〔第67話〕悪鬼羅刹も一歩から
フブ視点です。
周回移動都市の地下都市、トワイライト5000へ向かう道中、フブは狭い通路を歩きながら考える。
「なぜ味噌汁ゼリーがこの世に普及していないのか…。」
「…ん?どったのさ?」
セネカが私の呟きに反応する。
「いや、なんでもない。」
自分の前にはセネカが、その前には虫っ娘、さらにその前にはエウレカ、カスミと列を成している。
前からカスミとエウレカの話す声が聞こえてきた。
「なぁ、エウレカ。なぜ都市はこんな事態になっているのにドレス•ロードを連合列車から呼び戻さないんだ?」
地下深くの薄暗い通路、カスミ、エウレカ、セネカ、フブ、虫っ娘が隊列を成して歩く。
その中でカスミがエウレカへ疑問を投げかけた。
「それはですねカスミ様。今連合からドレス•ロードを引き上げれば、連合の手が監視なく自由に動かせる事になります。そうなれば、いつもの様にダグラス•モニカの独壇場になります故。」
「はて、しかし、ベクターの大半を失いエースパイロット、ラスター•エネ•ウォンスキーをも手元から失った連合に何かできるとは思えないが。」
「連合は僕達と違い世界から祝福されていますから、ベクターの代わりとなるスフィアぐらいダグラス•モニカならきっと用意するでしょう。」
「今ほどドレスのチカラを頼りたいと思った事はないぞ。」
「何を仰いますか、我らが六防のカスミ様が今ここにいらっしゃるではないですか。」
「買い被りすぎだ。」
——————カチャンッ……。
1番先頭を行くカスミが動きを止め、片腕を上げる。
軍隊でも使われる動き、その意味は“行動停止”だ。
——————カチャンッ……。カチャンッ……。
前方から奇妙な音がする。
例えるなら鉄と鉄が軽く打ち付けられる音だろうか?
そしてカスミがエウレカにアイコンタクトで何かを伝えた。
エウレカはそれに反応し、首を縦に振る。
カスミはエウレカの合図と共に、自分より前にエウレカを先行させた。
エウレカは手に持っているサイバーパンクな武器を構え、1人ゆっくり先へ進む。
——————カチャンッ……。カチャンッ……。
「…ねぇ゛、これ何の音…?」
私は近くにいるセネカに尋ねた。
「シーッ…フブ静かにして…。」
——————カチャンッ…。誰じゃ…敵かぁ〜…?
少し喉の震えた老人の声が聞こえてきた。
狭い通路の暗がりの奥、そこから老人の声がする。
それにそくしてエウレカがサイバーパンクな剣を構えて警告の意味も含め、名乗った。
「こちら第三師団カスミ部隊。只今トワイライト5000階層全土に危険地帯警告が出ている。直ちに避難せよ。」
——————カチャンッ……。
———『今時の若者は巨大な竹とんぼをこしらえてまで空を駆けるらしいのぉ…。基礎がなっとらん癖にのぉ…。偉そうじゃのぉ…。』
「聞いてるのか?これは忠告ではない。最終警告だ。これ以上立ち去らない場合は領土侵攻する連合の手先だと断定し、お前を斬る。」
——————カチャンッ。
エウレカの目線の先、暗闇からゆっくりこちらに近づいてくる影が1つ。
その影は生者の呼吸を感じさせず、死者の静寂をも気取らせない。
そして、その影に最も近いエウレカは本能で悟った。
「退避ッ!!!!」
ただならぬ脅威を本能で感じ取ったエウレカが後方に隠れている皆に聞こえる様、大声で叫んだ。が…
その叫び声と共にエウレカの首がボトッと地面に落ちた。
——————カチャンッ……。
首が硬い地面に跳ね転がる。
——————カチャンッ……。
刀の納刀時にでる鉄の音が響く。
首を失ったエウレカの胴体が膝から崩れ落ち血飛沫と共に地面へ頬ずりした。
——————ベチャッ…!
首から血が吹き出し尚も赤く通路を染めた。
後ろで待機していた私はそれを目にし、思わず叫んでしまった。
「エウレカッ!!!」
カスミが私の口をサッと塞ぐ。
「ンムグゥッ!」
「大丈夫だ。フブ。エウレカは四騎だ。あの程度では死なない。」
「それホントなの?!アレ完全に頭取れちゃってるよ…。」
———『他に何人いるじゃぁ〜…。糞ガキ1人叩き斬るだけでは、神様に申し訳がたたんからのぉ〜…。」
神様?
それは222の事か?!
そもそも222が操る傀儡ってスフィアとか機械だけじゃなかったんだ…。
しかしまぁ、“糞ガキ”というその言葉にイラッとした私は片膝を立てた。
「私が行ッ…」
強引に立ちあがろうとした瞬間、カスミにそれを止められた。
「私が行こう。エウレカが瞬時に復活しない時は“隙を作れ”という合図と相場は決まっているのでな。」
カスミが立ち上がり隠れていた物陰から姿を現す。
「……。」
———『女…。?』
「あぁ、私は女だ。」
縦横高さそれぞれが3メートル程の暗い通路、暗闇から揺らっと出てきたその姿は落武者そのものだった。
——————カチャンッ……。カチャンッ……。
———『なぜ女が戦場に…。』
「ふっ、そんなことどうでも良いだろう。そんな事より、私がお前の相手になろう。」
———『邪道よのぉ〜…邪道よのぉ〜…。』
カスミの背中に、いつかみた巨大なバックパックが展開された。
——————ガヒューッン!ガコンッガコンッガコンッ…!
蟻の腹や蜂の腹と言った印象を受ける極めて機械的なバックパックから一本のデカい剣が出てきた。
「私はな、これでも抜刀術を得意とする太刀使いなのだ。」
———『太刀で抜刀術…?お主もなかなかに馬鹿よのぉ〜。』
「鯨二式太刀だ。」
カスミは鯨二式と呼んだ巨大な剣に命令をするとその巨大な剣は有りとあらゆる所がガシガシ可動し、細長くなっていった。
その太刀はカスミの身長の約2倍、常人なら到底持ち上げることすら困難なその鉄の塊からはプシューッと半透明な煙が出ている。
——————カチャッ。
カスミはそれをいとも簡単に振りかざし相手へ太刀の先端を向けた。
「いざ、じんじょうに。」
カスミの狐の様なピンッと立った耳が逆立つ。
———『お主〜、人間の皮膚を纏っている癖に獣の様な耳を持っておるのぉ〜…。さては、妖の類いかのぉ〜…悪よのぉ〜悪よのぉ〜…悪霊退散…悪霊退散…。」
「ハッ、誰が悪霊だ。狐なのだからせめて祟りとかにしてくれ。」
———『こんな物理的な祟りがあってたまるかァッ!!!』
コイツの沸点が分からない。
その場にいる全員がきっとそう思ったであろう。
落武者の様な見た目の老人はボロボロの着物を着ている。
まるで日本の戦国時代の武士…というより、その見た目のボロさからやはりサムライではなく“落武者”と言った方が妥当だろう。
落武者が腰から下げた刀のツカに手をやるとお互い勝負の間合いに入ったらしく体の重心を下げた。
しばらくの沈黙が続いた。
まるで西部劇の射撃対決の様だった。
背中合わせで立ち会って、10歩進んだ所で撃つそんな勝負にも見えてきた。
お互いが体の重心を低く保ち、それぞれの武器のツカに手を添え、抜刀体制に入っている。
数秒の時が過ぎた後、落武者の体がブレた。
——————カチャンッ…!!!
刀と太刀が鞘に収まる音が狭い通路へ響く。
「えッ?!カスミと落武者の位置入れ替わってるよ?!」
「だから!静かに!ほら、虫っ娘もなんかフブに注意して!」
虫っ娘はジトっとした目で人差し指を一本立てシーと言うポーズを促してくる。
なんか可愛いな。
いやそんな事より落武者だ。
カスミと落武者の位置がお互いに入れ替わったかの様に場所を移動していた。
「どっちが勝ったのッ…。」
それに対し、誰かが返事するよりも早くカスミの両腕がボトボトと地面へ落ちた。
鮮血が通路を染める。
——————ブシュュュュッ!!!
———『我…天下無双也。』
「カスミっ!!!!」
それに慌てたセネカが再度フブの口を急いで押さえ付けた。
(こらっ!一様僕達は隠れてるんだからそんな大声出しちゃダメッ!何回も言ってるよね!)
———『我、天下……なんじゃ?』
落武者が奥から聞こえてきた物音に反応し、再び刀のツカに手を添えた。
一瞬私の声が落武者に聞こえて隠れている場所がバレたのか心配になったが、どうやら違ったらしい。
次の瞬間、両腕を切り飛ばされたカスミが叫んだ。
「エウレカ!!!」
——————[英雄旗反逆。]
グロテスクな騎士の姿に変幻したエウレカが復活を果たし、カスミの隣で武器を地面に突き刺してそれを回した。
さっき言ってた隙を作る作戦とやらが成功したのだろうか…?
———『…お主ッ何故まだ動いてッ…!』
エウレカの手前の地面から大量の骸骨が這い出し、それらが折り重なって小さな山を作った。
それらの骸骨達が一度ドロドロに溶け、1つの球体を作り出した。
——————カチャンッ!!!
すかさず落武者はそのドロドロの球体に向けて居合いを放つ。
が、ドロドロの球体に斬撃は一才効かず落武者はただそれを警戒するしかなかった。
その裏でカスミは自分の落ちた両腕を口で咥え、持ち上げた。
「にゃかにゃかの強敵でにゃった…もしかするとにゃくたいきょうどはカンにゃと同じレベルにゃのではないだろうか…。」
———『ちょこざいなッ!何を勝った気にッ…!居合いで勝ったのはこのワシじゃ!そしてこれからの勝負に勝つのもぉ!!!』
「腕ぐらいならくれてやる。私はお前の言うところの妖なのだからな。」
カスミの腕はまるで何事もなかったのかの様にくっついていた。
「獣は体が強いのでな。」
そしてカスミは見せつける様に手をグーパーしてみせた。
———『何ッ…!?やはり、貴様邪神の類ッ…!!!』
「英雄旗叛逆は隙を作らねば、発動出来ぬからな。一発喰らわせたと思ったか?これでおあいこだ!」
———『妖の分際で愚かなり。あぁ退治せねば。退治せねば。』
六防のカスミと不死身の四騎士のエウレカが成す初見殺しコンボは成功したらしい。
あとは、英雄旗叛逆の完成を待つのみとなったが自体は急変した。
—————— ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!
激しい音と暴風が狭い通路に吹き荒れた。
一瞬エウレカの技の影響かと思ったがカスミの顔から察するにどうやら違ったらしい。
—————— ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!
その暴力的な風の前にその場に居た誰もが体の重心を崩し、倒れ込んだ。
落武者はそれを見逃さずブレた自分の体を器用に操り、カスミに向かって剣撃を放った。
——————ガキンッ!!!
カスミは間一髪太刀でそれを受け止めた。
しかし、暴風の影響でバランスが崩れ落武者の斬撃の一部が被弾し、肩が抉れた。
「グッ…!」
——————ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!
そんな中、私は何か自分にもやれることがないか探す為、周りをキョロキョロと見回す。
(そもそもこ急に吹いた暴力的な暴風は一体ッ…!)
そして私は見つけた。
カスミと落武者よりも少し先の奥、暗闇の中に二つの青い点が揺れている。
「カスミ後ろに何かッ…!!」
—————— ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!
激しく瓦礫が崩れ落ちる音がした。
砂埃が暴風と共に小石を巻き上げ、散弾銃の様に私の頬を掠めた。
一瞬、自分でも何が起こっているのかわからなかった。
「カスミッ…!!!エウレカッ!!!」
ほんの数秒時間が流れた後、ようやっと理解できた。
新たな刺客だ。
——————『よぉ、六防と四騎のエウレカまで居んじゃねぇか!ラッキーだぜ!ラッキーだぜぇ〜…よぉ!!!んで、ジジイテメェは誰だよ。』
遠くの通路から響く男の声は人を馬鹿にした様な態度で言った。
それに落武者はあからさまな不機嫌で返す。
———『お主こそ、誰じゃ…。小童が偉そうにのぉ〜…。』
落武者はカスミの太刀をノーモーションで振り払い、蹴りで壁へ吹き飛ばした。
必然、カスミは狭い通路の壁にめり込んだ。
——————ドゴォォォォォッン!!!
落武者はカスミの相手は飽きたと言わんばかりに遠くの通路に現れた男の声の方に体を向けた。
それを気にする様子もなくその男はコツコツと足音を鳴らしこちらへゆっくり近づいて来る。
——————『俺の名はベック•ベック•ミル•ベックだ。ベックって名前が3回付いてるんだぜ?覚えやすいよなぁ〜?よろしくなぁ…?!』
不気味に光るその二つの青い瞳孔が私の心に警鐘を鳴らす。
———『偉そうよのぉ〜…偉そうよのぉ〜…、」
——————『ギャハハッ!そうか?偉そうか?!偉そうかぁ?!まぁお前より偉いんだから当たり前なんだけどなぁ!ギャハハッ!!!』
狭い通路に嘲笑が響く。
今にも戦いが始まりそうなその時、私はふと我に帰った。
「エウレカとカスミは?!ねぇ、セネカどうしよう!」
ベックという男が現れてから一部の通路が崩れ落ちている。
カスミは目視で生存を確認できるが、さっきからエウレカの姿が見当たらない。
(瓦礫の下か…もしくは暴風に飛ばされたか?!)
隣に一緒に隠れているセネカが私の肩をポンと叩いた。
「アイツは連合の武闘派だよ。ベック…有名な奴だ…。」
「でも、トワイライト5000にはメイトンしか居ないんじゃ?!」
「どんな手品使ったかわからないけど、いる事は確かだよ。だって今目の前に居るんだから…。」
「…私達はどうすればいいの。ベックは強いの?私じゃ勝てないの?」
「アイツは強いよ…。不死身の僕達ならた対抗できると思うけど今は様子を見よう。もしかすると落武者と相打ちになってくれたりするかもしれないしね。」
セネカはわかっていた。
そんな事、希望的観測に過ぎないと…。
——————『来いよ。ジジイ。どったぁ〜?俺から行ってやろうかぁ〜?あぁ〜?!』
挑発するベックに対し、落武者はその場で居合いの構えをとった。
———『ちょこざいなッ…。』
——————『なら俺から行かせて貰うぜぇ!!!』
——————ピピピピッ。ピピピピッ。ピピピピッ。
激闘が始まるその瞬間、ベックのポケットからアラームが鳴った。
——————『あっ…すまねぇ。俺別の用事あったわ。』
———『…ほぇ?』
——————『先輩より優先すべき事項はこの世に無い。ということで、お前との勝負はお預けだ。』
———『…は?貴様…何を言っておる。さては、いちびったなッ?』
——————『用事終わったらまた会いに来てやっから寂しがんなよジジイ。孫不足ですかぁ〜?』
ベックはその場から瞬間移動する様にパッと姿を消した。
———『…は?…は?は?は?はぁ?!ッ?!最近の若者はァ〜ッ!!!』
(…敵同士で潰し合いはしてくれなかったか。)
そんなことを思っていると隣のセネカが渋い顔をしてこちらを見てきた。
「世の中そう簡単にはいきませんなぁ…。」
「だね…。あっ、そんな事よりエウレカの英雄旗叛逆は!?どっち道アレで一発逆転だよね?!」
セネカは瓦礫の影から顔をチラッと覗かせてから、険しい声で言った。
「古来からの習わし、“英雄旗叛逆発動完了まで術者本人が死んではならない。死ねばその術は発動されない。そしてしばらくの間その術を禁じられる。”と言われているんだ…。つまり次の技までにクールタイムが入るって事だよ。僕はちょっと成りが特殊だから聞いた話でしか無いんだけど…。」
「…というと。」
私の中に嫌な予感が走る。
「予想でしかないけど、エウレカが英雄旗叛逆を完了させる前にベックに殺害された…。もしくは瓦礫に潰されたか。なにより、今落武者を迎え撃つ味方が立って居ないのが何よりの証拠だ…。」
「…多分カスミはケモだからまだ生きてる。でしょ…?ほら、普通の人間なら死ぬ攻撃でもカスミ生きてたしッ…!なら、私が助けに行く。落武者と一発交えてくるよ。」
「……かつてあれ程強かったベリエッタであった君ならばその潜在能力で少しは戦えるかもしれない。けど、無謀だよフブ。君は今誰でもない“君”なんだからさ…。」
「大丈夫。私学校ではチーターって呼ばれてたから逃げ足は速いよ…。だから、私が落武者と一発激しくぶつかって逃げれば!」
「轢き逃げみたいに言わないでよ…。そんな簡単な話じゃないんだよ…。」
「大丈夫!私が一発強い奴かましてッ!」
「その一発って表現キモいからやめてね。」
「え…?あ、うん?」
——————『我前に敵無しィィィィイイッ!!!…しかし、これでは不完全燃焼じゃ…。おい、狐の妖や、お主まだ息がある様じゃのぉ…。』
落武者は壁にめり込んでぐったりしているカスミの頭を鷲掴みにし、持ち上げた。
カスミは意識がないらしくダラーンと体を脱力させている。
「セネカ!このままじゃまずいよ!」
「だから静かにッ!って…もういいか。…僕が行くよ。エウレカが本気で戦えてないのはカスミのせいでもあるんだ。」
「え…?」
「カスミがこの場にいるからエウレカの得意分野でやれてないだけなんだ。だから、カスミを回収して僕は一旦距離を離す。…って言いたいけど、僕のチカラだけじゃ落武者を足止めすることしかできなさそうだよ…。」
「えぇぇッ!?じゃぁどーするの!」
私の大声に反応し、隣に居る虫っ娘が人差し指で唇を押さえてきた。
可愛い。
「だから、僕が落武者の相手をしてる隙にカスミを連れて距離を離して。出来るだけ遠くに行くんだよ!わかった?」
「うん、わかった。あるんだね…何か大技がッ!」
「まっかせてよ!」
セネカはそう言うと一人立ち上がり落武者の前に姿を現した。
肩を揺らし風を切りながら大暴に歩く。
「こんにちは。落武者さん。」
———『まだガキが居るのぉ〜…。あと何匹隠れてるかのぉ〜…。』
「その今手に持ってる狐さん返してくれない?今日の晩ご飯なんだ〜。」
———『…妖を…食う…?』
「あー、そうそう〜そーなんだよ。スープに合うんだよね〜その狐。狐で出汁取るから狐汁なんつって〜…。」
———『妖を喰らう邪神ッ…貴様ッ邪神じゃなッ!!!』
「君、絶対友達少ないでしょ!!!冗談本気にしちゃって!頭硬いんだからッ!」
セネカの背中から血飛沫が飛び、一本の剣の持ち手がヌルッと出てきた。
その持ち手は30cm程の長さを誇っている。
にしても、見た目がとても痛そうだ。
「僕はエウレカと違って最終警告なんかしないよ。」
セネカは背骨の延長線上に生えたかの様な剣の持ち手をゆっくり皮膚を切り裂きながら引き抜いた。
——————ブチブチブチブチブチッ!!!
(グ、グロいッ…!!!)
セネカの背中の皮膚を突き破り一本の長い剣が姿を現した。
え、背骨を抜いたら立てまへ〜んってなるんじゃないのかな?!
いや、今セネカが立ってるって事は多分アレは背骨じゃないのか。
「エウレカは過程を省略する事によって己をわざと弱体化させているんだよ。それは敵への優しさからくる物であり、贖罪からくる物であり、ヴェルサイユ抑制法で抑え付けられている物でもある。でもね、僕はそんなに甘くないよ。なぜかって?」
———『やはりッ…貴様も魑魅魍魎の類いッ!?』
「僕は国際法守るほど真面目じゃないからねぇ!!!」
破れた皮膚の隙間からセネカの体が変幻していく。
背中から黒い硬そうな何かがセネカに纏わり付いた。
「騎士、騎士道精神抜きと言われる僕と勝負だ!」
黒く光沢する複雑なディティールの鎧が現れ、セネカが騎士に変わった。
しかし、エウレカと違いなんらグロくは無いし、むしろカッコいいまである。
(え?!エウレカと違い過ぎない?!)
———『不愉快じゃのぉ〜…不愉快じゃのぉ〜…。』
「不死身の戦い方見せてあげるよ。」
——————チャキッ…。
落武者が居合いの構えに入った。
セネカはそれに構わず、自分の体内から取り出した剣を使って落武者に振りかざした。
——————ザシュッッ!!!
落武者の居合いでセネカの胴体がバッサリ斬られた。
しかし、セネカはまるで何事もなかったかの様に上半身だけで己の剣を振り翳した。
落武者はそれに驚きもしつつ、すぐそれを受け止めた。
——————ガキンッ!!!
落武者が次の斬撃を放つ前に、セネカの下半身がセネカの上半身とくっついていた。
———『やはりッ、邪神の類ッ!!!』
「君それしか言えないのッ!!!」
——————ザシュッ!!ザシュッ!!ザシュッ!!!
落武者の斬撃はセネカの有りとあらゆる体の部位を切り裂いた。
しかし、セネカは倒れない。
それどころか斬られていることを全く気にせず、落武者に対し、剣を振り翳していた。
それを後ろで見ていた私は改めて不死身の恐ろしさを思い知った。
(うわ…兎とゲーム格闘ゲームした時みたいなクソゲー感があるな…。)
相手がどんなに強かろうが、どんな必殺技をくり出そうが関係なく全ての攻撃を正面から受け止め、ダメージをもろともせず戦う。
エヴァンテ達曰く私も四騎の内の一人だって聞いてるからセネカと同じ事が出来るらしいけど、そう考えると何だか恐ろしい…。
それと同時にエウレカが普段敵に対し、どれだけ手加減をしていたか見てとれる。
(ハッ!そんな事よりカスミの回収だ!)
私は落武者とセネカが激闘を繰り広げている隙に壁にめり込んだカスミを担ぎ上げ遠くへ向かって走った。
幸いな事に私の行動が落武者に気取られる事はなかった様だ。
多分、虫っ娘のお陰だろう。
私が動き出す前にセネカと共に落武者退治に加勢しにいってくれた。
「これが不死身の戦い方じゃゃやぁぁぁぁあい!!!」
体のありとあらゆる部位がバスバス斬られるセネカに対し、落武者は水を斬るかの様に刀を振り続けた。
もちろん、セネカにダメージはない。
一方で落武者は人が増えた分だけその攻撃を捌き斬るのに少し時間がかかっている様だ。
——————『邪神めがぁぁぁぁぁあ!!!!!悪霊退散!!!悪霊退散!!!ハァァァァァァッ!!!』
私はそれを尻目ただ走った。
ひたすらに走った。
——————シュタタタタタタタタタタッ!!!
(アッ、カスミのメカメカしいバックパックほっぽってきたけどまぁ状況が状況だからイイよね!…。)
落武者とセネカの刀と剣がぶつかり合う金属音も、狭い通路に反響していた声も聞こえなくなった。
——————シュタタタタタタタタタタタタッ!!!
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…」
息が切れたのは何年ぶりだろうか。
全力ダッシュをし過ぎたせいなのか、カスミを運んでいるせいなのか、少し足が重くなってきた。
そんな時、背中に背負っているカスミの意識が戻ったらしく私に話しかけてきた。
「ベリエッタ、お前が息切れするとは随分怠けて居た様だな…。3ヶ月ぶりか…?髪型も変えたのか…?」
「はぁッ…はぁッ…、だからッ私ベリエッタじゃないよ!」
カスミの頭からは出血が酷かった。
きっと頭を打って混乱しているんだろう。
「私はなぜベリエッタに担がれてい…ッハ!!!」
カスミの意識が覚醒し、走る私の背中から強引に飛び降りた。
「ちょッ?!うぉ!!!!」
私は全力疾走の勢い余って体のバランスを崩し、盛大に転んだ。
——————ドカァーーーンッ!
「痛ッ!!!ねぇ゛ーーー!!!」
「エウレカは?!それにセネカ、虫の娘は?!」
酷く焦った様子で私に問いかけるカスミ。
「今、セネカとエウレカ虫っ娘は落武者と戦ってる!私はエウレカが全力を出せる様にカスミをここまで運んだ!」
「エウレカが本気を…?まさかッ。」
「そんなヤバい事なの?!」
カスミは前触れもなく突然叫んだ。
「来いエレクター!!!」
それに驚き私の肩はビクッと跳ねた。
——————キィィィィィィィィィッ!!!!!
瞬間、私達が逃げてきた方向からカスミのバックパックが勢いよく飛んできて、呼び出した本人の背中に留まった。
「凄いッ!!!」
シンプルな感想しか言えない自分を少し恥ずかしい。
「フブ!壁から距離を取れ!ぶち抜く!!!」
「はぇ?!」
次の瞬間カスミはそのメカメカしい機械のパックパックを展開させ、レーザー光線の様な砲撃を壁に放った。
——————キィィィィィィィッ!!!
「本当に何してるのぉ?!」
「早くトワイライト5000へ出るぞ!エウレカの本気は物量で来る!!!私たちも巻き込まれる!!!」
「何それッ?!」
私はさっきまで気を失っていまカスミに体をガシッと掴まれ、通路の外側の広い空間へ無理矢理飛び出された。
通路の中とさほど変わらない薄暗い空間。
外から見てわかったが、さっきまで私達がいた狭い通路は所々、岩の中と側面を削り取って作られているらしかった。
しかし、狭かった通路の中とは明確に違う点があった。
それは広さだ。
ビルが何本も入りそうなほど広く、底が見えないぐらい深い。
私はカスミの体にガシッと掴み必死に叫んだ。
(ん?これジェットコースターより怖い速度で飛んでいるのでは?)
ジェットコースターよりも速い癖に安全バーはなく、決められたレーンもない。
途端、自分の顔が青白くなるのを自覚した。
「うぎゃーーーー!!!」
想像してなかった。
狭かった空間から出た先がこんな広い空間だなんて。
ただただ内臓がヒュンッとする。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いッ!?!?
「命が軽いよぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
「案ずるなお前は不死身だ!」
「それあんまり信じて無いぃぃぃぃぃぃい!!!だって死んだ事ないもぉぉぉぉぉぉおおんんんんん!!!」
「舌を噛むなよッ!」
カスミはさっきまで気を失っていたと思えないほどアクティブに飛んだ。
飛んだと言ってもバックアップの動力を利用してだが。
これも獣人のチカラなのだろうか凄くタフネスだ。
カスミは狭い通路からできるだけ距離を取る様に風を切った。
——————ヒューーーーーッ!!!
エレクターと呼ばれたパックパックはメカメカしい音と共にその形を大きく変え、飛行形態になった。
「エレクター!“フルファイア”だッ!!!」
カスミが獣の様に叫んだ。
——————ブォンッ!!!!!!
更に速度が上がった。
再びエレクターと呼ばれたバックパックが大きく変形し、巨大に展開された。
その後方からは白味の強い青白い光を瞬かせながら轟音を出している。
(この形態!あの時メイトンから潜水艇で逃げてた時、カスミがベクターの足止めをしてた時の形態だ!つまりそれって…)
“今カスミは本気を出していると言うことだ。”
“何か”わからないけど“何か”マズい事はわかる。
「カシュミしゃぁぁぁぁぁん!!!私達どうなっちゃうんですかぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
少女漫画みたいなセリフが少し先も見えない薄暗い空間に響いた。
「喋るな!舌を噛むぞ!!!」
「なんてロマンスが無いんだぁぁぁぁぁあ!!!」
私が叫んだと同時に狭い通路の方向から轟音が聞こえてきた。
——————ギャァァァァァアァァアァイ!!!!
その轟音は人々の悲鳴を模った様な音をしており、酷く耳を塞ぎたくなった。
「始まったぞ!!!エウレカの英雄譚“聖天”だ!!!」
「カスミ!!!エウレカって英雄譚叛逆だけじゃなかったの?!」
「あぁ、英雄譚叛逆は元々英雄譚“聖天”の派生に過ぎんからな!!!あっちが本家だ!!!」
——————ギャァァァァァアァアァァァァァアァァァァァアァァァァァアァァァァァアア!!!!!!
瞬間、狭い通路の方角が騎士で埋まった。
自分でも何を見ているのか、何が起きているのかわからない。
連鎖的に増え続ける白い騎士が後ろから急速に迫る。
「ねぇ゛ーーーーーーー!!!!!!」
「マズいッ!!!巻き込まれるッ!!!」
「ウギャァァァァァァァア!!!」
私とカスミはは迫り来る大量の白い騎士に埋もれた。
———————————————#####
「チクショウッ!誘拐されながら見た景色しか覚えてねぇからトワイライトの場所が大体しかわかんねぇ!!!」
ツグネはロイヤーの手のひらで地団駄を踏んだ。
そもそも誘拐された事ある場所っていうのもおかしい話だ。
「…でも、ロイヤーが迷う様子なく進んでるって事は連れてってくれんのか…?おい、ロイヤーほんとに大丈夫なんだろうな?」
——————ブォォォォォォッ。
ロイヤーと共に風を切る音しか聞こえて来ない。
まぁ返事がないって事はそーだよな。
まぁ、うん。
そりゃそーだよな…。
——————ドゴォォォォォォォッン!!!
少し遠目に爆破音が複数聞こえてきた。
ネネが死んだのか…はたまた別の誰かが死んだのか…?
そんなこと知るよしもないが、ただならぬ謎の罪悪感だけがツグネを蝕む。
「チクショウッ…なんで俺罪悪感感じてんだ!巻き込まれてる側だぞこっちは!!!」
途端、ロイヤーを貸してくれたエヴァンテの姿が脳裏によぎった。
都市の目的に俺の目的それぞれが噛み合って俺はこの場に立っているのだ。
「…俺も周回移動都市を利用してドーベル•ランから逃げるって目的がある以上巻き込まれってのは無責任か…。」
その時、五機の内、前方のロイヤーが音を立てて盛大に爆発した。
——————ドガァァァァァァァァア!!!
「ッ?!?!」
俺はその爆風に身を屈めた。
その瞬間さっきまで自分の頭があった位置にレーザー光線が走った。
——————ジュュュュッン!!!!!
「ぐぉぉぉッ?!?!」
ツグネを掌に乗せたロイヤーは頭のコックピットをバカッと展開させ、半ば無理矢理な形でツグネをそこへ放り込んだ。
「何だッ?!きっしょ!クリオネの口かよッ!!!」
——————ドスンッ!
激しく放り込まれたが故に何かと背中が激突した。
「痛ッ!!!!てか、ここコックピットかよッ!!!!最初からここに入れろやァァァァァアあ!!!」
——————ゴォォォォッ!!!
コックピットの内は瞬時に液体が注水され始めた。
「んだこれッ!?」
時間に起こすと約2秒程だろうか。
瞬間的に注水された液体に対し、俺は一息分の空気を肺に入れる事しかできなかった。
あっという間にコックピット内は液体で満ちた。
もちろんエアポケットの一つもない。
(クソッ、ァァクソッ!!!何なんだチクショウ!!!)
瞬きする間に激しい衝撃がコックピット内に響いた。
——————ゴォォォォォォォォォォッン!!!
暗かったコックピットに色がついく。
——————ヒュュュュュッン!!!
(これは外かッ?!)
まるで自分がさっきまでいた空に居るかと錯覚するレベルの画質がそこに映し出された。
外には自分の乗っているロイヤー以外のロイヤー3機が謎のスフィア一機と激闘を広げていた。
(また奇襲かッ?!)
敵機は一機。
その機体は黒かった。
その時点でツグネは察した。
(222の手先だッ。)
しかし、俺がまだ生きていると言う時点で222ではないと実感した。
(222はやはり、さっきネネが立ち向かって行ったクソデケェ正方形のアレなのか…。いや、そんな事より…もう息が続かねぇ…。)
次の瞬間揺れが激しくなった。
外を見れるモニターは激しく回転し、もう落ちているのか上がっているのかもよく分からない。
流石に死んだと思ったその時、俺はコックピットから勢いよく弾き出された。
——————ガシャンッ!!バシャァァァァッン!!!
まず、自分と共に飛び散る水が目に飛び込んできた。
その後、綺麗な空と海が見えた。
遠すぎて見えないが多分、波に太陽光が反射してるからキラキラ海が光っているのだろう。
(あれ…俺何でこんな事考えてるんだ…?)
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!」
ロイヤーから投げ出された俺は“自由落下”していた。
何がどうなっているのか、一体俺は何と戦っていたのかもわからないまま何かに激突した。
——————ガッ!!!
硬い壁に激突したツグネの視界がグニャッとブレた。
ブレる視界にさっきまで自分自身が乗っていたであろうロイヤーが映った。
あぁ、俺は俺と共に落ちているロイヤーの部品にぶつかったのか。
それを理解した瞬間、意識が消失しそうになる。
「チ゛へ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェ゛ェ!!」
俺は叫んだ。
意識を消失させない為、フブから教わった気合いの言葉を口にする。
あん時は“そんな訳あるかッ”と聞き流していたその言葉。
今はその言葉が俺の思考を単一化し、意識を保つ事だけに集中できた。
「チ゛へ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェ゛ェ!!」
2回目で完璧に意識が戻った。
俺は状況を把握する為、頬で風を切りながら周りを見渡した。
•空を落ちている俺。
•乗ってたロイヤーがボロボロになって少し遠くで落下している。
•撃墜されたロイヤーの部品が散らばっていて、次いつ俺とぶつかるかわからない。
•そして俺に向かって一機の黒いスフィアが飛んで来ている。さっき前方のロイヤーを落していたスフィアだ。
ロイヤーとて弱くはない。
ラウンダーかネームドパイロットレベルでやっと渡り合える様なレベルで自動迎撃型スフィアの中で随一レベルに強いとエヴァンテから聞いている。
それが今222の手先と思われるスフィアに一瞬で迎撃された。
「ぁぁぁぁぁぁぁあ!!!チ゛へ゛ッ゛ト゛ス゛ナ゛キ゛ツ゛ネ゛ェ゛ェ゛ェ!!」
あまりの詰みな状況につい3回目チベットスナギツネが入った。
上は無数のミサイル群、下は再び強い敵機。
これロイヤー使っても都市の偵察なんてできねぇんじゃねぇのか?
「大概にせぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
俺の中の何がブチッとキレた音がした。
するとその時、
——————フワッ。
俺の肌に温かい感触が伝わってきた。
それはまるで冷えた冬に被る羽毛布団の様だった。
そのフワフワは俺の落下する体をガシッと抱擁した。
——————『凄くピンチにささっと登場ネ!!!』
「デカケモ!!!!!」
いつか見たトカゲの様な生き物に乗ったデカケモは自由落下するロイヤーの部品を足場にし、器用に周回移動都市の壁まで進み、その中へ避難した。
その甲斐あってか、ロイヤーを撃墜した敵機がこれ以上追ってくる事はなかった。
ヴェルサイユ(略)抑制国際法はセネカの母レイ、父ミルが作りました。
めも、お前に天下は早すぎた。




