〔第65話〕こんにちは動物の皆さん。
動きのない場面が続いてしまって誠に申し訳あります。
「テメェが過去に大量殺戮したって事実に説得力が出たな。」
「セルフレイリアは私にとってかけがえのない存在です。ただ、“相手を信頼するという無責任な行為は痛みを持ってあがなわれましょう。”」
その言葉はセルフレリアに対してなのだろうか?
それともセルフレリアを殺した自分へ対してだろうか。
「行動と口がずれ過ぎてんだよ。そんな方便通じると思うのか。」
「セルフレリアも専属護衛としての道具として割り切っている事に違いは有りませんの。」
エヴァンテは悪気なく言い切った。
そこに悪気はあったのかもしれない。
5000年間もの間、人は命を燃やし続けたらこんな極端な思考に割り切る様になるのだろうか。
俺はそんな事を考えつつもエヴァンテの言葉に返さない。
「人ならざるチカラを持って生まれたとて、所詮人の器で収まっていたということなのでしょう。」
コイツは何を言っているのだろうか。
自分を慕う部下の信用を利用し、その部下を自分の手で殺しておいて“人の器で収まっているからダメ”なのだと説教を垂れるコイツに言いしれぬ嫌悪感を抱いた。
すると、その時…
——————ゴーーーーッン!!!
周回移動都市の空から鐘の音が一回強く鳴った。
その一回の鐘の音色がビリビリと肌を刺激した。
222襲来まで後、数時間ぐらい余裕があると思っていたけど、実際はそうではなかったらしい。
222襲来のタイミングが1回目の時とは大きく違う。
これも駆逐艦の奇襲を奇襲した事によって変わった未来なのだろうか。
そして一回の鐘の音、それが意味するところは222の出現がヴェルサイユによって確認されたという事だ。
つまり、222本体がこの世界に足を踏み入れたという事になる。
やはり222の本体は兎達の国で飛行艇相手に暴れ回ってたあの黒いロボットじゃなかった。
「…こっちはこっちで1回目の時より随分お出ましが早くなったじゃねぇか。」
でも、空を見た感じ今までと何ら変わらない綺麗な空、快晴だ。
まぁ、俺が222の立場になってもいきなり本番を始めたりしない…か。
準備運動とまではいかないものの、少しだけ様子を見てから始めるつもりなのだろう。
そんなもんだと思っておこう。
「…もう…いい…時間がなくなった。それで、さっきの続きだ。お前のギアについて話せ。もしかしたらそれが次につながるかもしれねぇ。」
今は次につながる手札の数を増やしておきたい。
エヴァンテは鐘の音にピクリと反応した後、何事もなかったかの様に、けろっとした表情で話を続けた。
「私のギアは自己を再生させる物です。これに関しては周回移動都市民ならば誰でも知っている事です。そして、これから話す内容が今回最も機密性の高いトップシークレットですの。」
俺は相槌を打たない。
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
都市が大きく揺れた。
きっと下でメイトンが暴れているのだろう。
しかし、俺もエヴァンテもそれに触れない。
「この都市には獣人なるものが存在致します。なぜ彼らは存在していると思いますか?」
俺は質問に答えない。
「…。」
「ケモノはゾンビにならない。ケモノは身体能力が高い。これがこの都市の一般教養です。」
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
「…。」
「しかし、それとは大きく違う特性が発見されたのです。その情報は私以外誰も知りません。理由は話すと長くなりますので今は省きますわ。」
「…。」
「ケモノはギア持ちと長期間接することによってそのギアを一部模倣することができます。」
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
「…。」
「その証拠に見ていて下さいまし。」
そういうとエヴァンテはティーテーブルから2歩ほど距離を離した。
そして…
——————バサァァ!!!
エヴァンテの背中に大きな翼が生えていた。
俺はそれを見てセルフレリアの翼を連想したが、エヴァンテのそれはセルフレリアの翼と似ても似つかぬ翼だった。
セルフレリアの様に純白の白い翼ではなく、エヴァンテのは翼はドスグロの黒色だった。
さらに両翼のセルフレリアと違いエヴァンテは肩翼しか生えていない。
細かいことを言えばセルフレリアの翼より、何だかボリュームが足りない様にも感じる。
さながら不完全な翼といったところだろうか。
ん?
…いや、
それはそうとして。
そうなるとだな…
そうなるぞ。
なぜエヴァンテはセルフレリアのギアを模倣できている。
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
「エヴァンテ、お前まさかケモなのか。」
エヴァンテは常日頃から特別なことがない限りシスター服をその身に纏っている。
顔以外を常に隠しているからこそ耳と尻尾を自然に隠し通せているのかもしれない。
いやでも待てよ。
思い出したぞ。
コイツ、俺と最初に会った時、昭和アニメで出てきそうな程ベターな白いワンピース着てたぞ!
そん時、コイツの頭にはケモ耳なんか付いてなかったぞ。
尻尾はスカートの下に隠せたとしてもあの状況では完全に耳は隠せねぇだろ。
「四使の能力をこの体に模倣させる為、わざと獣化しました。それに伴い獣化した自身の近くに四使であるセルフレリアを置いておりましたの。」
…実際問題トワイライト5000にいる時見たケモ達は各々ケモ度合いが違っていた様にも思えるが、どれも全員ケモらしく皮膚からもふもふとした毛が生えていた事に変わりはない。
「…お前の顔、全然つるつるじゃねぇか。」
「獣化していることがバレない様に調整しているのですわ。それと…」
エヴァンテは己の身に羽織っているシスター服をはらっと脱いだ。
「大号令発令時その代償として体の一部を欠損。そして己のギアでその負傷を回復させる。すると獣化の影響で耳と尻尾が生えてきますの。そして私は毎回それら自らを削ぎ落としていますの。」
エヴァンテがシスター服を脱いだことで、なぜアイツが血の溜まったバケツを浴びた様な見た目になっていた理由がわかった。
エヴァンテの頭のてっぺん、ケモ耳のついていたであろう場所の付け根が赤く、傷口の断面が丸出しになっていた。
頭のテッペンに近いケモ耳の付け根を切断すれば、そりゃ大量の血が噴き出るだろう。
せめて包帯かなんか巻いとけよ。と思ったが、エヴァンテは自身のギアで出血だけを抑えたり出来るのだろうか?
実際問題、今傷口が剥き出しになっている状態でもピタッと出血できている事からそれが可能だと考える方が妥当であるだろう。
あ、もしかして、止血までに少し時間が掛かるからその間、姿を見せない様にしていたのか。
結局姿を見せたのは今の世界がなかった事になるからだろか。
そこら辺はもう割り切ったという事なのだろうか…?
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
「ん?ちょっと待て、ケモは生まれながらにしてケモなんじゃねぇのか?まさか、人間をケモにさせるもんが…?」
「ご察しの通りですわ。しかし、それらの話をしていたら流石に時間が足りなくなってしまいますわ。なので、今回は私が血だらけになっていた理由と私のギアについてだけ端的に説明させていただきました。」
つまり、トワイライト5000で見かけた彼らの先祖はケモにされた人間だったっていうことか…。
…そんで、エヴァンテが自身をケモ化しているって事が世間に知られれば……さぞ荒れるだろうな。
どうして荒れるかの具体的な理由はわからないが、何となくわかる。
にしても、ケモ化させる方法があるって事にもそれを調整できるってのにも驚きだ。
そんな方法があるならトワイライト5000の奴らを色々助けてやればいいのに…いや、アイツらは…。
まぁいい、きっとそこには複雑な事情があるのだろう。
「…エヴァンテ、本題に戻るぞ。」
「はい。」
「222が“やり直し”を知覚してる可能性が高い。だから、次から迂闊に“やり直し”できない。絶対勝てるはずだったこの戦いにおいて負けの目が出てきた。」
「ふふっ。うふふふふっ。」
急にエヴァンテが鈴を転がした様な声で笑いだした。
さっきまでの出来事がなければちょっと頭頂部にえぐ目の傷がある普通の女の子に見えたが、今は到底そうは思えない。
「…んだよ。なんかおかしい事言ったかよ。」
「私ってば、随分能天気な考えしかできなくて自分で面白くなってしまったのですわ。ふふっ。だって、どんなに酷い状況に陥ったとしても貴方が負けるイメージが湧かないのですもの。」
「まだそこまで追い込まれちゃいねぇけどな。…てか、それはお前自身が負けたことがねぇからじゃねぇか。」
「あら、そんなことございませんのよ。私は幾度となく世界から敗北という贈り物を頂いておりますわ。」
「俺が負けねぇってか?お前さっきの話聞いてたか?」
「えぇ、もちろんですの。」
「なら…」
「しかし、巻き戻る世界を222に知覚されたとしても、貴方が負けるはずがありませんの。」
——————ゴォォォォォォォオオオッンッ!!!
「それは贔屓が過ぎるんじゃねぇか。」
「ふふっ。そうかもしれませんね。」
「…そんなことよりお前、用意しなくていいのかよ。」
「…?何の事ですか。」
「…言ってたじゃねぇか。開幕早々222本体に“大聖堂”撃ち込んでやるって。」
「222に“やり直し”が知覚されているかもしれない以上、大本命の手札を迂闊に見せびらかすのは悪手ですわ。」
「…そうだな。」
エヴァンテのその言葉の意味する所は、“本番以外では使わない”という事、とどのつまり…まぁそういうことだ。
それでも尚、エヴァンテは勝つまで“やり直し”するつもりなのだろう。
その時、少し向こう側の遠い空から轟音が鳴った。
——————ギィィィッッッ!バキバキバキバキッ!!!
何が引き裂ける様にバキバキと、またはミシミシと鳴った。
そして、その轟音と負けないレベルのdb数を誇り、我が周回移動都市の鐘の音も己を主張し始めた。
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
そして空から目に見えるほど大きな空間が開いた。
まるでビニール袋が無理やり引き伸ばされたかの様な見た目で酷く頭痛を誘発する様な音を絶えず鳴らしている。
——————バキバキバキバキッ!!!!
「なッ…んだよ…アレ。」
次に、その中からゆっくりと超巨大な上半身が出てきた。
その姿は豪勢な服を何枚も重ね着している様な印象も受けるし、逆にそれ全部一つの何かの様にも見える。
それらの上半身が下を向いて胸の前で指同士を絡め合わせ、まるで何かを祈ってる様なポーズをしている。
「…アレが222ですか。」
開いたその大きな空間から悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴は世界の老若男女を捻り潰し、ぐっちゃぐちゃに混ぜてから人匙の憎悪を加えた様な音色を発していた。
カオスの具現化とでも言えばいいのだろうか。
ほとんどは言葉として成立していないその中にも時々、聞き取れる単語がある。
「貴様ァ!」や「邪魔だ死ねッ。」、「どけぇ!」、「私の物だァ!」など…。
しかし、その言葉達はどれも目を細めれば黒く濁った粗悪な背景が透けて見えそうだった。
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
空間から聞こえてくる悲鳴とは真逆に、異空間から姿を現した巨大な上半身がしっかりと意思を持って言葉を発し始めた。
【こんにちは動物の皆さん。ゲロゴミのお前らに名乗る名前なんてないけど、そうね。“セカンドオーダー”とでも呼んでちょうだい。】
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
——————ゴーーーッン!!!ゴーーッン!!!
空に響く女の声は傲慢と蔑みに満ちていた。
次回、動きが…ある!!!




