中央に寄り上に上がる。
「…な、何でお前なんかに言わなきゃ。」
「今お前の目と耳はエヴァンテに繋がってる。だろ。」
「だ、だから何よ…。」
「目を瞑って耳を澄ませてごらん…。シャルロッテさんよぉ。」
「な、さっきから何をッ…なッ?!」
——————ゴォォォォォォォォォォォォッ…。
足元が暗くなった。
それはそれは夜だと勘違いしてしまう程の暗さだった。
上を見上げればその現象の正体がすぐにわかった。
「「なッ?!」」
“数百機のロイヤー”がすぐ上空からこちらへ圧を掛けていた。
詳しく言えば“シャルロッテ”に圧を掛けている。
「ひッ…ひゃぇ…」
「マジかよッ…」
「急にロイヤーッ?!どーなってるんですかツグネさん?!」
いや、普通にエヴァンテが今日の朝使ってた市民権を利用したテレパシーとかでシャルロッテに直接、“俺の言う通りにしろ”って言ってくれればよかっただけなのに…。
流石にコレはやり過ぎだ…。
「俺別にロイヤー使ってまで脅せって言ってねぇーぞ…。」
———「なッなんだァッ!!!ロイヤーが居るぞ!!!」
———「何でここにロイヤーが!!!」
———「エヴァンテ様おやめください!!!」
———「エウレカさん!一体何が起こっているのですか!」
———「エヴァンテ様ぁぁぁぁあ!!!」
場は阿鼻叫喚だぞエヴァンテ…。
「…わわわわわ私はははははうううう嘘をついているかどうかわかかかかかるギアだ。ぜッ絶対外部に漏らすなよ!」
シャルロッテが兎みたいな喋り方になってる…。
「…教えてくれてあんがとよ。」
シャルロッテが俺へ自分のギアを話した事で上空のロイヤーが飛び去って消えた。
「いいいいくぞ…。」
シャルロッテの喋り方と歩き方がガクガクしていてぎこちない。
「ビビって糞でも漏らしたかシャルロッテ。」
「く、糞なんか漏らしてないッ!!!」
ションベンは漏らしたんだな。
あー、悲惨だな。
その後、俺達は広いグラウンドで、エウレカの声のする方へ歩いて行った。
——————「おや、ツグネ。こんな所で何をしているんだい?」
目の前には数十人をノックダウンさせているであろうエウレカが居た。
「お前、結構強いんだな。」
「なんたって僕は、カスミ部隊の師団長だからね。」
「…そんな師団長に色々聞きたい事がある。とりあえず基地まで案内してくれ。」
———————————————#####
——————その同時刻…。
薄暗い部屋。
大きさは学校の教室一部屋分だ。
「統合幕僚長。ただいままいりましたエヴァンテですわ。」
1人の初老に向かってエヴァンテが挨拶した。
その男は黙って会釈した後、エヴァンテに向かって一言いった。
「エヴァンテ。最近時間を守らなくなってきたな。」
「ふふっ、つい予定を忘れてしまう程、楽しい日々を送っていますわ。」
「そうか。俺は嫌味で言ったつもりだったんだが、まぁ楽しい日々を送っているのならまぁいいか…。」
「あら、おやさしい対応感謝いたしますわ。」
「さて、本題に入ろう。」
「えぇ。あ、ちょっとお待ち下さいまし………。」
「…なんだ?どうした。」
「今、少し急用でロイヤーを動かしましたわ。」
「…どんな急用なんだそれは。」
「少し部下にイタズラするだけですわ。」
「…(ガキだ。)。」
エヴァンテは統合幕僚長と今後起きる出来事とその対策を話し合った。
いうまでもないが、話し合った内容はすべてツグネが経験している事だ。
エヴァンテはそれを自覚していながら話した。
記憶にない繰り返しを自覚しながら…。
「では、エヴァンテ。コレで行こう。」
「そうですわね。しかし、まぁ……。統合幕僚長、最近new orderと同郷の者を懐に入れられたとお聞きしましたが。」
統合幕僚長は椅子を軋ませながら上を見た。
「隠すつもりは無い。だが、晒すつもりも無い。」
「それは秘密にしているのと同意義と受け取られましょう。」
「ふん。食えない女め。しかしまぁ、アレはnew orderに対するストッパーの様なモノだ。」
「アレがストッパー…?ふふふっ、ふふふふ。」
「ふん。知らぬフリをしよってか…。その様子だともう知っておるのだろ。」
「そうですわね〜…。new orderをライオンと例えるのなら“あさぎ”はぴょんぴょんするだけの兎さんでしょうか。ふふふっ。ストッパーというよりスリッパに近しいかもしれませんね。」
「…もう名を言うてもうてるではないか。それに皮肉が過ぎるぞエヴァンテ。」
「あら、常人では到底気づかない様なサイレント皮肉のつもりが一瞬で看破されてしまいましたわ。流石統合幕僚長と言ったところですわね。」
「もうガキじゃないんだエヴァンテ。子供はまだたった数十年弱しか生きておらんだろ。これからだ。」
「仰る通りですわね。子供は大人を映し出す鏡…。私はもっと頑張らなければなりませんね。」
「…(随分レベルの高い会話になった。面倒くさい。)。」
「ふふっ、私にも昔みたいにお菓子をくれてもよろしくて?」
「…お前、最近ちょっと調子乗ってるとか言われないか。」
「あら。」
「お前、最近ちょっと浮かれてるとか言われないか。」
「あらあら。」
「お前、最近ちょっとキモイって言われ…」
「今日する話はもう終わりましたわ!さて、次の用事があるのでそちらへ向かいますわ!」
エヴァンテは薄暗い部屋の扉をバン!と開き、そそくさと出ていってしまった。
「話を切り上げた割には随分嬉しそうな笑顔だったな…。」
———————————————#####
「エウレカ。変なこと聞いてんのはわかってんだけどさ、お前以上に強い奴ってのはどのぐらいのレベルの強さなんだ。」
「ほう…これはまたなかなか…。」
俺、タフナ、シャルロッテ、エウレカは豪華な基地の部屋で豪華な椅子に座り、豪華な食事を前にしていた。
大きな窓が印象的なとても良い部屋だった。
窓は全開まで開かれ優しい風と外で訓練する師団員達の声が五感を撫でた。
「う〜ん…。そうだな。例えるなら僕は死なないから[負けは無い]けど、勝負となったら[負けはある]と言った所だ。」
「まぁアレだろ。お前つまり不死身だから負けたことがねぇって言いてぇーんだろ。どんだけプライド高いんだよ。」
その時、俺たちのいる15階の窓の外から1人の女の声がした。
——————「いや、エウレカ。お前しょっちゅうカンネにボコボコにされてるだろ。」
「うわぁぁッびっくりした!ここ15階ですよぉ!」
タフナが1番最初に驚いていた。
その声の持ち主はエレクターと呼ばれる巨大な蟻や蜂の腹の様な機械を使って空をホバリングしている。カスミだ。
※ホバリング…空中で留まる飛行の事。
その次にシャルロッテがあたふたしていた。
「カ、カスミ様ッ!こ、コレは違うのです!け、決して貴方様の訓練をサボったとかそーゆーのではなく!エヴァンテ様に頼まれて仕方なくッ!あのッ…!あのッ…!」
——————「…そうか、それはそうと随分美味しそうなランチだな。しかし、ランチタイムには少し早いんじゃないか?」
シャルロッテは口の横にソースを付け、両手に具材の豪華なサンドイッチをガッと掴んでいる。
「ご、誤解なのです!」
「可哀想だけど、説得力ねぇーよ。」
「可哀想ですが、説得力ないですね…。」
何とも滑稽だな…。
可哀想に。
まぁ…食い意地が張ってたアイツにも責任があるけど。
——————「まぁ何でもいい。お前がエヴァンテに虐められていると風の噂で聞いたから特殊作戦群の訓練を抜け出して、ここへ様子を見に来ただけだ。まぁ、なんというか幸せそうで何よりだ。」
「あッ…あぁッ…あぅ…。」
何も言い返せず、シャルロッテはただ目尻に涙を溜めていた。
——————「では、私は戻る。」
——————ブォォォォォッン!!!
カスミはあっという間に遠くへ飛び去った。
ほんと嵐みたいな奴だな。
俺は耳をクタッとしならせたシャルロッテを横目に話を戻した。
「お前、不死身の四騎の癖に人間のカンネ•ロードに負けてんのかよ。」
その時、部屋の空気が変わったのがわかった。
何というか、逆鱗に触れたとかそういうのではなく、ただ「お前何言ってんの?」みたいな雰囲気を感じた。
「カンネ•ロードの“ロード”の意味は知っているかい?」
「あーなんか凄い尊敬されるなんか凄い奴だろ。」
俺の曖昧な認識にタフナが突っ込んだ。
「認識雑すぎませんか。まぁ僕もあんまり知らないんですが。」
シャルロッテはこちらの話など関係なしと言わんばかりに下を向いてゲンナリしている。
エヴァンテからは[ロード]、[四騎]、[四使]はそれぞれ4人ずつ存在していると聞いている。
その中でも特に[ロード]に関しては、気になるな。
「んで、ロードってなんなんだよ。」
「“ロード”というのはつまり!…何なんだろうな。」
「「おい。」」
「いやはや…改めて“ロード”とは何ぞや。と考えた時、自分の中でも答えが出なかったものでな。」
「まぁそれが敬称のような物だとしてお前は何で普通の人間のカンネ•ロードに負けんだ?」
「技量の差だな。」
「んなもんで説明つくと思ってんのか。」
「そうか?ならもっと明確に言えば、双方の総合的なステータスを比べた時、僕の方が劣っているという事だ。」
「劣っているって…。なんかごめんな、別にそこまで実直に言ってくれなくても…。」
「僕エウレカとカンネ•ロード、それぞれが最大限己の力を発揮できる状況をぶつけた時どちらの方が強いかと言った短絡的なものに過ぎないのだが…」
「そうだな。カブトムシにはカブトムシの強さがあって、クワガタにはクワガタの強みがあるからな。」
「ツグネさん、それ超失礼ですよ。」
「そういえば昔、僕は周回移動都市側につく前にカンネ•ロードにロードの称号を奪う決闘を挑んだことがあってだな。」
「ロードって奪えんのかよ(笑)」
「ロードって奪えるんですかエウレカさん?」
「え?別に奪うとかないが?」
「ないのかよ。」
「ないのかよ。」
「そしてだな。俺は一万年間鍛え上げたチカラでカンネ•ロードに切り掛かったんだ!」
「…?!ちょっと待てそれじゃお前エヴァンテよりも長っ」
「ツグネさんとりあえず最後まで話聞きましょうよ。順番に聞いてかないと多分話進まないですよこれ。」
あーツッコミが無限に出てくるこの感じの奴かコイツ。
さっき聞いたエネ•ローゼ•ユワナ•ベクターの御伽噺も確か一万年前の話だった…。
「切り掛かったと思ったら俺の脚が既に斬られてたんだ!つまり、カンネ•ロードは俺が斬ろうと思ったその時にはもう俺を斬ってたんだ!」
「…お前随分楽しそうに話すんだな。」
「楽しそうですね…。」
「あぁ!僕はその後不死身を利用してその場に倒れる事なく反撃したさ!幾度となくだ!」
「あ…そうか。」
「か、かっこいい…」
タフナって意外とガキっぽいところあるな…。
…にしても、エウレカのところに来て正解だった。
英雄旗叛逆のワザについて聞き、落武者の対処を練るつもりだったが意外な収穫だ。
まさか、エウレカがエヴァンテよりも歳上だったとはな…。
「カンネ•ロードは俺の攻撃を全て生身で捌き切り、逃走を開始したんだ!僕は追ったさ!それはもう闘牛の様にね!」
「お前ほんとなんなんだよ。」
「ヒートアップしてきましたね!」
「しかし、カンネ•ロードはかなり深い落とし穴を事前に掘っていたんだ!そして当然、僕は落とし穴に落ちたさ!僕が底につくと同時にカンネ•ロードは爆薬を使って僕を深い場所で生き埋めにしたんだ!」
「…うわぁ。ト○ジェリかよ。」
「い、生き埋めッ?!」
「あぁそうさ!僕は上も下もわからぬ状態で数十時間地中を彷徨ったさ!思い出しただけで口に詰まった土の味と圧迫感でオェ〜ッ!!!」
——————ゲロゲロゲロッ!
エウレカが両膝と両腕をつき吐いた。
「テメェどーゆー感情で話してんだよ!」
「エウレカさんが吐いたぁッ…!」
「ゲホッゲホッ!そしてやっとこさ地上に出た瞬間、カンネ•ロードに呼び出された周回移動都市のスフィアに100年間ボコされたよ!あれは痛かったなぁ!オェーッ!ウゲェッウゲェッ…。」
「フルコンボじゃねぇーか。」
「状況はわかりませんが、してやられた感がありますね。」
もう胃の中のモンなんも出てきてねぇーじゃねぇかよ。
早くどうでもいい話終われよな。
「あ〜、もう話終わったか?質問していいか?」
「あぁ、何でも聞いていいぞツグネ。」
何から聞くべきか、エウレカの技の事か、落武者の強さのレベルを考察できる事を聞くか…それともユワナのことか。
「エウレカ。“エネ•ローゼ•ユワナ•ベクター”について何か知ってるか?」
その名前を聞いた瞬間、エウレカが懐かしそうな顔を浮かべた。
「そうだな。あのネズミは凄かった。」
「ガチでネズミなんか?ほんまにネズミやったんか?アレ、ネズミがスフィア操縦してたんか?!?!ほんまか?!?!」
「ちょっとー、ツグネさーん。関西弁になってますよ。」
事件→対策→事件→対策→事件の繰り返しですが、そんな余裕あるの今のうちだけです。そのうち事件事件事件事件になります。




