〔第66話〕愚か者
エヴァンテは私〈わたし〉じゃなくて常に〈ワタクシ〉と仰っていられますわん。
ついでに、ケモ化はギアではありません。
エヴァンの街、エヴァンテの教会の近くの軍庫にて、迎えに来る死をエスコートする為、ネネは準備を進める。
「…久しぶりに見たわね。フルオーダーのスフィア。」
ネネは特殊なスーツを纏い、そのスフィアを見上げる。
35m級。
その全身を装甲で覆い、背中には本体より遥かに巨大な武装が積まれている。
「ふんっ。まるで山を背負うカタツムリね。」
そのスフィアの名は…【Deluアニマ】。
大きな戦場になればなるほど必ず使うと言ってもいいネネの愛用機だ。
ネネはそのスフィアにゆっくり近づき、つま先の硬い装甲をトンッと手のひらで叩き、語りかけた。
「貴方も可哀想ね。でも、貴方を1番に理解できるのは私なんだから。ちゃんと最後までチカラ貸してよね。」
その言葉と共にスフィアの目がギラッと光った。
——————《ラウンド-ネネ-フルオーダー完了。カウンターセントラル…完了。搭乗待ち状態へ移行します。》
軍庫に機械音声が響き渡る。
その次に司令室からの放送もなった。
——————『ネネ様。今回ご要望でしたカタパルトの準備が整いました。コックピットにて待機をお願いします。』
ネネはその声に返す様に無言で片手を上に上げた。
———————————————#####
【こんにちは動物の皆さん。ゲロゴミのお前らに名乗る名前なんてないけど…そうね。“セカンドオーダー”とでも呼んでちょうだい。】
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
「ツグネ。今から貴方は比較的安全な場所で様子見をして貰います。」
「は?テメェ何言っ…」
「貴方が途中で死ねば“途中までしかわからない状態”でやり直しする事になりますわ。それは今1番避けるべき選択肢だとは思いませんか?」
コイツ、流石5000年生きただけはある冷静だッ…。
「…安全な所から周りの状況が伺えんのかよ。」
「護身と貴方の隠密行動の為、私のロイヤーを数機お貸ししますわ。それらを駆使し、戦いの最中222に見つからない様、各地を偵察して下さい。」
「……わーたよ。」
正直このサイコ野郎の言う事を鵜呑みにするのはかなり癪に障る…。
が、言ってることは合理的だ。
それに…
「お前、今回記憶持ち越す気ないんだな…。エヴァンテ。」
それを聞きエヴァンテはツグネに仏の様なスマイルを向けた。
「はい。貴方だけが知っていればいいのです。この都市の終焉も、私がセルフレリアを殺した事も。」
「…せこいな。」
「きっと次の世界で私はセルフレリアを殺した事実を覚えていません。ですが…。いいえ、はい。なので私を存分に卑下して下さいまし。」
「…だから、セコイっつってんだよ。俺は次の世界になってもその事実をお前に必ず話す。お前はその罪から逃れられねぇよ。」
「ふふっ。優しいのですね。」
「チッ…お前…イカれてるよ。何考えてんのか全くわかんねぇ。」
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
エヴァンテのその瞳に何が映り込み、何を考え、何を思っているのか、到底わからなかった。
「…わーたよ。じゃぁ今お前も大聖堂意外のやれる事ちゃんとやってくれよ。」
「文字通りこの命に変えても尽力致しますの。」
エヴァンテがツグネに向かってピッと指をさした。
——— 《「ロイヤー、ツグネを世界が終わるその瞬間まで守りなさい。」》
その瞬間、上空で待機していたと思われるロイヤー5機が急降下し、俺の目の前に着陸し跪いた。
——————ブォォォォォッン!!!
風圧がすごい。
巨大人型ロボット兵器なだけあって一挙手一投足の動きから命が握られている感じがする。
——————ゴシュュューーーン…。
その5機の内の1機が手のひらを低く広げ差し出してきた。
まるでここに乗れと言わんばかりだ…。
コックピットとかには入れてくれねぇのな…。
まぁ俺操作できねぇからあんま場所関係ないけど。
「…コイツらちゃんと俺の言うこと聞くのか?」
「えぇ、もちろんですわ。」
「不安だ…。」
「では、ツグネ。この世界では最後のご挨拶になりそうですが…」
エヴァンテはいつも通り俺に笑い掛け言った。
「次の世界の私によろしく下さいまし。」
「次の世界のお前には1発キツイのくれてやるから楽しみにしとけや。」
「行ってらっしゃいませ。」
その言葉が終わると同時に、俺を手のひらに乗せたロイヤー達が凄い勢いで飛んだ。
———————————————#####
風圧で瞼が開かない。
重たい空気の厚みが肌で感じられる。
まるで全身を空気という鈍器で殴られている様な感覚に近い。
——————ブォォォォォォォォォォォッ!!!
ジェットコースターに座席無しで乗っている様な感覚に俺は腰を抜かした。
——————ブォォォォォォォォォォォッ!!!
「ロイヤーァァァァァァァアッ!!!テメェ加減ってもんを知らねぇのかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
途端、ロイヤーは速度を急激に落とした。
——————ブォォォォォ…ン…。
その勢いで俺は慣性の法則で激しく尻餅を付いた。
痛いッ…!
「ゴラァッ!テメェッ!!!俺の背骨が折れてない事に感謝するんだなァ!!!」
怒鳴りつけた後、冷静になった俺は今自分がいる位置に気づいた。
「鬼高けぇッ…。」
青々と広がる空には雲一つない。
隣に渡り鳥が飛んでいる優雅に羽を広げ…。
俺は恐る恐るロイヤーの手のひらからそっと下を覗いてみた。
そこにはエヴァンテの馬鹿でかい教会が砂粒に見える程の小さな街並みが広がっていた。
「エヴァンの街ってクッソ田舎だな…。」
何はともあれ…。
俺はこの都市が終わるその時まで迫り来る“死”から逃げなければならない。
さぁ、まずはどこに隠れる。
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————………。
鐘の音が鳴り止んだ。
先程まで動きのなかった222がとうとう行動を開始した。
大きな両手を前にグッと差し出した仕草をすると同時に何かを包んでいた両手を咲かせた。
その中から高層マンション数千庫分をまとめて縛り上げた歪な正方形が姿を現した。
そのままソレを墜落させればエヴァンの街なんて簡単に吹き飛ぶ程の巨大なそれが光沢し始めた。
——————【さぁ、思う存分望みなさい。愚か者。】
上空に響いた222の声を聞き俺は瞬時に思考を巡らせた。
末、俺はロイヤーに指示を出した。
「今すぐ急上昇だ!!!急げぇぇ!!!」
——————バシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
ロイヤーが指示どうり急上昇を始めた。
俺は風圧で背骨が折れない様にする為ロイヤーの手のひらに大の字の仰向けになった。
「俺もエヴァンテみたいにカッコよく手のひらに立ちたかったァァァァァァァアッ!!!」
そんな中俺は顎を上にあげ、222から放たれた超巨大な正方形に目を向ける。
すると、222の両手から放たれたソレが細かくガチャガチャと音を鳴らし、稼働し始めた。
これだけ距離が離れているのにその可動音がしっかり聞こえてくる。
——————ガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッガチャンッ!!!!!!
「絶対ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!!」
無数の何かが折り重なるその様子は恐らく現代の技術では再現不可能だろう。
本能が警鐘を鳴らす無数の開閉音が聞こえる。
——————ピカッピカッピカッピカッ。
一瞬、ゲーミングPCの様な光を正方形全体にビリッと走らせた後、正方形のソレはキラキラと光を反射し始めた。
「…ん。なんだ、?」
ツグネは一瞬ソレが何かわからなかった。
「まさかまたレーザービームとか言わねぇだろうな!」
今日の午前に見た駆逐艦瀬音夏の影響で無意識にレーザー光線的な物が来ると予測したが違った。
「……なんだ、これ。」
光っている。
俺は反射的に身構えた。
レーザーか?
午前に見た駆逐艦……瀬音夏。
あれと同じような攻撃なら、まだきっと次の世界で対策できる。
そう思った。
だから。
次に見えたものが何なのか、理解するのに一瞬遅れた。
「……は?」
正方形の表面が開いた。
一つ。
二つ。
十。
百。
……いや。
数えるという行為そのものが馬鹿らしくなるほどの穴が、一斉に開いた。
「……ミサイル?」
「おい。」
「待て。」
「待て待て待て待てッ!!!」
「おいッ、待て待て待てまてまてまてまてまてッ!!!」
222の手の中から現れたソレは天文学的な量のミサイルを放った。
「嘘だろおいッ!!!」
正方形から継続的にミサイルが放たれる。
超巨大な色のない花火が空の青を完全に覆う頃、正方形はその動きを止めた。
そして空から青が消えた。
「…………」
何だ、これ。
空が……見えない。
ミサイルが多すぎて、空そのものが埋まっている。
これを見て。
どうやって勝てっていうんだ。
——————キュゥゥゥッッッッッッッ!!!!
天文学的な数のミサイルが放つ鋭い音がツグネの耳に届く頃、もう遅い…。
音速より速いミサイルは光だけの情報を残し、生者に襲い掛かる。
「クソッ!!!」
ツグネは死を覚悟したが、正方形からだいぶ距離がとれていた事と、急上昇した事で幸か不幸かギリッギリ上空から放射状の線を絵描いて落ちてくるミサイルを交わせたらしい。
——————キュンッ!!!
鋭い音がツグネの耳を刺激する。
ソレと同時にツグネの耳から血が垂れる。
クソッ衝撃波で耳が逝かれちまったか…?!
しかし、次に鳴った爆音で鼓膜が破れていないことが確認できた。
——————ドゴォォォォォォォォォォォォッン!!!
天文学的な数のミサイルが地上へ着弾していた。
都市の地上は全面的に煙に塗れ、その地面の木々達が持つ緑すら見えなくなっている。
え…?
負けたのか?
は?もう、?
この1回目の攻撃のミサイル群でか?
は?
は?
煙の中から、何かが飛び出した。
一機。
たった一機。
背中に山を背負ったような、異様なスフィア。
その機体は迷うことなく空へ駆け上がっていく。
ミサイルの雨の中を、真っ直ぐ222へ向かっている。
その機体のコックピットでは——————
ネネが静かに目を開いた。
「……さぁ。」
ネネは操縦桿をギュッと握る。
——————《Delu Anima——戦闘モードへ移行。》
そのスフィアは一切速度を落とさず、数キロ先の巨大な正方形へ向かって飛んでいく。
俺は目を凝らした。
背中に山ほど積まれた武装。
あんな馬鹿みてぇなカスタムをする奴なんて、そう何人もいるわけじゃねぇ。
……いや。
この状況で、あんなスフィアを出してくる奴は———
「……ネネか?!」
「いやいや、無理だろッ!」
敵がデカすぎる。
あの正方形、多分、数キロはあるぞ。
対してネネのスフィアなんて、武装込みでもせいぜい数百メートル
あんなもん、どうやって相手にする気だよ?!
核持って自爆でもする気か?!
「ロイヤー!とりあえず地上は危険だ!またいつあのミサイル群が来るかわからねぇ。今は地下に潜んぞ!」
——————ブォォォォォォォォォォォッン!!!
ロイヤーは俺の指示どうり急降下を始めた。
そうだ、地下に行けばいい……。
いや、待て。
地下にはバケモンとゾンビがいる。
クッソ……。
俺にソイツら捌きながら潜伏できる自信はない。
どうする。
地上で誰か戦える奴を拾うか?
いや……ダメだ。
戦闘員はほとんど戦いに出てる。
しかも、さっきのミサイル群でその数もかなり減ったはずだ。
じゃあ、どこに行く。
…………。
その時、頭の中に一つの場所が浮かんだ。
——————あのケモ達が暮らしていた場所…。
……いや。
あそこも今や安全じゃない。
教会に報告に来たあのシスターも言ってたじゃねぇか、あそこでは今、カスミ達がメイトンと戦ってるって。
でも———
そうだ。
「安全じゃなくていい。今いる場所よりマシならッ…。」
一人で地下を這い回るより、生き残る可能性があるなら。
「……ハッ。」
思わず笑った。
「あんじゃねぇか。」
俺は急降下しているロイヤーの手のひらで片膝をたて上半身を起こした。
「目的地は……」
「トワイライト5000だ!!!」
エヴァンテとエヴァンの街って表記ややこしそう。
エヴァンの街はエヴァンテの名前から取られてるからまぁ当た
り前ではあるんですが…。
【熱を帯びた一輪の花は美しいのよ。ほら、灼ける様にね。】




